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フカヒレ、チャーシュー、シュウマイ… なぜ横浜中華街には “圧倒的に” 広東料理店が多いのか?

中島恵ジャーナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 日本三大中華街といえば、横浜、神戸、長崎。中でも横浜中華街は規模が大きく、世界的にも有名なチャイナタウンの一つです。横浜中華街に行くと、メインの大通りから細い路地裏に至るまで、500店以上の中華料理店が並んでいますが、中でも多いのが広東料理店です。それはなぜでしょうか?

 横浜開港とともにやってきた

 横浜中華街発展会協同組合が運営する横浜中華街の公式サイトを見ると、ジャンル別に料理店の数が表示されています。多い順に紹介すると、広東料理が84、点心・飲茶が38、四川料理が35、上海料理が30、食べ放題が30、北京料理が12、台湾料理が11、福建料理が9、その他となっています(同組合に入っていない中華料理店もあります)。

横浜中華街発展会のウェブサイト

 同サイトでは、点心・飲茶は別ジャンルで数えられていますが、基本的には広東料理の中に含まれるので、つまり、圧倒的に広東料理店が多い、ということがわかります。

 中華料理にはさまざまなジャンルがあるのに、なぜ、広東料理店がとくに多いのでしょうか。その理由について、同サイトやさまざまな文献を見ると、以下の説明がありました。

 1859年(安政6年)、横浜が開港し、大勢の西洋人がやってきたが、彼らとともに来日したのが香港や広東省出身の買弁(ばいべん=商人や取引仲介者)や西洋人外交官の雇い人、職人などだった。中国の中でも南部の広東省は「華僑のふるさと」といわれるところで、海外に出ていく人がとても多い地域だった。

 このような理由から、横浜にやってきた中国人は広東省の出身者が多かったのです。

 その後、彼らはさまざまな職業に就くようになりましたが、中で最も多かったのが「三把刀(さんばとう)」と呼ばれる料理人、理髪師、仕立屋など刃物を使う3つの仕事。そのうち、料理人を中心に中華街に中華料理店が増えていきました。

 広東料理の特徴は?

 そもそも、広東料理とはどのような料理でしょうか。

 中国料理を大別すると、主に8つに分けられます。中国八大料理と呼ばれ、山東料理、江蘇料理、浙江料理、安徽料理、湖南料理、四川料理、福建料理、広東料理のことをいいます。

 日本では中国四大料理という分類をすることも多く、それは北京料理(山東料理の一つ)、上海料理、広東料理、四川料理です。

 広東料理は食材が豊富で、広東省から海外に出ていった中国人によって広められたことから、世界で最もよく食べられている中国料理といわれています。

 代表的なメニューとして挙げられるのは、フカヒレの姿煮や燕の巣のスープなどの高級料理、魚やエビなどを使った海鮮料理、オイスターソースなどの調味料を使った料理、点心(シュウマイ、えび蒸し餃子など)、焼き物料理(チャーシュー、子豚の丸焼きなど)などがあります。

広東料理の一つ、シュウマイ
広東料理の一つ、シュウマイ写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 日本最古の中国料理店の名は……

 横浜中華街で最も多い広東料理店の中で、代表的な存在といえば、「聘珍樓」(へいちんろう)と「萬珍樓」(まんちんろう)の名が挙げられます。

 聘珍樓のホームページを見ると、「日本に現存する最古の中国料理」とあり、創業は1884年(明治17年)。横浜は2009年に開港150周年を迎えましたが、その際、横浜開港資料館が制作した資料でも、聘珍樓の特集記事が組まれました。萬珍樓は1892年(明治25年)に創業した、同じく老舗中の老舗です。

 どちらの店も横浜中華街ではひときわ目を引く重厚な外観ですが、横浜中華街にはほかにも「菜香新館」(さいこうしんかん)や「中華菜館 同發本館」(ちゅうかさいかん どうはつほんかん)など、広東料理の名店が多数あります。

 近年、横浜中華街には食べ放題の店や、歩きながらスナック感覚で気軽に食べられる料理の店が増えてきて、足を運ぶ人々が、「ここは広東料理」「ここは上海料理」といった意識をあまりしなくなってきたかもしれませんが、横浜中華街で生き残ってきた老舗といわれる店のメニューを見ると、それぞれに特徴的な名物料理があります。

 これらの店では、創業以来、代々、広東省から腕のいいコックを招聘し、味を継承してきました。

 日本の中華料理は、中華街を中心とした広東料理系と、戦後に満州から引き揚げてきた人々からもたらされた東北料理系という、主に2つの系統を中心に定着、発展し、日本人の好みに合わせて次第に変化していったといわれています。

 これらに加え、日本独自の中華料理である「町中華」というジャンルもあります。

 また、この十数年の間には、新華僑(1980年代以降に来日した中国人)と呼ばれる人々が開いた新興のチャイナタウンが東京・池袋や埼玉県川口市などにできており、中華街の新しい歴史ができあがりつつあります。

参考記事:

日本を愛した中国の指導者の一人 周恩来ゆかりの中華料理店は今も東京神田に

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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