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日本の正月飾りに興味津々?中国で“新暦”のお正月を祝う人が増えたワケ

中島恵ジャーナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

海外のスタイルに合わせて「新年快楽!」

 お正月といえば、玄関先にお正月飾りや門松を飾り、おせち料理を食べるのが日本人の風習だ。1月1日、午前0時を回ると、LINEなどを使って新年を祝うメッセージを送り合ったりする人が多いが、お隣の中国でも、近年は若者を中心に、日本や欧米と同様、“新暦”でお正月を祝う人が急増している。

 日本や欧米など海外に住む中国人や外国人と交流する機会が増え、中国国内に住む人々も、だんだん海外の影響を受けるようになって、長い間の習慣に変化が起きていることが要因だ。

 北京市で教師をしている友人の朱さん(42歳)も、1月1日の深夜、中国のメッセージアプリ「ウィーチャット」を使って、「新年快楽!」(新年おめでとう!)というメッセージと家族写真を私に送ってきてくれた。

 まだ北京は午後11時を少し過ぎたところだったが、日本時間に合わせて送ってくれた。ちょうど1年前も朱さんは新暦の1月1日の新夜にメッセージをくれたが、それ以前はそうしたことはなかった。他の中国人の友人たちも同様で(といっても、アバウトな中国人の場合、大みそかの午後に、早くもメッセージを送ってきてしまう人もいるが…)、この2~3年、明らかに新暦で新年を祝う人が増えてきていることは確かだ。

 朱さんに聞いてみると、「確かにそうですね。私の周りでも1月1日に祝う人が増えてきました。海外の情報がたくさん入ってきたことによる影響ではないでしょうか。中国国内に住んでいる中国人同士でも同じですよ。つまり、お正月は2回あるってことですね。私も日本やアメリカに住む教え子たちから新暦の新年のメッセージがたくさん送られてくるので、慣れてきました」と教えてくれた。

 ここ数年、クリスマスを欧米並みに祝う若者も増えて、北京や上海などでは、以前はあまり見かけなかったおしゃれなクリスマスケーキもたくさん売られるようになるなど、社会が激変している。はたから見ると驚くが、当事者である彼らにとっては、違和感はないようだ。

 日本でもよく知られているように、これまで中国のお正月は新暦ではなく旧暦で祝うのが一般的だった。「春節」と呼ばれているもので、通常、1月下旬~2月中旬くらいのことが多い。今年(2021年)は2月11~17日が公的な春節休暇(7連休)となっている。

 新暦のお正月休みというのは、基本的には元旦しかなく、中国の街を歩いていても、新暦のお正月に新年らしきものを感じることは、以前はあまりなかった(春節が1月下旬の場合は、春節が近いので、春節のための中国風の飾りつけは始まっていたが……)。

 しかし、中国人の海外旅行が激増した4~5年ほど前から意識が変わり、欧米や日本の風習を取り入れるようになってきた。とくに今年はたまたま元旦が金曜日に当たったため、企業や官庁は1~3日まで3連休となった。そうしたせいもあるのか、SNSを見ていると、中国でも日本と同じく「お正月気分」を満喫している人が多いようなのだ。

中国なのに、なぜ“日本風”の正月飾りを飾る?

 同じく北京市に住む別の友人、張さん(58歳)は昨年末、北京にある日系のイトーヨーカドーで日本風のお正月飾りを偶然見つけて買ったという。

 張さんは以前、日本に5年ほど住んだ経験がある。その当時、年末に日本のスーパーでしめ縄やお正月飾り、鏡餅を見かけて、「きれいなものだな」と感心したという。そのころは買ったことがなかったが、中国に帰ってから日本が懐かしくなり、今回、北京で初めて買ってみたという。

 報道によると、北京のイトーヨーカドーでは今年、新型コロナウイルスの影響で中国から日本に帰省できなかった日本人客などの要望にこたえ、日本のお正月用品を品揃えしたそうだが、同店の顧客の大半は地元の中国人だ。

 日本のお正月の風習を知らない中国人からすると不思議なものに見えるようだが、その友人によると、商品棚には、日本のお正月飾りの謂れについて、中国語できちんと解説してあったという。価格は40~70元(約600~900円)ほど。中国の春節に飾る真っ赤でハデな飾りものと比較すると地味だが、新暦のお正月に「とくに家に飾るものがない」と思っている人や、新しいもの好きな人にとっては興味深いものだったようだ。

 張さんはいう。

「マンションの玄関に日本のお正月飾りを飾ってみたら、隣人から『これ、何?』と興味津々で聞かれたので、説明してあげました。隣人は家族で日本旅行に行ったことがあったので、しげしげと眺めていましたよ。

 ここ数年は、日本のお花見に影響されて、中国国内でも桜を見に行く人が増えましたが、これからはグローバル・スタンダードに合わせて、中国でも新暦のお正月も普通に祝うようになるんじゃないかな。新年といっても、欧米にはこれといったものがないけど、日本のお正月飾りは珍しいし、きれいだから、SNS映えもすると思いますよ」

 この年末年始は新型コロナへの警戒で、北京市などが感染予防対策を強化していることや、大型連休となる春節を来月に控えていることなどもあって、この新暦の3連休に遠出をする中国人は少ないようだが、日本に興味がある人にとって、日本のお正月飾りが癒しになれば、ちょっとうれしい。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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