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日本代表DF冨安健洋はビッグクラブに移籍可能か? 担当の代理人に直接聞いてみた

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
冨安健洋を担当する代理人田邊伸明氏(スタッフ撮影)

準優勝に終わったアジアカップで、7試合全てに出場した日本代表DF冨安健洋(とみやすたけひろ)。今大会、日本代表メンバーの中で最も成長した若手選手と言っていいだろう。

アビスパ福岡でプロデビュー後、10代でベルギーのシント=トロイデンに移籍し、昨秋に19歳でA代表デビューした冨安は、ここ数年で着実にステップアップを続けている。10代でA代表デビューを果たしたのは2012年の宮市亮以来で、センターバックとしては史上初の快挙だ。

そんな若手有望株の冨安を担当する代理人、田邊伸明氏にインタビューを行い、冨安の人柄や今後の移籍の可能性について伺った(取材日:2019年1月30日)。

冨安と代理人契約に至った経緯

アシシ:冨安選手は田邊さんが経営するエージェント会社、ジェブエンターテイメント所属の選手です。彼と契約したのはいつですか?

田邊:2年前ですね。

アシシ:ということは彼がアビスパ福岡所属で、プロ2年目のシーズンですね。彼ほどのポテンシャルなら、代理人の中でも取り合いになったんじゃないですか?

田邊:競合はしましたね。

アシシ:たくさんのエージェント候補の中から、冨安選手は田邊さんの会社を選んだと。やはり海外移籍に定評のあるエージェント、というのが決め手になったんでしょうか?

田邊:それは本人に聞いてください(笑)。

アシシ:それにしても2年前とは意外でした。これほどの選手なら、青田買いじゃないですけど、学生時代に仮契約するとか、そういったことはしないんですか?

田邊:彼は中学生の頃から既に有名でしたが、日本ではプロ契約をする前にエージェント契約をするのは、極めて少ないのが実情です。ユース所属の時からアプローチはしていましたが、第一にクラブがすごく嫌がります。第二に親御さんにとっても、私たちがガツガツいきすぎると、「まだプロにすらなっていないのに何なのこの人たち?」となります。

アシシ:確かにそうですね。田邊さんが彼とエージェント契約をした時の経緯など、話せる範囲で教えてください。

田邊:私が冨安と会ったのは、契約の最後の時です。その前は弊社のスタッフがずっとコンタクトを取っていました。弊社には日常的に選手のサポートをする社員が私とは別に4人いて、そのうちのひとりが学生時代からアプローチしていました。

アシシ:契約も大詰めというタイミングで、社長の田邊さんの出番なんですね。

田邊:そうですね。私ももう53歳で、選手のお父さんよりも年上だったりします。クラブとの契約交渉はもちろん私が行いますが、普段の選手とのコミュニケーションは私よりも若いスタッフに任せています。

アシシ:10代の選手がサインする際、契約自体は選手本人がするものなんですか?

田邊:選手によっては「両親に会ってください」と言われることもありますが、冨安の場合は自分で決めます、親御さんもそれを尊重します、ということでした。そういう意味で彼は若い頃からすごく自立していましたね。

代理人から見た冨安健洋の長所

アシシ:話は変わって、彼の秀でているポイントについて代理人視点で教えてください。

田邊:体がまず大きい点が長所です。

アシシ:188cmもありますもんね。

田邊:体幹がしっかりしているのと、足元の技術も高いです。

アシシ:スピードもありますし、三拍子揃った選手ですね。

田邊:その通りです。ただ契約した時点では、後にも先にもこんなにすごい選手は出てこない、というレベルでは正直ありませんでした。彼がどこで伸びたかというと、やはりアビスパでの1年目と去年、シント=トロイデンに行ってから。特に海外に行ってからの伸びはすごいですね。

アシシ:ただ、移籍直後の半年間は、あまり出場してませんでしたよね?

