Yahoo!ニュース

「日式封城って効果あるの?」中国人が見た不思議な日本の緊急事態宣言

中島恵ジャーナリスト
緊急事態宣言が発布され、中国でも速報が流れた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 4月7日夕方、安倍晋三首相が東京都、大阪府など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。これを受け、世界各国でもすぐにニュース速報が流れたが、それは隣国・中国でも同様だった。

日本独特のロックダウン?

 中国のニュースサイトを見たところ、安倍首相や小池百合子東京都知事の記者会見の様子を淡々と伝えているものが多かった。また、日本のテレビ番組で紹介されるパネルの写真とともに、休業が要請される業種や、日本政府が取った緊急経済対策の内容なども、かなり詳しく解説していた。

 中国人のSNSでの反応を見ると、さまざまなものがあった。想定内のものとしては「日本もついにやったか。新型コロナウイルスは恐ろしい感染症だから、仕方がない」「日本もじわじわと感染者が増えている。気をつけてほしい」などがあった。一方、中国人の投稿や記事を読んでいて目についたのは次のような言葉だ。

「日式封城」(日本式ロックダウン) 

「仏系封城」(ゆるいロックダウン)

「日式」は中国語で「日本式の」「日本風の」という意味。中国では「日式拉麺」や「日式焼き肉」など、よく料理のときに使われる。「封城」は「ロックダウン」のこと。「仏系」は「草食系」のような意味。「ゆるい、淡泊な、穏やかな」などと訳されることが多い。

つまり、日本式のゆるいロックダウン、と訳したらいいだろうか。

日本では「緊急事態だが、都市封鎖ではない」

 日式封城!首相安倍晋三発布緊急事態宣言!(日本式のロックダウン!安倍晋三首相が緊急事態宣言を発布した!)

 このような見出しがたくさん掲載されていたのだ。だが、日本に詳しい中国人はすぐにこんな説明を付け加えていた。

 緊急事態≠都市封鎖 (緊急事態だが、都市封鎖ではない)

 そしてこれが日本式ロックダウンの特徴だ、というのだ。日本では緊急事態宣言が出されても、電車やバスは通常運行で、スーパー、コンビニへの買い出しもいつでも行くことができ、会社にも出勤できる。散歩や運動などの外出も問題なしだと解説していた。

 むろん、政府はできるだけ在宅勤務に切り替えることを「要請」したり、スナックやバーなどへの営業自粛を「要請」していることも伝えている。だが、基本的に多くのものは、日本では「要請」であり、「命令」や「強制」ではない。そして、驚くべきことに要請を受け入れなくても何の「罰則」もない、と書いてあった。

 確かにその通りだ。つまり、政府が緊急事態宣言を出しても、罰則がない限り、それによってどれだけの効力があるのか、と不思議に思ったようだ。

 だから「日式封城って、実際は効果があるの?」という声が多かった。

 中には「日本人は自制心が強いから、中国人みたいに強制しなくても大丈夫だ」、「日本人は団結力があるし、日本ではそこまで感染は爆発的に拡大していない」「日本は人権を無視できないから、こうするしかない」という“日本通”の人々からの声もあった。

 だが、それにしても、わざわざ安倍首相が何度も記者会見を行い、日本中のテレビで特番を組むほどのことだったのだろうか、と半信半疑の声も多かった。

 奇しくも中国では今日(4月8日)、2ケ月半以上も続いていた武漢の封鎖がようやく解除される。武漢に住む人々にとっては、文字通り、ガチガチの都市封鎖であり、マンションの敷地内から一歩も外に出ることができない日々から解放される。

 武漢以外の都市でも、日常生活を奪われた人々が多かった中国人の目から見れば、日本の緊急事態は緊急事態のうちに入らないと感じられるだろう。だからこそ、あえて「日式(日本式の)」という枕詞をつけた言葉で表現したのかもしれない。

 

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

中島恵の最近の記事