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中国の最強卓球ペアが負けた瞬間 中国メディアは厳しい報道をするも、SNSでは真逆の反応が……

中島恵ジャーナリスト
卓球混合ダブルスの決勝戦(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 卓球混合ダブルスの決勝で、日本の水谷隼、伊藤美誠ペアが中国の許昕、劉詩雯ペアを下し、日本卓球史上初となる金メダルを獲得した。

 勝利の瞬間、水谷と伊藤は抱き合って喜びを爆発させた。試合後のインタビューで水谷は「この東京オリンピックで、今までのすべてのことをリベンジできたと思っています」と語り、伊藤も「すんごく、楽しかったです!」と満面の笑顔を見せた。

 中国メディアは厳しい反応

 一方、負けた中国ペアには、中国メディアから、容赦ない厳しい質問が飛んだ。

「大勢の国民が応援していたのに、なぜ勝てなかったのか?」

「敗因は何だと思うか?」

 これに対し、劉詩雯は「この結果を受け入れるのがつらい。チームに申し訳ない。実力が足りなかったと思う。皆さんに本当に申し訳ない」と涙を流しながら、やっと言葉を絞り出した。

 許昕も「皆が期待してくれていたのはよくわかっていた。競技においては結果がすべてだ。いちばん高いところに立った人だけが、人々の記憶に残る。チームにとっても、この結果は受け入れられるものではない」と肩を落とした。

 中国メディアの報道も2人の健闘を称えるものは少なく、厳しい内容だった。

「爆冷!卓球ペア、金を失う」

「恥の一戦だった。極めて遺憾だ」

「中国が日本に抵抗できず、金メダルを失った」

 厳しい報道の背景には、卓球王国・中国としての高いプライドがある。

 中国は卓球が1988年に五輪に正式種目になって以降、ほとんどの五輪の試合で金メダルを獲得してきた。2004年のアテネ五輪での男子シングルスで、一度だけ金メダルを逃したが、それ以来、中国選手が五輪で金メダルを取れなかったのは、今回が初めてだったのだ。

 しかも、中国ペアの許昕は2016年、リオデジャネイロ五輪の男子団体金メダリスト、劉詩雯も同女子団体金メダリストであり、2人は2019年世界選手権の混合ダブルスで金メダルも獲得していた「大本命」だった。そのため、中国メディアの期待も非常に大きかったのだ。

 しかし、そんなメディアでの厳しい報道とは裏腹に、中国人の個人が発信するSNSである微博(ウェイボー)や微信(ウィーチャット)を見てみると、報道とはまったく違う反応だった。

 SNSには温かいコメントがあふれた

 7月26日夜の試合終了後、ウェイボーのホットワードランキングには卓球についてのワードが多数並んでいたが、コメント欄を見ると、温かい内容が非常に多かった。

「2人は本当にすごいよ。銀メダルでも英雄だ!」

「2人は中国人の誇りです。結果がどうであれ、もう泣かないで」

「金メダルだけがメダルじゃない。この銀メダルも唯一のものだ。だから、ごめんなさい、なんて言わないでください」

「14億人の中国人の心の中では、あなたたちは永遠に一番です」

「どうか、自分を責めないで」

「まだ、これからも人生は続く。これからも2人を応援し続けるよ!」

 2人を責めるような内容はほとんど見当たらず、2人の健闘を称えるものが多かった。

 劉が「最後は彼ら(水谷・伊藤ペア)がすごくいいプレーをした」と語ったように、中国人のSNSでも、日本選手の実力を素直に認め、大接戦で見ごたえのある試合だったことを喜んでいる人たちもいた。

 以前の中国であれば、このように負けた選手を褒める、ということはあまり多くなかったかもしれないが、昨今では、匿名のSNSであっても、傷口に塩を塗るような厳しいコメントは減っている。

 中国メディアの報道は、建前上、厳しいものにならざるを得ないのかもしれないが、メディアや政府が取る「建前」と、中国人の「本音」は異なる。精一杯、全力を出し切った選手に、純粋に温かい言葉を掛けていることからもわかるように、中国人も変わってきている。

参考記事:

実はネイティブレベル 卓球・石川佳純の中国語 もちろん張本智和はバイリンガル

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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