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岡田徹の愛娘・岡田紫苑をゲストに迎えたムーンライダーズ――「moonriders LIVE」レポート

宗像明将音楽評論家
ムーンライダーズ(撮影:南賢太郎/提供:jism)

岡田徹がこの世を去ってからのムーンライダーズ

2023年6月25日、日本現存最古のロックバンドであるムーンライダーズのワンマンライヴ「moonriders LIVE」が恵比寿ザ・ガーデンホールで開催された。ムーンライダーズのキーボーディストの岡田徹が2023年2月14日にこの世を去ってから、私は関東でのムーンライダーズのライヴを追いかけてきた。ここでは、2023年2月14日以降の流れも記したい。

「moonriders LIVE」での鈴木慶一(撮影:南賢太郎/提供:jism)
「moonriders LIVE」での鈴木慶一(撮影:南賢太郎/提供:jism)

岡田徹の死後、初めてムーンライダーズを見たのは、2023年4月26日に新代田Feverで開催されたファンクラブイベント「moonriders family trust presents Moonriders公開ゲネプロ」だった。会場の入り口には、岡田徹の肖像画が花とともに飾られていた。

眼福ユウコによる岡田徹の肖像画(筆者撮影)
眼福ユウコによる岡田徹の肖像画(筆者撮影)

その「ゲネプロ」とは何のためかというと、2023年4月29日に狭山稲荷山公園で1日目が開催された「ハイドパーク・ミュージック・フェスティバル 2023」のためのものだった。本番は、基本的にはゲネプロの通り進行したが、ゲネプロにはなかったことがいくつかあった。冒頭で鈴木慶一がPercy Bysshe Shelleyの詩の朗読をしたこと、「あの娘のラブレター」の前にNorman Greenbaumの「Spirit in the Sky」が演奏されたこと、そして最後に生前の岡田徹が弾いたTom Waitsの「Grapefruit Moon」の音源を流し、そこにメンバーたちが歌を乗せたことだった。

埼玉県狭山市は、若き日の岡田徹が暮らした場所であり、彼は「ハイドパーク・ミュージック・フェスティバル 2023」への出演を楽しみにしていたという。本番は、和気藹々としたゲネプロと大きく雰囲気を変え、岡田徹の追悼ステージとなっており、そうした演出がまたムーンライダーズらしかった。マニアックであり、決してわかりやすくはない演出だが、それでしか救えない魂――それはこの世を去った者の魂と、この世に残る者の魂の両方だ――があるのだと物語るかのように。

「moonriders LIVE」での鈴木慶一(左)、武川雅寛(右)、奥に澤部渡(撮影:南賢太郎/提供:jism)
「moonriders LIVE」での鈴木慶一(左)、武川雅寛(右)、奥に澤部渡(撮影:南賢太郎/提供:jism)

ムーンライダーズは、2023年5月20日に福岡県の海の中道海浜公園で1日目が開催された「CIRCLE' 23」にも出演。ムーンライダーズのサポートを務める澤部渡によると、とても熱いステージだったという。そう聞いてしまうと、行かなかったことが悔やまれる。

「moonriders LIVE」での澤部渡(撮影:南賢太郎/提供:jism)
「moonriders LIVE」での澤部渡(撮影:南賢太郎/提供:jism)

岡田徹の映像で幕を開けたワンマンライヴ

そして、2023年6月25日の「moonriders LIVE」は、岡田徹の死後、初めてのワンマンライヴだった。シンプルなタイトルだが、それは意図的なものだろう。会場に入れば、岡田徹の若かりし頃の写真や、愛用したアコーディオン、楽譜、編曲を手掛けたイモ欽トリオ『ポテトボーイズNo.1』(『高校三年生'82』と『制服のエンジェル』を担当)のゴールド・ディスクや杏里『コットン気分』のシルヴァー・ディスクなどが、花とともに展示されていた。それを見るために、会場にはファンの長い列が。「moonriders LIVE」は実質的に岡田徹のお別れ会でもあったのだ。

岡田徹の展示(筆者撮影)
岡田徹の展示(筆者撮影)

岡田徹の展示(筆者撮影)
岡田徹の展示(筆者撮影)

岡田徹の展示(筆者撮影)
岡田徹の展示(筆者撮影)

そして開演すると、会場にシンセサイザーが鳴り響いた。やがて、ステージ上のスクリーンに、在りし日の岡田徹がキーボードを弾く姿が映しだされた。2023年6月25日にアナログ盤がリリースされたインプロヴィゼーション・アルバム『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』のレコーディング風景だ。

そこにムーンライダーズの鈴木慶一、武川雅寛、鈴木博文、白井良明、夏秋文尚、そしてサポート・メンバーの澤部渡、佐藤優介が登場。彼らは、映像の中の岡田徹の演奏を聴きながら、それぞれの楽器でインプロヴィゼーションを始めた。夏秋文尚は、スクリーンの岡田徹を見るために幾度か振り返っていた。

夏秋文尚(撮影:南賢太郎/提供:jism)
夏秋文尚(撮影:南賢太郎/提供:jism)

