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観客が演者と共に舞台の上でハシャいでストーリーを紡いでいくVR演劇「Typeman」

武者良太ガジェットライター
(写真:Typeman事務局提供)

リアルな世界の舞台といえば、観客席に座る観客は、ステージ上で演技する役者の演技を見るものでした。観客席という安全地帯から鉄火場といえるステージを見ることができる安心感があるとともに、客席によっては演者との距離を感じるものでした。

しかしVRでの演劇なら。振り回した手などが物理的にはぶつからない仮想空間での演劇なら、観客は演者と同じステージの上から間近に演技を見ることができるのではないでしょうか。

この可能性に取り組んだVR演劇「Typeman」が2022年11月16日、先進映像協会日本部会(AIS-J)の「ルミエール・ジャパン・アワード 2022」でVR部門の準グランプリを受賞しました。

VRChatで見ることができた「Typeman」

(写真:Typeman事務局提供)
(写真:Typeman事務局提供)

TypemanはWOWOWとCinemaLeapが共同制作したVR演劇です。2022年8月31日より9月10日まで開催された第79回ヴェネチア国際映画祭XR部門にノミネート。Premio bisato d'oro 2022(プレミオ・ビサト・ ドーロ/金鰻賞)の最優秀短編賞を受賞。WOWOWのプレスリリースによれば、

賞を授与した審査員は、評価の理由を、「過去に対するロマンチックな誘惑と、機械式タイプライターのキーに書かれた文学というチャレンジに勝利し、注目を集めた。Typemanは牛の頭の代わりにタイプライターを持った、神話にでてくるフレンドリーなミノタウロスのような姿をしている」とコメントしています。

WOWOW

と高い評価を受けました。

(写真:Typeman事務局提供)
(写真:Typeman事務局提供)

心優しいミノタウロス。確かにその雰囲気があります。

Typemanはジャンルとしてはアニメーションに属しますが、VRメタバースサービスのVRChatを使い、モーションアクターがTypemanのアバター姿となってリアルタイムに演技する作品です。

その演技中、観客はTypemanのアバターの周囲に存在します。真正面にいてもよし、真横でも真後ろでも、少し離れた位置から見てもよし。観客のアバターは手しか見えないため、他の観客によって演技が隠れてしまう、ということもありません。

「Typeman」とのコミュニケーションでストーリーが展開していく

(写真:Typeman事務局提供)
(写真:Typeman事務局提供)

Typemanは喋りません。しかし同じステージの上にいる観客を手招きで呼び寄せ手紙を渡したり、一緒に楽器を演奏することを促し、身振り手振りで雄弁に語りかけてきます。Typemanはご覧のようにCGアバターですが、VRヘッドセット越しに見る彼は僕らと同じように呼吸をしている1人の人格であるということが如実に伝わってきます。

監督の伊東ケイスケさんはウェブサイトでこう発言しています。

Typemanはこれまで多くの人間に必要とされ、期待や喜び、悲しみを分かち合い、共に時間を過ごしてきました。しかしいつしか人々から忘れられてしまい、自分の存在意義を見失ってしまいます。 体験者は古びたアパートの一室で、そんなTypemanと出会います。あなたは初めてTypemanと向き合ったとき、彼に対してどんな感情を抱き、どのような行動をするでしょうか。 その世界で誰かの存在に気づいたとき、あなたはここにいる意味を考え始めるでしょう。

伊東ケイスケさん

なぜVRChatというプラットフォームを選んだのか

(写真:Typeman事務局提供)
(写真:Typeman事務局提供)

VR演劇ができるVRメタバースはいくつか存在していますが、なぜVRChatという場を選んだのかも聞いてみました。

「今までピクサーみたいなスクリーンで見るアニメーションを作ってきました。けれどもVRを知った頃に、VRでアニメーション作ったらキャラクターともっと近くで繋がることができるじゃないかって思ったんです。そこからVRアニメーションの世界に入っていったというのが今回のきっかけなんですね。

VRアニメーションで一番面白いのはインタラクションがあることだと思っています。キャラクターと観客がインタラクションでつながることにすごく面白さを感じてモーションを記録する形でのVRアニメーションも手掛けてしましたが、VRChatのように演者さんがリアルタイムに演技をできるシステムであれば、同じくリアルタイムに観客と関わることができる。これは僕にとって、キャラクターと観客の関わり方という点ですごく新しさを感じたんですね。なのでインタラクションの垣根をもっと広げてみようと考えたんです」(伊東ケイスケさん)

VRChatをリアルタイムVR演劇で使ってみて気が付いた課題についてもお聞きしました。

「VRChatには独自のプログラミング言語であるUDON(うどん)がありますが、これはすごくクセの強い言語です。僕はこのUDONが全然使えなかったんです。

でも今回はVRChatコミュニティの中で第一線級で活躍している様々な技術者の方々にご協力いただいて、とてつもないと思えるいろいろな技術を教えていただきました。そういうものに僕自身が触れられたというのがすごく発見だったんですね。

今までは一人で、独学で、ネットのブログ記事とか見ながらが作っていたものが多かったのですが、とても技術のある方に色々教わりその中で可能性も見出していけたという意味で、すごいありがたい経験ができたかなと思っています。

その中で課題点としては、技術的なことになってしまうんですけれども、同期問題というものにすごく手間取った形になりものすごく苦労しました」(伊東ケイスケさん)

このTypeman、現在東京・西新宿の「NEUU」 で11月24日まで開催されているBeyond the Frame Festival 2022(サテライト会場)で体験することができます。お近くの方はぜひ実際に、VRメタバースを活用した最新形態のVR演劇を体験してみてください。

ガジェットライター

むしゃりょうた/Ryota Musha。1971年生まれ。埼玉県出身。1989年よりパソコン雑誌、ゲーム雑誌でライター活動を開始。現在はIT、AI、VR、デジタルガジェットの記事執筆が中心。元Kotaku Japan編集長。Facebook「WEBライター」グループ主宰。

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