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リアルクローズなバーチャルファッションを展開するBEAMS

武者良太ガジェットライター
(写真:筆者撮影)

2022年12月18日までメタバースの1つであるVRChatで開催されているバーチャルマーケット2022 Winter。過去にはのべ100万人以上の来場者を記録した、仮想空間の中で行われる世界最大級のバーチャル展示会です。

メタバースにおけるコミックマーケット(コミケ)と呼ばれることもありますが、展示されるのは本ではなくアバターやバーチャルファッション、3Dモデルの小物など。そして数多くの企業が様々なサービスや商品を、街ともいえる大規模なワールド内に展示して、道行くユーザーの目を楽しませ、商品の購入やサービスの理解へとつなげています。

バーチャルファッションに取り組み続けるBEAMS

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

2018年8月26日に第1回目のバーチャルマーケットが開催されてから、今回で都合9回目。そのうち5回連続で企業ブースを出展している企業の1つがBEAMS(ビームス)です。

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

セレクトショップであり、オリジナルアパレルの展開も行っているBEAMS。仮想空間内のバーチャル店舗ブースでは、アバターに着せるバーチャルファッションなどのアパレルを販売しています。

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

自由な空間、世界観が作れる仮想空間のファッションカルチャーは現実を超えているところがあります。テキスタイルや縫製の制限に囚われないから、自由なデザインが可能。だからメカニカルなSF風ファッションに、現実ではここまで広がらないだろうと思えるフレアスカートを用いたアイドルファッションなどを身にまとったアバターが多い。

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

しかしBEAMSは、リアルクローズなバーチャルファッションに取り組んでいます。例えばこちらの「ブリティッシュスーツスタイルセット」(4000円)は、VRChat向け男性アバター向けのブリティッシュスーツ・ドレスシューズがセットになったもの。現実の店舗で取り扱う「Brilla per il gusto / Ermenegildo Zegna ウールシルク ストライプ スーツ」(16万5000円)、「BEAMS F / 6アイレット キャップトウ シューズ」(5万600円)を再現した作品となります。

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

ラベルのエッジが波を打ったような縫製のニュアンス、控えめですが存在感のあるストライプが知的な印象となり、シュッとしながらも穏やかな印象を作り出しています。

クリエイターから見たポイント

今回、BEAMSの出品物のモデリングを担当した、バーチャルファッションクリエイターのCornet(こるねっと・@Cornet_vrc)さんにお話を聞きました。

Cornet 今までにもVRChat向け男性アバター用のスーツは作られてきました。しかしホストクラブ的というか、細身のボディラインを綺麗に見せるためのデザインとなっているものが多かったんです。でも今回のブリティッシュスーツは、ビジネスマンが着るためのスーツを作ってほしいというオーダーだったんです。

肩はややなだらかなラインで、腰回りも絞りすぎずに適度にナロー。彫刻のような美しさではなく、しなやかで動きやすそうという印象が伝わってきます。

Cornet 製作途中で写真を撮ってBEAMSさんにお送りするんですけど、監修者の方からポケットの位置が2センチ下とか肩の角度をもうちょっとなだらかにとか、裾をもうちょっと長く、股下もうちょっと下げて...といったように、事細かなディティールの調整指示があり、そのおかげで仕事をするときのためのスーツのニュアンスを追求することができました。

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

Cornet このショルダーラインを表現するためには、襟腰の高さも重要でした。最初は低めにデザインしていたのですが、うなじまでギリギリとなる高さにしました。

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

スーツとシャツはぴったりとくっついているようで一体感があります。Cornetさんいわく、ギリギリまで近づけたとのこと。

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

つま先(チップ)だけを鏡面としたシューズもおしゃれなポイントを押さえています。実はソールもラバーとレザーの素材感を活かしたカラーリングとなっています。

リアルな服の構造を意識するように

(写真:筆者撮影)
(写真:筆者撮影)

独自のバーチャルファッションブランドを手掛けてきたCornetさん。BEAMSさんの商品のモデリングも担当されるようになってから、なにか変わったことはあるでしょうか。

Cornet BEAMSさんのお仕事をするようになってから、リアルな服の構造を意識するようになりました。例えばTシャツだったら裾が少しぶかっとしている、首周りも余裕をもたせている、といったこと気にするようになりました。

アニメやゲームといった映像の世界のなかでは、普段着であってもキャラクターにピッタリしたサイズの衣類を着せていることが多くあります。まるでオーダーメイドのように。

しかし現実に目を向けるとオーダーメイドで普段着を作るということはまずありえません。販売されている既製服はS/M/Lなどの規定のサイズ、しかも中間サイズの体型の人でも着心地が良いように作られたものばかり。このぶかっとしたサイズ差が、仮想世界と現実世界のファッションの差につながっている、と言えるのかもしれません。

Cornet 自分自身、デザインに関してもリアルの服の方に魅力を感じるんですよね。以前までは現実にあるようなデザインや素材感を楽しめるようなバーチャルファッションがなかったので自分で作り始めたところがありますし、現在はアニメ的なタッチのアバターだけではなくリアルな人間を感じさせるアバターも出てきて、そういうアバターに着せるならリアルクローズなデザインのほうが似合うとも思っているので、これからも現実寄りのバーチャルファッションを作っていきたいですね。

現在、バーチャルファッション市場は飛躍を続けています。派手な話題としては1着数百万で売れたといったアート要素を含むものばかりですが、1着1000円~のバーチャルファッションでもメタバース内のニーズをつかめば多くのユーザーが購入してくれます。

BEAMSのバーチャルファッションにかける意気込み、その思いを支えるバーチャルファッションクリエイターであるCornetさんの存在は、2022年現在のバーチャルファッションを知るためのトピックですし、2023年以降の市場を占うための重要な要素であると感じます。

ガジェットライター

むしゃりょうた/Ryota Musha。1971年生まれ。埼玉県出身。1989年よりパソコン雑誌、ゲーム雑誌でライター活動を開始。現在はIT、AI、VR、デジタルガジェットの記事執筆が中心。元Kotaku Japan編集長。Facebook「WEBライター」グループ主宰。

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