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選手が欲しくなるものを コンサドーレが目指すサッカーとファッションの融合

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
相澤陽介氏がデザインしたTシャツを着るMFチャナティップ(コンサドーレ提供)

J1北海道コンサドーレ札幌のクリエイティブディレクターに就任した相澤陽介氏へのインタビュー連載企画。最終回となる今回は、新ブランドの価格戦略や具体的な今後の商品展開計画、ファッションとサッカーの融合について話を伺った(取材日:2019年8月20日)。

並んで買ってくれた顧客の熱量を大切にしたい

アシシ:第1弾のTシャツは8種のデザインのうち1種類のXLサイズを除き全てが完売し、第2弾のポロシャツも即日完売する人気ぶりです。SNSを見ていると、「買いたかったのに買えなかった」「追加販売してほしい」といったサポーターの意見をよく見かけます。

相澤:その声は僕のところにも届いています。ただ、アイテムの価値についても考慮する必要があります。今回のTシャツはブランド立ち上げ期にリリースされた、非常に希少価値の高いものです。じゃあこれが、数カ月後にもう一度同じものが出てきたら、発売初日に札幌ドームの販売ブースで長蛇の列に並んで買ってくれた人の熱量は、確実に落ちますよね。

アシシ:確かにそうですけど、ビジネスとして考えると販売機会損失という側面もあるんじゃないでしょうか?

相澤:第1弾は僕にとって確認という意味もありましたし、今後の指針になってくると思います。例えばポロシャツなどは通年で制作してもいいと思っていますので、今後追加販売は考えていきたいですし、バリエーションも増やしたいですね。正直言うと、マンパワーが足りていないという面もあります。今秋や来季に向けたグッズの企画、製造、マーケティングを既に着手している状態なので、追加販売にまで手が回らないという状態です。ここは改善していきたいですね。

アシシ:もう来季の企画まで始めてるんですね。サポーター目線で話をすると、そこのスケジュール感が全く見えてこないので、第1弾のアパレルを買いそびれた人たちが文句を言っていると思うんですよ。第3弾、第4弾でどういったアイテムがリリースされるかがわかれば、その苦情は減るんではないでしょうか。

相澤:そうですね。秋にはキッズ用のアイテムも出す予定です。

アシシ:なんと! それはパパママサポーターにとっては朗報ですね。詳細情報を出すのは無理にしても、ちょっとずつ次の作品について情報をチラ見せしていけば、サポーターの期待感を煽れるんじゃないでしょうか。

相澤:アドバイスありがとうございます。僕もインスタグラムのアカウントを持っているので、そこで出せる範囲で次作の情報を小出しにしていければ面白そうですね。

アシシ:是非お願いします。あと、第1弾のアパレルのプライシングも個人的には意外でした。相澤さんが手掛けているブランド、ホワイトマウンテニアリングの価格帯と比べると、随分良心的な価格だったなと。

相澤:そうですね。今はこの「CSClothing」という新しいブランドを立ち上げたばかりなので、製造数や価格帯をどれくらいに設定するか、試行錯誤している段階です。僕が関わることでグッズの価格が高くなるんではないか?と思った人もいるかもしれませんが、自分自身も海外でサッカークラブのグッズをよく買うので、価格帯は理解しているつもりです。また、コンサドーレのスタッフにとっても、挑戦するところと守るところを一緒に勉強していく形になります。トライ&エラーを繰り返しながら、ブランディングとは何たるかを実感してもらっている過程ですね。

選手の自尊心を高めるアイテム

アシシ:ブランディングといえば、今までコンサドーレが展開していたグッズは、格好良いのもあれば正直これ誰が買うの?って感じのダサい奴まで、色々とありました。そこに相澤さんが入ることで、統一感を作っていく感じになるんでしょうか?

