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日本を愛した中国の指導者の一人 周恩来ゆかりの中華料理店は今も東京神田に

中島恵ジャーナリスト
周恩来の好物だった中華料理「獅子頭」(シーズトウ)(中国サイト「淘最厨房」より)

 7月1日、中国共産党の創立から100年となる中国では、北京の天安門広場を始めとして、各地で盛大な記念行事が行われている。歴代指導者たちの功績について紹介する番組も多いが、中国の歴代指導者たちと日本との縁は深く、意外と身近なところにもある。

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 日本との縁がとくに深かった1人は周恩来だ。周恩来は1949年の建国以来、国務院総理(首相)として「建国の父」である毛沢東を支え、中国のリーダーとして長年に渡って国の発展に尽くしてきた。

 中国で今も人気のある政治家として名前が挙がるのと同時に、日本でも彼の名は広く知られている。1972年の日中国交正常化の際、田中角栄首相(当時)と握手した中国の首相として印象に残っている人も多いだろう。

 しかし、彼が日本留学経験者で、知日派であるということは、日本では一般的にはあまり知られていない。

明治大学に通った

 周恩来は1898年、江蘇省の豊かな家庭に生まれた。しかし、幼い頃に叔父の養子となり、天津に転居。天津の有名なミッションスクール、南開中学で学んだ。

 その後、1917年に日本に留学。東亜高等予備学校(当時、神田にあった中国人のための日本語学校)で日本語を学び、東京高等師範学校(現・筑波大学)などを受験したが失敗。明治大学政治経済科(現在の明治大学政治経済学部)に進学した。

『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社)という本によると、周恩来が学生時代に住んでいたとされるのは、現在の千代田区神田神保町2丁目付近、台東区谷中5丁目付近、神田三崎町付近、中野区東中野5丁目付近などだ。安い下宿屋を探し求めて、点々としていた。

周恩来の行きつけの中華料理店

 日本に滞在中、周恩来はホームシックにかかった。周だけではないが、当時、清国から来日していた留学生たちにとって、日本料理は量が少なく、味が淡泊で、あまり口に合わなかったようだ。

 そこで、故郷の味を求めて、日本語学校や明治大学に程近い神田神保町、神田小川町などにある中華料理店に通うようになる。それは当時この界隈にあった『中華第一楼』や、現在は赤坂に本店を構える『維新號』(いしんごう)、『漢陽楼』などの店だった。

 とくに、現在も神田小川町に店を構える『漢陽楼』は故郷・江蘇省の料理を彷彿とさせる素朴な味わいの料理で、周恩来のお気に入りになったといわれている。

 中でも周恩来が好きだったのは「獅子頭」(シーズトウ)という料理だ。

 日本の中華料理としては馴染みが薄いほうなので、食べたことがないという人もいるかもしれないが、江蘇省のレストランはもちろん、上海で上海料理のレストランなどに行ってもよく食べる定番メニューの一つ。

 ネギやショウガなどを練り込んだ大きな肉団子を、スープとともに土鍋で煮込んだサッパリとした料理だ(現在、店によっては、照り焼きハンバーグ風の肉団子にして提供する場合もある)。

 同店では現在でも周恩来ゆかりの料理として看板メニューになっており、日本を訪れた中国人や在日中国人留学生、神田神保町の古書街などを訪れた日本人の間で人気となっている。

 余談だが、当時、神田には学校や書店が多かったことから中国人留学生が数多く集うようになり、現在の「すずらん通り」から「さくら通り」のあたりは、ミニ中華街のようになっていたようだ。

 前述の『維新號』という店名は留学生たちが名づけたもので、開店当時、夜な夜な集まっては、祖国の未来を語り合っていたというエピソードが残っている。ほかにも日本人が経営(中国人がコック)する中華料理店が増えていき、一時、神田には中華料理店が100軒以上もあったといわれている。

参考記事:

フカヒレ、チャーシュー、シュウマイ…なぜ横浜中華街には“圧倒的に”広東料理店が多いのか?

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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