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VRイベント『テアトロ・ガットネーロ』に見たメタバース時代に求められる職業

武者良太ガジェットライター
GOLDENTAKASAN氏のオリジナルアバターを用いた演舞(筆者撮影)

テレビのバラエティ番組や雑誌で取り上げられることが増えてきた"メタバース"。もとは1992年にSF作家のニール・スティーブンソンの筆によって書かれたSF小説『スノウ・クラッシュ』に出てきた言葉で、作中では1億人以上のユーザーが同時にアクセスできる超巨大な1つの仮想空間であり、そこで人は話し、遊び、仕事をして、暮らすことができる世界と定義していました。

それから30年が経過した現在。前述したように、多くのメディアがメタバースに注目しています。それはテキストベースのコミュニケーションが主体だったTwitterやFacebook、動画コミュニケーション中心のYouTubeやTikTokを超える、新たなソーシャルの場として期待されているからです。

カナダの調査会社であるエマージェン・リサーチ社の予想では、2028年にはメタバースの市場が100兆円に迫る規模に拡大するとのこと。

2021年9月、メタバース領域に明るいベンチャーキャピタリストのマシュー・ボール氏は、大人気ゲームである『フォートナイト』内でのバーチャルファッションの売上が年間で30~50億ドルになっているとツイートしました。

https://twitter.com/ballmatthew/status/1435380103568052229

また韓国のファッションメタバースと呼ばれる『Zepeto』では、いちユーザーがデザインしているバーチャルファッションの売上が6桁ドルであるとBBCが報道しました。

仮想ファッションで数千万円の売り上げ…アジア最大のメタバース・プラットフォームで販売(ビジネス・インサイダー)

これは、バーチャルリアリティをはじめとした仮想空間の中での活動や、仮想空間内で需要のあるデータを作れば多くの人に認められ、対価を得て生活できるようになるという予言といえます。

クリエイターとモーションアクターが注目されていくメタバース

そんなメタバースにおける職業として注目したいのが、メタバース空間内の自分の姿となる3D CGキャラクターを作り出すアバタークリエイター、そのアバターに着せるバーチャルファッションクリエイター、アバターの中に入り込んで自然な動きで魅せるモーションアクターです。

メタバースで過ごす人が増え、過ごす時間が増えるほど、アバターや、バーチャルファッションの需要は伸びていきます。そしてVRを用いたメタバースが普及していくに従って、アバターやアバターが着ているバーチャルファッションの自然な動きを重視する市場へと育ち、VRに慣れ親しんだモーションアクターの需要も高まります。

従来は自社商品の魅力を伝えるべく、アパレルブランドが実力のあるファッションモデルを起用していました。同じことが、メタバースのなかでも起こると考えられます。

アバターの表現力を最大限に活かす演舞と演武

可動範囲の限界を引き出すモーションアクターの存在があってこそ、アバターやバーチャルファッションの魅力がより濃厚に伝わってくる(筆者撮影)
可動範囲の限界を引き出すモーションアクターの存在があってこそ、アバターやバーチャルファッションの魅力がより濃厚に伝わってくる(筆者撮影)

すでに存在する、メタバースと呼ばれるサービスであるVRChat。ここでは毎日多くのイベントが開催されています。毎朝VR内に集まってラジオ体操をするイベントもあれば、人狼やTRPGを卓上ではなく世界の中に入り込んでプレイするイベント、ホスト・ホステスの役割でゲストを接待するロールプレイイベントなど、様々なものがあります。

2022年1~2月に開催された『テアトロ・ガットネーロ - The Auction -』も、その1つ。アバタークリエイター企業の黒猫洋品店(Twitter ID:@K_youhinten)が主催する、アバター演劇と、アバター試着会が組み合わさったイベントです。

ハイクオリティなアバターの魅力を最大限に活かす展示会とするべくタッグを組んでいるのが、yoikami団長(Twitter ID:@yoikami_VRC)率いるメタバース内のモーションアクターチームであるカソウ舞踏団(Twitter ID:@Kaso_Butoudan)。VR機器を用いての生き生きとしたダンス、演技、アクション、アクロバットといった動きをアバターにもたらす職人集団です。

美しいルックスのアバターはすでに多数存在します。そのアバターを用いて会話をしていると、現実にある自分の身体への意識が薄れていき、まるで自分の魂がアバターに宿ったかのような一体感が得られます。

しかしいざ手や腕を動かしてみると、なんだかぎこちなく感じることがあります。動物やロボットなど、そもそも人間と骨格構造が異なるアバターであれば動きの差異は気にならないのですが、人体をモチーフとしたアバターの場合、自分の意識とは違う動きとなるアバターは違和感を覚えてしまい、仮想空間に没入できません。

『テアトロ・ガットネーロ - The Auction -』に登場するアバターは違います。腕を大きく回しても、キックをしても、その動きは人間の骨格に準じたもの。肩、肘、手首に指先。腰、膝、足にいたるまで関節の動きが自然だし、頭の動きに対して髪の毛の動きがわずかに遅れてついてくるなど、バーチャルであっても物理現象を強く意識した作りとなっているのです。

実際には手にしていない日本刀の重さが伝わってくるような、迫真の剣舞(筆者撮影)
実際には手にしていない日本刀の重さが伝わってくるような、迫真の剣舞(筆者撮影)

さらにカソウ舞踏団の演舞が、アバターの最大限の表現力を引き出します。『テアトロ・ガットネーロ - The Auction -』の冒頭に登場したアバターは、格闘技の演武と、アバターの身長を超える太刀を携えた剣舞でもって、激しいアクションシーンについてくる可動域の広さを表現。地面を踏み込んだときの重心移動や、現実ではコントローラを持つ手でありながら日本刀の重さが伝わってくる構え。リアリティの高さに圧倒され、次第にアバターに血が通い、呼吸をしているように感じてきました。

これはVRChatという仮想空間を活用した、新機軸のファッションショーといえます。

現実世界にあったビジネスがメタバースで必要になる時代

『テアトロ・ガットネーロ - The Auction -』の主催、黒猫洋品店とカソウ舞踏団(筆者撮影)
『テアトロ・ガットネーロ - The Auction -』の主催、黒猫洋品店とカソウ舞踏団(筆者撮影)

メタバースは、人と人が様々な形でつながって社会になりえる次世代のオンラインサービスです。上記で紹介したアバタークリエイター、バーチャルファッションクリエイター、モーションアクターの関係性のほかにも、現実世界にあったビジネス上の需要と供給がメタバース内で必要とされることも増えていくと考えられます。

もし今後、メタバースのなかでビジネス展開を考えたいというのであれば、今のうちからVRChatをはじめとしたメタバースサービスにログインして、この世界で過ごす人々とコミュニケーションしまょう。自分一人ないしは企業内では答えがでなかったことも、2022年現在のメタバースを知る人々の声によってフォーカスが合わせられるかもしれません。

なお『テアトロ・ガットネーロ - The Auction -』は本日2月26日、23時より最終公演が行われます。チケット代はかかりません。PC VR環境がある方であれば、無料で観覧できます。もし定員のなかに入ることができたら、最先端のバーチャルファッションショーを目撃できます。詳細は黒猫洋品店のツイートを参照してください。

ガジェットライター

むしゃりょうた/Ryota Musha。1971年生まれ。埼玉県出身。1989年よりパソコン雑誌、ゲーム雑誌でライター活動を開始。現在はIT、AI、VR、デジタルガジェットの記事執筆が中心。元Kotaku Japan編集長。Facebook「WEBライター」グループ主宰。

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