相澤:将来的にはコンサドーレがアウトプットする商材は全て自分が手掛けられる組織にしたいと思っていますし、今僕らは選手ひとりひとりのグラフィック制作も担当しています。

アシシ:ポスターに使用されていた奴ですね。毎回、滅茶苦茶クールなデザインだなと感じます。

相澤:あのデザインは選手たちにもすごく好評で、福森選手とかは直接感謝を言ってくれたりもします。そういう関係性ができると、選手が自分自身のビジュアルに対して、自尊心が高まります。そうすると選手を応援するサポーターも、そのビジュアルを使ったグッズが絶対欲しくなると思っています。キーホルダーなどにも、そういったビジュアルを使用できれば面白そうですよね。

アシシ:選手自身の自尊心を高めるアイテムが重要だと。

相澤:そうなんです。選手の自尊心が高まらないアイテムを、サポーターが欲しがるわけないんです。

アシシ:確かに、今までのクラブの公式グッズなどを選手が愛用していたり、それをSNSで自ら積極的にアップしたりしているのは、あまり見たことがないですね。

相澤:先日の撮影の時も、サンプル用のTシャツを持っていったのですが、ジェイ選手や武蔵選手は「このまま持って帰りたい」と言ってくれたみたいです。選手がプライベートで着たいと思うアパレルであれば、サポーターも当然欲しくなりますよね? そういったものを作りたいんです。

札幌特有のファッションとサッカーの融合

アシシ:そうやって、選手やサポーターが赤黒カラーの普段着を着るようになれば、コンサドーレが札幌に文化として根付いてくるんじゃないかなと。この流れで最後に、サッカーの文化論の話をさせてください。

相澤:いいですね。ファッションも文化ですからね。

アシシ:サッカーとファッションって親和性がありますよね。ただ、日本ってまだまだ本場のヨーロッパと比べてサッカーが文化として根付いていないと思います。例えばドイツのドルトムント。街を歩けば至る所でボルシア・ドルトムントのカラーである黄色と黒のカラーを感じられるんですよね。

相澤:僕もよくヨーロッパに行ってサッカーを観るので、その感覚、わかります。

アシシ:じゃ札幌の中心地である大通とかすすきのを歩いていて、コンサドーレを感じられるかというと、まだまだだなと。そういう意味で、札幌に文化としてコンサドーレを根付かせるために、衣食住の「衣」にフォーカスを当てて、さりげなくエンブレムや赤黒カラーが使われている普段着をサポーターに着てもらって、コンサドーレを街全体に染みつかせていくアプローチは、すごく興味深いなと感じました。

相澤:そうですね。大手アパレルも含めてですが、札幌のマーケットは独特だという話をよく聞きます。気候も含めてだと思いますが、東京や大阪などの方法論では難しいと言われています。

アシシ:そうなんですか。詳しく聞かせてください。

相澤:これは我々の業界の一般論ですが、東北地方含め雪が降る地域は実用的なアウターが求められることもあり、ファッション性を優先しているブランドが売りにくいと言われています。実際に札幌の友人などとも話をしますが、車移動が多く、また雪かきなどもあるので冬のアウターはファッション目線のデザインよりもアウトドアブランドなどが重宝されると聞いています。事実、コンサドーレに関わる前から僕は何度もスノーボードをしに北海道に行ってましたが、そういった格好で行ってましたし、今もそうすると思います。

アシシ:なるほど。札幌にはそんな特殊事情があるんですね。

相澤:でも、この札幌特有のファッションスタイルが、実はチャンスにもなり得るわけです。まだ言えないことも多いですが、札幌のファッションの中に、コンサドーレをどう埋め込んでいくか現在戦略を練っているところです。

アシシ:それは面白そうですね。ファッションとサッカーの融合って、考えるだけでワクワクしますね。

相澤:ファッション界の人間として、サッカー界の発展に少しでも寄与できればいいなと考えています。今後のコンサドーレの商品展開に期待していただければと。

(了)

第1回 世界的なデザイナーはなぜJ1札幌と契約したのか サッカークラブが抱える収益の課題

第2回 ユニフォームデザインだけではない J1札幌と契約した世界的デザイナーが考えるサッカークラブの未来

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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