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第26回全国高等学校女子硬式野球選手権大会大会5日目 センバツ優勝校福井工大福井、粘りながらも惜敗

中川路里香フリーランスライター

センバツ優勝校の福井工大福井が、初戦となる秀岳館戦で26日に登場、8回タイブレークの末、サヨナラ負けを喫しました。春夏連覇を懸けて挑みましたが、果たすことができませんでした。

福井工業大学附属福井高等学校 2-3× 秀岳館高等学校

福井工大福井 000 100 01 2

秀岳館 100 000 02× 3×

【バッテリー】

福井工大学福井 吉森みひろ-浅野有音

秀岳館 杉尾 華乃、平田鈴乃-若本七海

優勝校の誇りを以て、一度は同点においつく意地を見せた

初回、福井はショートの守備の乱れからランナーを許すと、続く打者に四球を与えるなどリズムを崩して1点を献上。4回に秀岳館の先発・杉尾華乃さんから四番・山田恵さんと六番・松山柊里さんが二塁打を放ち同点に追いつきますが、5回からマウンドに上がった秀岳館、平田鈴乃さんの前に1本が出ず、1対1のまま8回タイブレーク(走者1、2塁、継続打順でスタート)へ。8回、福井は9番・木村千夏さんが犠打を決めるなどして二死2、3塁から二番・東ここあさんが二塁の頭を越える適時打で1点を追加しましたが、直後の秀岳館の攻撃で、一死2、3塁から三番・山本いろはさんのセカンドゴロをセンターへそらしたことで2者生還を許し、サヨナラ負けとなりました。

8回、意地のタイムリーを放った、吹き工大福井・東ここあ選手
8回、意地のタイムリーを放った、吹き工大福井・東ここあ選手

福井工大福井・中村薫監督は「守りから攻撃のリズムを作るのがうちの野球。特に二遊間を中心に守りを固めてきただけに、そこがほころびると苦しくなる。その結果です。秀岳館さん先発の平田さんからようやくとらえられるようになったところで、2人目の平田さんに交代されてしまった。枚数の多いところは相手の強みだと思います。(福井先発の)吉森は、自分の投球がなかなかできず、6回あたりからようやく…というところだった。そこへ最後も守りにミスが出てしまった。夏の選手権大会はセンバツとは全く違い、独特の雰囲気があり、1勝するのは本当に難しい。選手たちは春優勝からのプレッシャーによく耐えてきました」と話しました。

勝利した秀岳館・山田豊監督は「選手たちには『最後の夏なんだから楽しんで来い』と言って(グランドへ)送り出しましたが、まさかここまでやってくれるとは。途中、エンドランを見破られてランナーが刺されるなど、私の采配ミスを選手たちがカバーしてくれました。福井工大は隙の無いチーム、そのチームに対して先制点を奪えたことが大きかったですね」と選手たちを称えました。

「ああ、悔しい!」。泣いて笑って、また泣いて

 センバツで優勝投手となった、吉森みひろさん。この試合では、4回まではランナーを許す苦しいピッチングながらも完投し、チームを支えました。「春とは全然違う緊張感がありました。立ち上がりから自分の持ち味であるコントロールが定まらず、初回に1点を取られてから、らしさが出せずずっと苦しかったです。ただ、バックを信じて打たせて取るという自分のスタイルを最後まで貫けていたと思います。自分のピッチングができなかった今日の試合は悔しいけれど、3年間を振り返ると後悔はないです」と話しました。

「自分らしいピッチングができず悔しい」と話した、福井工大福井・吉森みひろさん
「自分らしいピッチングができず悔しい」と話した、福井工大福井・吉森みひろさん

 春に続き、吉森さんとバッテリーを組んだ浅野有音さんは、「本当に悔しいです。攻撃につなげられるピッチングをさせられるようなリードできなかったです。秀岳館は打つチームというイメージだったので打ち込まれるのは想定内でした。だから『点を取られたら取り返そうね』とチーム内で話していたのですが、こちらも打たされるばかりで得点に結びつけられませんでした」と話しました。

最後まで自分たちらしい野球をしようと奮闘した、浅井有音さん
最後まで自分たちらしい野球をしようと奮闘した、浅井有音さん

1回と3回には、秀岳館の三盗を阻み最少失点におえさる好プレーを見せました。「肩は一番の武器なので、持ち味は発揮できたのかな」と悔しさの中に納得のプレーがあったようです。これで高校野球は終わります。「宮城から遠く福井の学校へ進学させてくれた両親に感謝しています。振り返ると辛いことの方が多くてたくさん泣きましたが、仲間と出会えたこと、小中とは全く違う内容の濃い野球ができたこと、ここでの3年間は、自分の一生の財産になると思います」と、最後は声を少し詰まらせながら答えてくれました。

キャッチャーの浅井さんが三盗を刺すなど、秀岳館のチャンスを何度も潰したが…
キャッチャーの浅井さんが三盗を刺すなど、秀岳館のチャンスを何度も潰したが…

試合後、グランド外でも多くの選手が泣き崩れ、しばらくは身動きのとれないような中、「次のチームのために早くここを空けよう」などと選手たちに声をかけ気丈に振舞っていた東ここあ主将。ですが、最後のミーティングで主将として最後の挨拶の段になると、溢れる涙をこらえることができませんでした。「……、初回から自分たちの野球ができなくて…、相手の良い雰囲気に呑まれたような……。自分たちは守備のチームでありながら、二遊間のミスがあったり、簡単に終わってしまった攻撃など、やっぱり……、『そりゃ負けて当然だろう』って……。自滅です」と、声を振り絞りながら答えてくれました。記念撮影に高じる選手たちの輪から少し離れたところで人知れず涙する姿は少し痛々しいほどでした。初回の守備のミスは自らのものでしたが、福井最後の得点シーンとなった8回タイブレークで適時打を放ったのは、誰よりもチームのことを考えてきた東さんでした。「チーム全体が地に足ついてなかった」と振り返る中で、一矢報いた場面となったのかもしれません。

中村監督曰く、「嫌われることを恐れずに、常にチームメイトを厳しく鼓舞してくれた。最高の主将でした」と評された東さん。「強いチームになるために、これまでのどのキャプテンよりも厳しくやってきて、センバツ優勝後もそれを変えずにやってきました。どこよりも厳しい練習をやってきたと思っていますし、だからこそ1日でも長くみんなと一緒に野球がしたかったです。ついてきてくれてありがとうと言いたいです」と感謝を口にしました。

悔し涙にくれるもカメラの前では精一杯笑顔を作ってくれた、福井工大福井・東ここあ主将
悔し涙にくれるもカメラの前では精一杯笑顔を作ってくれた、福井工大福井・東ここあ主将

試合前、福井ナインは、気を引き締めて集中してゲームへ入ろうとしているように見えたのに対し、秀岳館は笑い声が絶えずリラックスムードが漂っていたように感じました。センバツ優勝後、注目が集まり周囲からの期待を常に感じながらも「自分たちはチャレンジャーなので気にしていません」と話していた福井でしたが、試合前の様子を見ると、その重圧がどれほどだったのか想像に難くありません。惜しくも初戦で敗れはしましたが死力を尽くしたことに間違いありません。

(写真は全て筆者撮影)

フリーランスライター

関西を拠点に活動しています。主に、関西に縁のあるアスリートや関西で起きたスポーツシーンをお伝えしていきます。

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