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「ボーイズラブ」は不良文化? 中国政府がゲームを厳しく取り締まるのはなぜか?

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

9月8日、中国共産党中央宣伝部などはオンラインゲームを運営するテンセントや網易(ネットイース)などのゲーム運営企業に対して、「未成年がゲーム中毒になることを防ぐように措置を講じること」を強く指示した。中国メディアが報じたものだ。

その中には「誤った価値観や違法な内容を含むコンテンツ」、具体的には「わいせつで暴力的」「血まみれの描写」「女のような男性(ボーイズラブ、BL)」などがあり、それらを「断固排斥するように」とあった。

違法行為をした企業は「今後厳しく取り締まる」としており、オンラインゲーム会社は戦々恐々としている。

これに対し、中国の微博(ウェイボー)などSNS上でも、早速、若者たちから激しい反発の声が上がった。

「中国のゲーム、死んだね……」

「不良文化?どこが!?」

「取り締まりの対象がもっと拡大するのではないか?」

「上に政策あれば下に対策ありだな(抜け道はきっとある)」

などのコメントだ。日本のメディアで9日に大きく報じられたことも中国のSNS上で指摘している人がおり、日本語メディアを引用しつつ、「日本でも中国のBL規制の話題が盛り上がっているみたい」「日本でもこの問題にすごく関心が高いようだ」などといった書き込みもあった。

中国メディアでは情報統制されていて報道されていない部分があり、そのため日本など海外メディアをチェックして確認した人もいたようだ。

具体的に今後どのような表現が不可となるのかはわからないが、厳しい処分があるという時点で、中国のゲーム産業が方向転換を迫られることは必至だ。

未成年者は実名登録制に

ここ数年、中国ゲーム業界は大きく躍進してきた。ゲーム人口は約6億7000万人といわれており、世界最大のゲーム市場となっている。昨今は国内にとどまらず、日本にも中国製ゲームのファンは増えている。

だからこそ、日本でもこのニュースに対する関心が高いのかもしれないが、しかし、このところ、政府の社会全体に対する「統制」ともいえる動きが加速しており、サブカルも含め、今回の件もその一環と見られている。

8月末に発表された未成年者のゲーム時間の制限もそのひとつだ。

従来は平日1時間半、休日は3時間までとなっていたが、今回、「18歳未満がオンラインゲームをするのは金、土、日と祝日の午後8時~9時のみ」という内容に変更となり、有料アイテムの課金の上限も規定するなど規制を強化した。未成年者はログインする際に実名とID番号登録もしなければならなくなった。

政府は「青少年の学習や心身の健康に(ゲームの)悪影響があり、保護者が不安を覚えているからだ」というのをその理由としており、ゲームを「精神的アヘン」と呼んでいる。実際、保護者たちからは「この規制に関しては賛成だ」という声も上がっている。

日本でもよく知られているように、中国の子どもは長時間の勉強を強いられる日常生活を送っているが、休憩時間になると、途端にゲーム漬けとなる子が多く、「勉強とゲームだけ」という不健全な二極生活を危惧している大人たちは少なくなかったからだ。

しかし、「女のような男性」など「ボーイズラブ」を彷彿とさせる部分に反応した人も多く、若者の中には「人生の楽しみがなくなってしまった」「どこがいけないのか?」と残念がる声も大きい。

中国から盛り上がるBL市場

中国ではゲームのみならず、数年前からBL小説などBLを扱うコンテンツは大人気だった。BLは中国語で「耽美」「少年愛」「BL」などと呼ばれており、中国のBL小説『魔道祖師』を原作としたアニメは日本でもファンが非常に多い。

ブロマンス(bromance)時代劇ドラマというジャンルで呼ばれる『陳情令』や『山河令』などの作品も人気となっており、中国発の「BL市場」は急速に盛り上がっている。

だが、中国では、多様性を認める世界の方向とは逆行するように、LGBT(性的少数者)などに関しての理解はあまり進んでいない。今年、LGBTの権利を訴える学生団体のSNSアカウントが凍結されるという問題も起きており、規制が強化されるのではないか、という懸念は以前から広がっていた。

オンラインゲームに関しての規制強化はあくまでも「誤った価値観や違法な内容を含むから」という理由であり、BLだけを対象としたものではない。だが、「女のような男性」について、政府が目くじらを立てているのは、「伝統的な中国的価値観」と相反する方向へ向かおうとする今の中国社会の風潮があるからではないか、と考えられる。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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