卵かけご飯を食べるのは世界で日本人だけ? 中国人、香港人に聞いてみると、実は意外にも……

日本人が大好きな「卵かけご飯」(写真:アフロ)

 日本人が大好きなご飯のひとつが「卵かけご飯」であることは、誰もが認めるところだと思います。海外でも卵かけご飯を食べる、という話はあまり聞きません。もともと生卵を食べる食習慣がないことと、海外では殻にサルモネラ菌が付着している場合があり、食中毒の危険性があるから、などといわれています。

日本旅行で覚えた「卵かけご飯」の味

 ところが、今年2月、農林水産省が発表した農林水産物・食品の輸出の中で、鶏卵の輸出が前年の2倍増となり、輸出先の9割を占めるのが、なんと香港だったことがわかりました。

 報道によると、「コロナ禍で内食需要が増えたこと」や「日本産の卵が受け入れられていること」が理由だそうですが、そうであれば、彼らは果たして「卵かけご飯」を食べているのか? なぜわざわざ日本産の卵を選んで食べるのか? ちょっと気になります。

 香港在住の40代の女性は、数年前から香港のスーパーで、わざわざ日本産の卵を買うようになり、家庭で「すき焼き」を作るようになったといいます。この女性は新型コロナが流行する前はよく日本旅行に来ていたそうですが、その際、東京・浅草にあるすき焼き料理店で初めて生卵を食べたそうです。

 最初はおっかなびっくりだったそうですが、食べてみたら「意外においしい」と思い、以来、生卵に対して抵抗がなくなったとか。日本の旅館の朝食でも、それまで一度も手をつけたことがなかった生卵をご飯にかけて食べるようになったといいます。

 この女性によると、「普通の卵は炒め物用、日本産の卵はすき焼きや卵かけご飯、親子丼など半熟で食べるとき用、と使い分けています」というから驚きです。日本でも使い分けをしている人はいるかもしれませんが、香港の人がそこまでこだわりを持っていると聞き、びっくりしました。

 ほかにも数人に話を聞きましたが、「香港のスーパーで生食できると宣伝していたから」、「香港の日本料理店で『すき焼き』に生卵がついてきたから」といった理由で、生卵を食べる人が増えているようでした。コロナ禍の影響で飲食店の閉店時間が早まったり、外食したりする人が減り、栄養価の高い卵を家庭で食べる機会が増えたことも関係しているといえそうです。

 香港からの訪日観光客はコロナ前の2019年には年間約229万人と、国・地域別で第4位(1位は中国、2位は韓国、3位は台湾)。人口比率からいえば、狭い香港からの訪日観光客は非常に多いということができ、それだけ日本食に親しみがある人がいることも、日本産の卵の購入につながっているといえそうです。

 実際、香港には沖縄県産の卵を使用した卵料理専門店(その名も『Tamago-En』(たまご園)という店)まであり、メニューには「卵かけご飯」(39香港ドル=約526円)や「親子丼」(78香港ドル=約1050円)もあるそうです。

中国人はまだ苦手意識がある?

 一方、コロナ前、訪日観光客が最も多かった中国ではどうでしょうか? 前述した農水省の統計でも、香港に続いて2番目に鶏卵の輸出が多いのは中国です。

 4年ほど前、日本に出張にやってきた北京出身の30代の男性は、日本企業に接待された「すき焼き」に冷や汗をかいたと話していました。高級すき焼き店に案内してもらったそうですが、生卵のドロドロとした感触に気持ち悪くなってしまったそうです。

「やわらかい牛肉やネギ、焼き豆腐などはおいしかったのですが、生卵だけはどうしても食べられませんでした……」と、その当時、男性は話していました。

 旅行者だけでなく、日本に何年も住む在日中国人に話を聞いても「日本食は大好きだが、あれだけはちょっと苦手」という声を多く聞きます。お刺身などはかなりの人が好きで、日本の居酒屋などにも行きますので、生の魚に抵抗があるわけではないのですが、「生卵が大好き」という中国人はまだ少数派な気がします。

 しかし、中国では急速に食の多様化が進んでおり、2~3年前にはあまり食べなかったものが突然人気になったりすることがよくあります。卵に関しては、中国のスーパーでは、かなり以前から日本の食品メーカーの生卵が販売されるようになっていました。

 以前は日本人駐在員やその家族などが「日本産の卵なら安心」と思って買っていたようで、日系のスーパーを中心に置かれていたのですが、2015年の「爆買い」ブーム以降、中国人も健康意識が高まり、日本産の卵を積極的に買うようになり始めました。

中国で爆発的に伸びている卵ブランド

 中には、香港の人と同じように「卵を生で食べたい」という人も出始め、そうした需要に応えるように、生食用の卵ブランドが誕生しました。

中国で生食用卵がブレイク、発売開始から半年間で売上高5倍のヒット商品に成長

 報道によれば、生食用の卵ブランドは「黄天鵝」(イエロー・スワン)という名称。貴州鳳集生態農業科技という企業が手掛けている卵で、中国の報道によると、創業者の馮斌氏はもともと鶏卵ビジネスを手掛けていたそうですが、2015年に日本旅行をした際、日本人が生卵を食べているところを見て衝撃を受け、中国でも生で食べられる安心・安全な卵を開発しようと決意したそうです。

中国で生食用として人気が出ている卵ブランド「黄天鵝」(中国のEC「天猫」サイトより筆者引用)
中国で生食用として人気が出ている卵ブランド「黄天鵝」(中国のEC「天猫」サイトより筆者引用)

 日本の養鶏を研究し、日本人の養鶏専門家の協力も得て、中国でサルモネラ菌の心配のない、生でも安全に食べられる鶏卵の開発と発売に漕ぎつけました。中国ではECサイトの「天猫」や「京東」などで販売されており、「生卵が大好きな中国人」を中心に人気が出ています。

 中国の鶏卵市場は約3000億元(約4兆6000億円)と巨大ですが、今のところ、「黄天鵝」のようなブランド卵は少なく、都市部をのぞけば、生みたての卵をそのままカゴやビニール袋に入れて無造作に販売しているところなどもあり、衛生面で問題がある業者もいるといわれています。

 中国で生卵を食べる人は、日本旅行の経験者や日本料理好きな人など、全体から見ればまだごくわずかで、基本的には炒めて食べることが圧倒的に多いのですが、食に対して貪欲な中国人ですから、今後は卵もブランド化、高級化していく可能性があり、近い将来、香港のように生で食べる人が増えることも予想されます。

 もしかしたら数年後には「卵かけご飯を食べるのは世界で日本人だけ」という私たちの認識も変わっているかもしれません。

参考記事:

香港人はなぜそんなに日本のイチゴが好き?香港人が中国産より日本産を選ぶ理由