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強化は19年に間に合うのか? 知将ニック・マレット、サンウルブズを痛烈批判! 

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
ジャパンからサンウルブズまでを統括するジェイミー・ジョセフHCは何を思うのか?(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

53回もタックルミスがあっては、良いラグビーはできない!?

3日、フランスの通信社、AFPは

『サンウルブズ大敗に「日本はスーパーラグビーをなめている」――元南アHC』

と題する記事を配信した。

1日(日本時間2日未明)に、サンウルブズがジョハネスバーグでライオンズと対戦し、7―94と大敗したことを受けた記事だ。

そのなかで、タイトルの『元南アHC』ことニック・マレット――1999年W杯でスプリングボクスを率い、準決勝でオーストラリアに双方ノートライで延長戦の末に敗れたが、3位決定戦でニュージーランドを破る――が、南アのスーパースポートTVで手厳しいコメントを残したと伝えている(以下『』で引用)。

『ライオンズとの試合で彼ら(サンウルブズ)には53回のタックルミスがあった。こんな数字ではスーパーラグビーで良い戦いをすることはできない』

スーパーラグビーが今季の18チームから3チームを削減し、来季から15チームで行なわれると発表されたのは4月9日のこと。サンウルブズも削減候補の1つになっていたが、19年に日本でW杯が開催されることもあり、現在5チームが参戦しているオーストラリアから1チーム、同じく6チームが参加している南アフリカから2チームが削減されることで落ち着いた。

マレットにすれば、「なんでこんなタックルができないチームが残って、南アから2チームも削減されるんだ!」と、怒り心頭なのだろう。

確かにライオンズ戦のパフォーマンスを見れば、そういう声が海外から出ても仕方がないし、反論するに足る説得力に溢れた根拠が日本側にあるわけでもない。

たとえばジャパンが、満身創痍になりながらも(つまりケガ人続出になりながらも)6月にアイルランドを撃破していれば、「ジャパンに全勢力を注いだのでこうなった」と弁明することは可能だったかもしれない。もちろん、それとても「No excuse」が不文律のインターナショナル・ラグビーでは「言い訳」にしかならないが、いくらかの説得力は保ち得る。しかし、現実は違ったのだった。

マレットは、『日本のベストプレーヤーたちがサンウルブズでプレーしなければならない。さもなければ彼らはこれからもっと多くの辱めを受けるだろう』とも述べて、そもそもベストメンバーを組まないことを問題にしている。その根拠が、『日本のトップ選手の多くは、サンウルブズではなく、企業が所有する国内のクラブでプレーしている』というのはマレットの勘違いだが、サンウルブズのスーパーラグビー参戦を『ホスト国を務める2019年のW杯で日本が強力なチームを構築するため 』とは、きちんと認識している。だから、よけいに今季ベストメンバーを一度も組んでいないサンウルブズに対して攻撃的になるのだろう。

実際、日本のファンにも、同じ思いがあるのではないか。

果たしてW杯に強いチームを構築できるのか?

今季のサンウルブズとジャパンの戦い方を見て、これで果たして『2019年のW杯で日本が強力なチームを構築する』ことができるのかと、少なくとも私自身は懐疑的になった。

スーパーラグビー開幕から見せていた相手の背後にグラバーキックを蹴って「アンストラクチャーな状況を作る」戦い方は、一向に熟成されないままジャパンに引き継がれ、アイルランドと戦った6月17日の第1戦でも使われた。

しかし、アイルランドは、ジャパンが蹴ることを織り込んだディフェンスのストラクチャー(ざっくり言えば、誰がどこをどうカバーするかという原則)を構築して対抗。ジャパンのキックは、いたずらにアイルランドにボールを与える結果に終わり、スコア的にも22―50と大敗した。

※これについては『ジョセフ流のキックなんか使うな! ジャパンは蹴らない方が強い!』を参照

24日の第2戦では、ジャパンが気持ちの入ったタックルを見せて健闘したが、アンラッキーなトライも奪われて、やはり13―35で敗れている。

ジャパンは、19年W杯で同じプールAで戦う相手と2試合戦って、これまでのW杯流ボーナスポイント獲得方式(勝敗にかかわらず4トライ以上取れば1ポイント/7点差以内負けで1ポイント)でも、スーパーラグビー式のボーナスポイント(相手より3トライ以上多くトライを取れば1ポイント/7点差以内負けで1ポイント)でも、1ポイントも奪えなかった。

