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「男女平等」で前進するアラブと停滞する日本――鍵は政治の決断力

六辻彰二国際政治学者
ドイツのメルケル首相とデンマークのフレデリクセン首相(2019.7.11)(写真:ロイター/アフロ)
  • 世界経済フォーラムの最新の男女平等指数で、日本は過去最低の世界121位になった
  • これは女性の社会進出が遅れがちだったアラブ諸国とほとんど変わらない水準である
  • 一部のアラブ諸国は国家戦略として女性の政治進出を進めており、このための政治的意志を欠いた日本と対照的である

 男女平等指数で過去最低になった日本は、女性の社会参加が制限されるアラブ諸国にも、いずれ抜かれるかもしれない。

世界121位の衝撃

 17日に発表された世界経済フォーラムの男女平等指数(グローバル・ジェンダー・ギャップ指数)で、日本世界121位だった。これは過去最低の水準だ(昨年は110位)。

 しかし、これが深刻なのは、単にこれまでで最低、先進国で最低レベルだからというだけではない。むしろ、日本の121位が、女性の社会進出が遅れがちなことで知られるアラブ諸国に近い水準であることだ

 実際、今年の120位はアラブ首長国連邦(UAE)で、122位はクウェートだった。男女平等指数のランキングをみると、日本より下位に位置づけられているのは、ほとんど中東かアフリカの国だ。

 イスラーム世界では「美しいものは隠さなければならない」という教えにより、女性は外出の際、髪や顔を覆わなければならない。さすがに学校教育はそれなりに普及しているが、戦前の日本のように男女別々が一般的だ。当然のように雇用機会や社会活動は制限されやすく、男女間の所得格差も大きくなりやすい。

停滞する日本に迫るアラブ諸国

 こうしたアラブ諸国と変わらないレベルと判定された日本だが、全てのスコアが低いわけではない。

 男女平等指数は経済的機会、教育、健康、政治進出の4項目で測られる。日本の場合、個別の項目でみると、それぞれ健康(40位)、教育(91位)、経済的機会(115位)、政治進出(144位)で、とりわけ政治進出が大きく足を引っ張った

 政治進出は、議員や閣僚といった意志決定にかかわる地位に占める女性の比率などで算定される。現在、日本の国会に占める女性議員は10.2%にとどまる。

 この点で一部のアラブ諸国は日本に迫りつつある。例えば、日本を上回る120位だったUAEでは、

・連邦国民評議会(日本の国会にあたる)の40名の議員のうち女性は9名

・外交官の30%は女性

・アラブ諸国で初めて軍事女子大学を開設

 また、122位のクウェートでも、議員の24%は女性である。

政治的意志としての男女平等

 UAEやクウェートは、アラブ諸国のなかでも厳格なイスラームの教義に基づく支配が、とりわけ目立つ国に含まれる。また、伝統的な君主(首長)が大きな権限を持ち、お世辞にも民主的とは言いにくい。

 それにもかかわらず、女性の政治進出が促されてきたのは、それが国家戦略に適うからとみられる

 男女平等というと、いわゆるフェミニストの独壇場と思われがちだが、その理解そのものが前時代的だ。政治であれ、経済であれ、ニーズが多様化する現代では、意志決定にさまざまな意見を反映させることが求められやすい。実際、世界経済フォーラムは、属性にかかわらず能力の発揮を促すことが競争力に直結するという趣旨で男女平等指数を測定している。

 そのうえ、2015年に国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDG s)でも、世界全体の目標としてジェンダー平等の実現が掲げられている。これに配慮が乏しい国は、世界の潮流を無視しているとみなされても文句はいえない。

 一方で、UAEやクウェートは、石油価格が伸び悩みなかで資源依存の経済から脱却することを目指し、海外からの投資の誘致に余念がない。この背景のもと、大きな権力を持ち、年長男性のシンボルともいえる首長自身が女性の政治進出を推すことで、両国の改革は進んできたといえる。

 つまり、日本が男女平等指数で過去最低にまで落ち込んだのは、日本自身が変化したからというより、世界のトレンドを受けてアラブを含む多くの開発途上国が政治的意志をもって改革を進めたため、ほとんど変わっていない日本が相対的に低下してきた結果とみた方がよい

日本の政治的意志の欠如

 それでは、日本で女性の政治進出が遅れているのは、有権者と政府のどちらの問題が大きいのだろうか。

 世界価値観調査(ワールド・バリュー・サーベイ)の最新の調査結果によると、「男性は女性よりよい政治リーダーになる」、「男性は女性よりよい経済リーダーになる」に対して、「強くそう思う」と「ある程度そう思う」の回答は日本でそれぞれ、27.6%、24.7%だった。これらの数値はほとんどのイスラーム諸国を下回る(それでも欧米より高いが)。

 つまり、社会の側では、女性か政治・経済の意志決定にかかわることへの理解がそれなりに進んでいるといえる。だとすると、日本で女性の政治進出が遅れているのは、政治の側に大きな責任があることになる

 選挙すらまともに行われていない国が多いアラブ圏はともかく、それに次いで女性の社会進出が遅れがちなアフリカ諸国でさえ、筆者が以前調査したところでは5カ国で、一定の比率の議席が女性に割り当てられる選挙制度が導入されている。

 これに対して、日本では「逆差別」を懸念する議員、とりわけ年長男性議員の声に押されて、女性枠の実現は遠い。安倍首相は女性の社会進出をさかんに力説し、企業に対して役員の30%を女性にすることを目標にするよう求めてきたが、自分たちに関しては話が別のようだ。

 おりしも男女平等指数が発表されたのと同じ17日、二階幹事長ら自民党の領袖が寄り集まって「日本文化としての料亭のよさ」を発信する旗振りを務めた。料亭を発信するのも結構だが、もっと別のところに高い優先順位をつけられないかと思うのは筆者だけだろうか。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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