Yahoo!ニュース

コロナ禍で球宴中止もファン投票は実施 韓国の「仮想球宴」の投票数、本物を上回る

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
ファン投票で選ばれた、サムスンとロッテの選手(写真:ロッテジャイアンツ)

今シーズンのプロ野球は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、どのリーグもシーズン開幕が遅れた。「夏の風物詩」オールスター戦も中止に。厳しい状況下、球宴が行われないのはやむを得ないと、多くの人が思っただろう。

ところが韓国KBOリーグの場合、ただ「中止」では終わらなかった。全144試合のほぼ折り返し地点となった8月9日、「オールスター戦は行わないがファン投票は行う」と発表したのだ。

さらにファン投票の結果発表後には「オンタクト(非接触)オールスターレース」を実施するとした。オンタクトオールスターレースとはファン投票で選ばれた選手が、9月8~27日の公式戦で記録した勝利貢献度の数値(WPA)でMVPを決めるというものだ。

リーグ主導でいわば「仮想オールスター戦」を行うというKBOリーグのアイデア。それをNPBの球団職員や元選手に話したところ、「日本ではそういう発想はないかも」という反応だった。

KBOリーグではなぜ、このようなオールスターイベントを行おうと思ったのか。韓国野球委員会(KBO)のナム・ジョンヨン広報チーム長に訊いた。

「オールスター戦はファンサービスの色合いが濃い試合です。今年、ファンは観戦ができず、試合中継を見る以外に何もできない状況にあります。そこでファンが参加できる機会を作りたいと考えて、何かしようという話になりました」

実際にファン投票を行ってみると反応は良く、総得票数は昨年より約12.8%増加した137万1933票だった。開催されないオールスター戦のファン投票が、本物のオールスターファン投票よりも多く集まるという不思議な現象となった。

2019年のオールスター戦で勢ぞろいしたマスコット(写真:サムスンライオンズ)
2019年のオールスター戦で勢ぞろいしたマスコット(写真:サムスンライオンズ)
2019年のオールスター戦で記念撮影する監督と選手たち(写真:サムスンライオンズ)
2019年のオールスター戦で記念撮影する監督と選手たち(写真:サムスンライオンズ)

KBOリーグは今年、MLB、NPBよりも早い5月5日にシーズンをスタートさせ、ここまで滞りなく行われている。しかし観客の入場は7月26日からとNPBよりも後だった。開幕後に一部地域での集団感染があったからだ。

ようやく始まった有観客試合も、政府によるソーシャルディスタンスの強化レベルが引き上がったことで、開始から約3週間で再び無観客に。現在もその状況は続いている。

まさに「試合中継を見る以外に何もできない」という現状に、ファンの募る思いが投票行動へと移ったようだ。

投票数が多かったその他の理由としてナム広報チーム長は「シーズン後半戦に入っても順位争いがし烈なので、ファンの関心が高いのだと思います。そしてタイトルスポンサーの新韓銀行の積極的な告知活動の影響もあります」と説明した。

KBOリーグのオールスターファン投票は投手が3部門(先発、リリーフ、クローザー)に分かれ、その他のポジションと指名打者の計12部門となっている。

ドリーム(トゥサン、SK、KT、サムスン、ロッテ)とナヌム(キウム、LG、NC、KIA、ハンファ)の2チーム計24人のファン投票選出選手はオールスターレースの期間中、ユニフォームに球宴のワッペンをつけて公式戦を戦った。

オールスターレースは集計の結果、ナヌムの数値がドリームを上回り、MVPには平均WPA・0.0585、打率3割7分、6本塁打を記録したNCのヤン・ウィジ捕手が選ばれた。

ユニフォームにオールスターファン投票選出のワッペンをつけて、公式戦に出場するヤン・ウィジ(写真:NCダイノス)
ユニフォームにオールスターファン投票選出のワッペンをつけて、公式戦に出場するヤン・ウィジ(写真:NCダイノス)

KBOリーグは1リーグ10球団制。オールスター戦では10球団を便宜的に2つに分けているだけで、対戦の目新しさはない。仮装してプレーする選手もいるなど完全に「お祭り」だ。

昨年の球宴、マッカーサーに扮した元DeNAロマック(写真:SKワイバーンズ)
昨年の球宴、マッカーサーに扮した元DeNAロマック(写真:SKワイバーンズ)
衣装を着て、ファンと一緒に応援歌を踊るイ・ハクチュ(写真:サムスンライオンズ)
衣装を着て、ファンと一緒に応援歌を踊るイ・ハクチュ(写真:サムスンライオンズ)

そのお祭りは残念ながら行われなかったが、お祭り気分を盛り上げたという点で、今回の試みは成功と言えるだろう。

ちなみにファン投票の参加者に抽選で送られた賞品は、スポンサーとなっている病院での「5万円相当の健康診断権」、「車用空気清浄機」、「KBOオリジナル機能性マスク」と今年ならではの品々が並んだ。

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

室井昌也の最近の記事