「サッカーの代理人って普段どんな仕事してるの?」 エージェント田邊伸明氏に聞いてみた

株式会社ジェブエンターテイメント代表取締役田邊伸明氏(スタッフ撮影)

株式会社ジェブエンターテイメントの代表取締役、田邊伸明氏にプロサッカー選手の移籍事情を伺う連載コラム。前回はJリーガーの欧州移籍における昨今のトレンドについて聞いたが、第3回となる今回はあまり語られることのない、エージェントの日常の業務内容について伺った(取材日:2019年1月30日)。

選手のハイライト映像を毎試合作成

アシシ:プロサッカー選手の代理人って我々サポーターからすると、謎の多い職業です。契約している選手をより条件の良いクラブに移籍させたり、クラブとの年俸交渉の場にその名の通り「代理」で出たり、オフシーズンにおける仕事内容はイメージがつくんですが、シーズン中は普段、どのような仕事をされているんですか?

田邊:他のエージェントが具体的にどんな業務をしているかわからないので、弊社の仕事内容について話をしますね。

アシシ:お願いします。

田邊:弊社にはエージェントの業務を担当しているのは自分も含めて6人いますが、普段の仕事としてはまず、担当する選手が出場する全試合を90分フルで見ます。

アシシ:それは映像で、ですか?

田邊:スタジアムに行って見ることもありますが、基本は映像です。今だとDAZNでチェックします。

アシシ:ジェブエンターテイメントに所属する選手ですが、ウェブサイトでチェックしてみると合計72人いました。単純に割り算するとひとりの代理人で12人の試合を全部見るわけですね。

田邊:大体そんな割合です。更に試合を見るだけではなくて、その選手のプレーを切り取ってハイライト映像を試合毎に作ります。

アシシ:映像作成までやるんですか。

田邊:そうです。で、その映像を選手に見せて、良かった点や悪かった点を指摘します。例えば「どうしてこのタイミングでパスの選択をしたのか?」など、非常に細かい部分にまで踏み込んで話をします。

アシシ:まさに個人指導ですね。でも選手にしてみれば「いやあなたは別に監督でもないでしょ」と感じる人もいそうですね。

田邊:指導者の視点も理解する必要があるので、弊社の代理人は全員指導者のC級ライセンスを取らせています。

アシシ:なんと。代理人がそういう資格を持っていると、選手もちゃんとアドバイスを聞いてくれそうですね。しかし映像作成からアドバイスまでやるとなると、すごく膨大な業務量に感じますが、それは月一程度のサイクルで回すんですか?

田邊:いえ、その選手が出場する全試合やるので、基本的に週サイクルですね。

アシシ:毎週ですか。選手によっては嫌がったりする人もいそうですね(笑)。

田邊:毎週やりたくないという選手も当然いますよ。そういう要望があればペースを落としますが、基本は1シーズン通して毎週続けます。

アシシ:週次でPDCAサイクルを回すわけですね。週末にDo(試合)して、試合内容を映像でCheck(確認)し、Action(改善)を促すと。

田邊:そうですね。クラブでもコーチの指導の下、似たようなサイクルは回していると思いますが、それとは別にクラブの外の人間がアドバイスすることに意義があると思っています。基本的に他人から評価されて年俸が決まったり、代表に選ばれたりするわけじゃないですか。第3者の評価視点を吸収できるか否かは、選手が成長する上で非常に重要なポイントだと思います。

契約時にまず引退する年を決める

アシシ:PDCAサイクルを毎週回しているとのことですが、その冒頭ステップ、Plan(計画)の部分はどんな感じでやっているんですか?

田邊:最初の契約時に、引退するまでの年表を選手に作ってもらいます。

アシシ:それはキャリアプランみたいなものですか?

田邊:その通りです。まず「いつ引退するか決めましょう」と言うと、大体の選手は嫌がります(笑)。でも、そうやってまずはプロサッカー選手の「寿命」について意識してもらいます。

アシシ:キャリアの終わりをあらかじめ決めて、そこから逆算してプランを描くわけですね。引退する時期以外には、どういったことを書かせるんですか?

田邊: 例えばワールドカップに出るという目標を立てる場合、4年毎のワールドカップのどの大会に出るのか? その目標達成のためには代表には何年前に選ばれる必要があるのか? 代表に選ばれるためには、いつまでにクラブでレギュラーを取らなくてはいけないのか? と逆算してキャリアプランを立てていきます。そうすると、「あれ? もう時間があまりない」ということに初めて気付くんです。

アシシ:私も大手企業の新人研修の外部講師を毎年春に請け負うんですが、数年後の自分のキャリアプランを描く演習をやったりします。それのサッカー選手バージョンですね。

田邊:そうです。日本のサッカー界は、プロのサッカー選手になるまではレールが敷かれてるんですよ。プロ契約するのは大半が18歳です。高校1~2年で契約する選手もたまにいますが、基本的に高校3年で契約します。そこでプロになれなかった選手は、次のチャンスは大学卒業時の22歳です。その目標までは何も考えずにただがむしゃらにサッカーをしているだけで、周りの大人たちがプロでやれるかどうか、イエスかノーかで判断してくれます。ところがプロになった途端、もう誰も何も決めてくれません。レールなんて存在しないし、いつまでにレギュラーを取ればいいのかなんて、誰も決めてくれません。

アシシ: レールの存在しないプロの世界で、ちゃんとしたキャリアプランを立てるのを支援するのが代理人の仕事だと。

田邊:ありがちなのが、「いつか海外でプレーしたい」と言う若い選手。もうたくさんいます。でもそれではダメなんです。「いつか」なんて言ってたら、絶対に海外には行けない。断言できます。明確な目標意識を持って、期限を設けてアプローチしないと達成できるわけがないんです。

アシシ:期限のある明確な目標を立てるところから、その目標達成に向けての週次改善のプロセスまでサポートするわけですね。ここまで選手に寄り添いながら日々仕事をしているとは、ちょっと目から鱗でした。もう職業の名称でいうと、代理人というよりもキャリアカウンセラーに近いですね。

田邊:繰り返しますが、あくまで弊社のやり方ですけどね。そもそも日本にプロリーグが産まれてからまだ20数年しか経っていません。当時、「エージェント業とはこういうもの」と教えてくれる人は誰もいませんでした。どこのエージェントも日々試行錯誤しながら仕事していると思います。代理人の仕事内容も数年後には更にガラッと変わっているかもしれないですけどね。

(了)

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