田邊:最初の半年間はある意味、適応期間とも言えますよね。移籍後半年で監督が替わり、2018-19シーズンの開幕からスタメンを勝ち取ったわけで、逆に言うとよく半年で新しい環境に適応できたなと。

アシシ:選手によっては海外の環境にうまく適応できずに、すぐJリーグに出戻るケースもあるわけじゃないですか。 冨安選手がたった半年で適応して、海外クラブでスタメンを奪取できた理由は何ですか。

田邊:第一に真面目な性格であるのが大きいですよね。

アシシ:確かに彼のインタビューの受け答え方とかを見ていると、すごく実直な印象を受けます。あんまり遊んでなさそうなイメージです。

田邊:外食とかもほとんどしないみたいで、ベルギーでの生活は自炊しているそうです。

アシシ:えっ? 日本代表クラスの選手で自炊してるなんて珍しくないですか? 香川真司選手など独身の海外選手は栄養士を専任で雇っているという記事を読んだことがあります。

田邊:これからトレーナーを付けようという話はあります。A代表に入ると、他の欧州組からそういった海外生活の面での情報が一挙に入ったようで、彼も刺激を受けたようです。これからいろんなことに取り組んでいくと思いますよ。

アシシ:代表に選ばれるというのは、そういう副次的な影響も受けるわけですね。2年前に契約した時、冨安がここまでの成長曲線を描くと予想していましたか?

田邊:正直、予想していませんでした。国外移籍からたった1年、代表戦であんなパフォーマンスができるとは、私も驚きでした。

アシシ:アジアカップ準決勝ではイラン代表のエース、アズムンをパーフェクトに抑えました。プレッシャーのかかる代表戦で、100%の力を出し切れた要因は何だと思いますか?

田邊:彼はフィジカル面も頭抜けていますが、私はメンタル面の方をより評価しています。とにかくストイックなんですよ。

アシシ:田邊さんはこれまで何百人というプロサッカー選手を見てきたと思いますが、そういうストイックな選手は成功しやすいですか?

田邊:その通り。ストイックといっても色んなパターンがあります。真面目すぎるとオーバートレーニング症候群になってしまう。

アシシ:冨安選手は見た目、ひょうひょうとしている雰囲気があるので、その点大丈夫そうですね。

田邊:彼の場合、たとえうまくいかない時期があっても、そこまでネガティブになったりしないですね。これからどんどんビッグになっていく過程で、そういうメンタル面のバランスは非常に重要です。

ビッグクラブへの移籍の可能性

アシシ:世界のスカウティングが注目するであろう国際大会のセミファイナルで、あれだけのパフォーマンスを見せた直後なわけですが、冨安選手に対してビッグクラブからのオファーは来ていませんか?

田邊:現時点ではまだ来ていませんね。シント=トロイデンには来ているかもしれませんが。あとはアジアカップ中に、代表の選手伝いでアクセスとかはあるかもしれません。

アシシ:いわゆる、非公式な接触って奴ですね。

田邊:そう。この業界は正式オファー以外に、そういった水面下での動きは数え切れないほどあります。いずれにせよ、冨安のここ最近の成長曲線を見ている限り、シント=トロイデンに長居していては駄目だと思いますよ。今シーズンの終わり、半年後の夏には移籍しないといけないと思っています。

アシシ:それ、書いちゃって大丈夫ですか?

田邊:あくまで私の見解なので、問題ないですよ。

アシシ:ちなみに12月にブレーメンからオファーがあったという記事を先日読みました。

田邊:正式なオファーはないです。契約はいつまであるかとか、そういった打診はありますけどね。正式なレターが来たというケースはないです。

アシシ:では、この冬のウインドウでの移籍はないとして、あるとしたら・・・。

田邊:今年の夏ですね。シーズン終了後は十分可能性はあると思います。

アシシ:田邊さん自身の意見としては、移籍すべきだと。

田邊:良いオファーがあればの話ですけど、次のステップに行くべき選手であることは確かです。

アシシ:そういった移籍先は、エージェントの田邊さんが能動的に探すものなんですか?

田邊:クラブも協力してくれないと移籍はできませんから、シント=トロイデンの意見も聞きながらになるとは思います。

(了)

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プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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