一方のアイルランドは2試合戦って、どちらの方式でも10ポイント獲得しているのだ。

15年W杯でジャパンが8強進出を逃したのはスコットランドにポイントで上回られたからだが、それを例に出すまでもなく、これは相当に危機的な状況だ。

私には、ジャパンの選手が個々には「いいプレー」を見せるのに、それが全体の状況を好転させるきっかけとはならず、選手同士の間でこういうときは蹴るのかパスするのか意志が統一されていないように見えた。

※この点については『2019W杯で腹の底から笑うために、ジャパンは敗因を徹底分析すべし!』を参照

シーズン当初は昨季よりも大幅に改善されたサンウルブズのスクラムも、戦うにつれて相手に研究され、次々と替わるメンバーのためにじっくりとコーチの指導を受けながら熟成させることができず、ライオンズ戦では崩壊して大敗の原因を作った。

コーチ陣にはコーチ陣の意図があり、毎試合毎試合ゲームを振り返ってどこができたのか、できなかったのか、レビューが為されてはいるが、2月のスーパーラグビー開幕からこれまで、チームが長い時間を過ごしたら獲得できるはずの「熟成」が感じられないのだ。

たとえばサンウルブズは、4月8日に秩父宮ラグビー場でブルズを21―20と破って初勝利を挙げ、その直後からニュージーランドで3連戦、さらにアルゼンチンに飛んでジャガーズと戦う超ハードなツアーに出た。

ツアー最初のクルセイダーズ戦は3―50と完敗したが、逃げ出すことができないツアーのなかでチームは少しずつ成熟し、翌週はハイランダーズに15―40。さらにチーフス戦では20―27と食い下がり、ジャガーズ戦では終盤に逆転されたが、39―46という壮絶なゲームを行なって、チームのポテンシャルが高いことを証明した。

しかし、バイウィークを挟んだ5月20日にシャークスに敗れると、27日に今季2試合めの秩父宮でのホームゲームでチーターズに7―47と連敗。2勝目を期待したホームのサポーターを落胆させた。戦い方を見ても、続出した負傷者とローテーションで入れ替わったメンバーを見ても、チームが長いツアーで培った手応えを次に生かし切れていなかった。

そして、6月のウィンドウマンスを挟んだライオンズ戦である。

ニック・マレットは、『日本のラグビー関係者はスーパーラグビーの試合をなめている』とまで言い放ったが(『なめている』の原語は不明)、長丁場のスーパーラグビーを戦いながら、チームが一向に熟成せず、負傷者が続出した上にローテーションでベストメンバーを組めないのでは、そう厳しく指弾されても反論はできまい。

日本ラグビーの遺産を正しく継承しよう!

現在のジョセフHC体制になって気になるのが、エディー・ジョーンズ時代の色を払拭しようとするあまり、15年W杯までに日本ラグビーが積み上げた遺産を継承しようとしていないことだ。

同じように、サンウルブズでも、ツアーでの収穫を次の対戦につなげる「積み上げ」がない。

だから、いいゲームをしたあとに惨敗するようなことを繰返す。

ニュージーランドからアルゼンチンへ飛んだツアーを見ても、キックを減らしてボールの継続を増やしたときにチーム力が上がっているのに、遠征後のシャークス戦、チーターズ戦とふたたびキックを使い出して勢いが止まっている。

これで本当に2年後の19年に、どんなに口うるさいファンでも勝利を期待したくなるようなジャパンを編成できるのか?

いや、本当にあと2年で、W杯で戦えるレベルまでチームを熟成させられるのか?

多くの選手がスーパーラグビーやテストマッチの経験を積んだことは確かに日本にとってポジティブなことだ。しかし、その影響で15年W杯からの継続的な強化の積み上げがゼロベースに戻っては、ポジティブな要素を吹っ飛ばすぐらい負の影響が大きくなる。

これまでのジャパンが、W杯ごとに――つまり4年ごとに――コーチングポリシーがコロコロ変わって大舞台での貴重な経験を積み上げることができず(例外は07年W杯と11年W杯を率いたジョン・カーワンだが、結果が出なかった)、エディー・ジョーンズという“劇薬”を服用するまで1勝しかできなかった事実を、『日本のラグビー関係者』は忘れてしまったのだろうか。

2年後のW杯で勝つという大事業を達成するために、日本ラグビーにはどういうノウハウがあって、それらをどう活用すべきなのか。

今こそ、真剣な議論を戦わせ、明確な道筋を示すことが求められている。

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

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