Yahoo!ニュース

“ヤングジャパン”、香港に苦戦で“6月のジャパン”入りへハードル上がる?

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
膝のケガから約3か月ぶりで復帰した立川理道。これからの活躍に期待大だ(写真:築田 純/アフロスポーツ)

若いジャパンに襲いかかった試練!?

「可愛い子には旅をさせろ」

人間が成長するには、ときに試練にさらされ、逆境を耐えて這い上がる経験を積まなければならない――という意味だが、アジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)第3節・香港戦は、まさにそういう試合だった。

若くて可能性はあるが、テストマッチの経験に乏しいジャパンは、香港の老獪なブレイクダウンワークと、15年W杯日本代表のディフェンスコーチを務めた経験もあるリー・ジョーンズ ヘッドコーチ(HC)に鍛えられた、香港の低いタックルに悩まされて、秩父宮ラグビー場を訪れた8千238人の観客を、ひやひやさせ、ときにイライラさせた。

なにしろ、残り20分となった時点のスコアは12―17!

リードしていたのは香港で、ジャパンは直後の21分に、この試合が初キャップとなった鹿尾貫太の好タックルで相手の落球を誘い、こぼれ球を松田力也→山田章仁とつないでトライを奪って同点に追いついた。

こういう展開になったそもそもの原因は、山田が自陣でタッチラインの外に出たボールを、強引にクイックスローで投げ入れたことだが(それが後半16分の香港のトライに結びついた)、それ以上にこの試合のジャパンは、チャンスは作るけれどもそれを有効に得点に結びつけられず、粘る香港から勇気とやる気を奪うことができなかった。

先発したFWは全員がキャップ数一桁で、バックスも、キャプテンの立川理道(50キャップ)と、山田(同19)を除けば、一桁キャップの選手たちが並ぶ。しかも、鹿尾は、前述のようにこれがデビュー戦だ。おまけに、メンバーも前週と大きく変わっている。2週続けて対戦した韓国FWとは違う重さと強さを持つ香港FWに圧力をかけられ、香港協会所属のティム・ベイカー氏の笛にも、強風にも悩まされて、ゲームを自分たちがやりやすいようにコントロールできなかったのである。

ジャパンのトライ数は5で、先制トライの松橋周平を除けば、残る4トライは、山田が2つ、立川と、後半から出場の堀江翔太が各1つと、15年W杯代表組が挙げている。

勝ち越しトライを挙げた堀江は、相手ゴール前で一度ボールを持って突進してラックを作り、そこから素早く起き上がってもう一度ボールをもらいに行き、その上でSH流大から一瞬の間を作ってボールをもらった。堀江は「これぐらいの運動量をベーシックにして欲しい」と振り返ったが、流からすぐにボールをもらわずに香港ディフェンスの足を止め、自ら駆け抜けるスペースを創り出したのである。

立川のトライも、右に2人余った状況ながらパスが乱れ、ディフェンスが殺到したのを逆手にとって走り切ったもの。立川が普通にパスをしたのでは、パスを受けた選手がタッチラインに押し出される可能性があったので、一度内側に切れ込んだわけだ。そうすれば、たとえ捕まったとしても、外側に余った2人のランナーは、そのまま生きてボールをもらうことができる。そういう「より良い状況」を作り出すためのプレーが、結果としてトライに結びついたのである。

こうした機転を利かせられるのがベテランの真骨頂であり、彼らの突出したところだ。

裏を返せば、香港戦は、そういう場面で若い選手たちの「もう一工夫」が見られなかった。

彼らは与えられた役割を果たし、全員がきまじめに一所懸命プレーしたのだが、さらにそこから「オレが勝負を決めてやる!」といった部分にまで踏み出せなかった。

ジェイミー・ジョセフHCは試合を、「テストマッチレベルでプレーするために何が必要なのかを教えてくれた、今のチームにとって必要な試合」と総括する。

立川も、「なかなか点差が開かない状況でSOがゲームをよくコントロールしてくれた。若いチームでこういう試合を勝ち切れたことは、非常にポジティブ」と、松田のコントロールを褒め、さらに選手たちが劣勢にも冷静さを失わなかったことを評価したが、「ブレイクダウンで簡単に反則を犯し、アタックのときも圧力をかけられて、いいボールを獲得できなかった」と、課題を指摘することも忘れなかった。

堀江は、もっと辛辣だった。

「若い選手も含めて、バラバラに動いている部分があった。FWも、もっともっと動いて欲しい。どれだけ運動量で相手に勝るかが大切なのはわかっているはすばなのに、ついつい動かない選手もいるんじゃないですか」

理にかなった戦い方が、逆に苦戦を招いた?

こういうリーダー陣の総括を聞くにつけ、苦戦の原因が明確に理解できた。

現在のジャパンは、相手防御の背後にキックを転がし、防御の的を絞らせないような工夫を重ねている。しかも、この試合は、開始2分に鹿尾がキックを転がし、松橋がそのまま拾ってトライという理想的な先制劇だった。その上、風も強かったので、キックを使うケースが増える。これはこれで理にかなっているが、香港側から見れば、ジャパンがキックでボールを手放してくれるのだから、防御の時間が短くて済む。

もし、ジャパンが前半から、エディー・ジョーンズ体制のときのようにしつこくしつこくフェイズを重ね、ボールを手放さずにアタックを継続していたら、フィットネスに劣る香港の集中力はもっと早く切れていただろう。ところがジャパンは、キックに加えて、ハンドリングエラーや反則を繰返したため、香港に“休憩時間”を与える結果となった。

ゲームがぶつ切りになり、ボールが動く時間が短くなればなるほど、アドバンテージは香港に働いたのである。

逆にジャパンは、ミスやターンオーバーで攻撃を継続できずに相手に攻められるから防御時間が長くなり、気温が高かったこともあって、松橋が両足を痙攣させて退き、鹿尾がFLに回る想定外の事態に追い込まれた。

……まあ、すべてが苦戦する方向に働いていたのである。

あとは、苦い思いをした若い選手たちが、この試合からどんな教訓をくみ取り、次週の香港戦生かせるかどうか。

そこで、6月の代表に生き残れるかどうか、将来が決まる。

サンウルブズはアルゼンチンでジャガーズに大健闘!

折しも、7日早朝にアルゼンチンのブエノスアイレスで行なわれたスーパーラグビー、ジャガーズ対サンウルブズ戦で、サンウルブズは、ほぼアルゼンチン代表というジャガーズと壮絶なトライの取り合いを演じ、最後の最後に力尽きて39―46と敗れた。

ニュージーランドで3試合戦ってアルゼンチンに移動という、気が遠くなるような蓄積疲労のなかで、サンウルブズの選手たちは、満身創痍になりながらも、戦うプライドを示してくれたのである。

一足早く“旅に出た”サンウルブズの選手たちは、厳しさのなかから貴重な手応えをつかんで帰国する。

そこに、香港戦で復帰を果たした堀江と立川が合流し、20日、27日のサンウルブズでの試合を経てジャパンに合流すれば、6月にはタフなメンバーを揃えた代表が結成される。

これで、香港戦に出た若いメンバーたちの、6月の代表入りへの関門が、また一段と高くなった。

可愛い子には旅をさせろ!

香港戦は、若い選手たちに「修行の旅へ出でよ」と示唆する、苦い教訓だったのである。

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

永田洋光の最近の記事