そして1曲目は、岡田徹作曲の名曲「涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない」。さらに岡田徹作曲の「いとこ同士」へと続き、MC-8とスティール・パンに彩られた原曲とは対照的に、この日は白井良明のギターリフが鳴り響いた。

白井良明(撮影:南賢太郎/提供:jism)
白井良明(撮影:南賢太郎/提供:jism)

ふと、隣の席の人が涙を拭っていることに気づいた。横目で見てしまわぬように、私は意識的にステージを見続けた。

「HAPPY/BLUE'95」が演奏された後、MCで鈴木慶一は、1990年代に在籍したファンハウス時代の音源のボックスセットが8月にリリースされることをアナウンス。続いて武川雅寛は、最近家にリスが増えた話をしてファンを笑わせる一方、岡田徹との思い出についても語りだした。

武川雅寛(撮影:南賢太郎/提供:jism)
武川雅寛(撮影:南賢太郎/提供:jism)

「S.A.D」から、インプロヴィゼーションを挟んで「天罰の雨」へ。「無防備都市」では、澤部渡から歌いはじめた。佐藤優介が、岡田徹のアコーディオンを抱えて演奏したのは「ぼくは幸せだった」。「霧の10m2」では、白井良明と鈴木慶一のギターが前に出た演奏に。そして、前身のはちみつぱいから演奏されている「月夜のドライブ」は、艶やかさと激しさをあわせもつ演奏だった。

佐藤優介(撮影:南賢太郎/提供:jism)
佐藤優介(撮影:南賢太郎/提供:jism)

武川雅寛が、浜辺でサンドウィッチやおにぎりを食べるときはトンビに気をつけたほうがいいというMCをした後、「心を入れ替えて一生懸命練習しました」と語って始まったのは、John Simonの「マイ・ネーム・イズ・ジャック」。その終盤ではファンキーな演奏を展開していった。

ムーンライダーズ(撮影:南賢太郎/提供:jism)
ムーンライダーズ(撮影:南賢太郎/提供:jism)

MCで鈴木慶一は、ドラムのかしぶち哲郎が2013年に亡くなってから10年になることに触れ、彼の名盤『リラのホテル』のリリース40周年記念トリビュート・ライヴが開催されることをアナウンス。そこから「Beep Beep Be オーライ」「Frou Frou」と、かしぶち哲郎の楽曲を演奏していった。「Frou Frou」では、白井良明と鈴木慶一によるギターソロ合戦も。鈴木博文のベースが太く鳴り響いてから「駅は今、朝の中」が始まり、さらに「駄々こね桜、覚醒」へと続いた。

鈴木博文(撮影:南賢太郎/提供:jism)
鈴木博文(撮影:南賢太郎/提供:jism)

岡田紫苑が歌った「幸せの場所」

岡田徹作曲の「ダイナマイトとクールガイ」では、サビを歌うようにうながされてファンの大合唱に。個人的には、何百回も聴いていても歌詞を覚えていないものだと痛感した。これが今日のハイライトか――と思いきや、まだ予期せぬ展開が待っていた。岡田徹の愛娘である岡田紫苑(little moa)がステージ上に呼びこまれたのだ。

岡田紫苑(撮影:南賢太郎/提供:jism)
岡田紫苑(撮影:南賢太郎/提供:jism)

ムーンライダーズの演奏をバックに岡田紫苑が歌ったのは、岡田徹作曲の「幸せの場所」。ムーンライダーズの1998年の『月面讃歌』収録曲であり、岡田徹の2012年のソロ・アルバム『架空映画音楽集II~エレホンの麓で~』でもセルフ・カヴァーされていた楽曲だ。岡田徹のヴァージョンは寂寥感が漂い、原田知世が作詞した「男らしさは どこにあるんだろう / 強くなるって どんな人だろう」という歌詞が聴く者の胸にしみいるものだった。そして、そのヴァージョンにはlittle moaも参加していた。岡田徹はもういない。しかし、岡田紫苑はムーンライダーズとともに父親の楽曲を歌い継いだ。

アンコールは、まず「Days of OPUS」から。立教大学の作詞作曲サークル・OPUSで一緒だった岡田徹、武川雅寛、白井良明によるOPUS BOYSが制作した楽曲で、夏秋文尚も加わり、前述の『架空映画音楽集II~エレホンの麓で~』に収録されていた。最後は、岡田徹作曲の「さよならは夜明けの夢に」。スクリーンに歌詞が映しだされ、メンバーではなくファンが歌うという趣向だった。ファンの歌声のなか、周囲の人々がハンカチで涙を拭いていた。

すべての演奏が終わった後にメンバー紹介が行われ、最後に「岡田徹!」と呼ばれると同時に、スクリーンに岡田徹のアーティスト写真が映しだされた。そして、メンバーが去るなか、岡田徹の歌が流されだした。ムーンライダーズの2011年の『Ciao!』のアナログ盤にのみ収録された「Last Serenade」だ。

楽曲が終わるまで、ファンの拍手は止まらなかった。岡田徹がこの世を去ってからの約4か月、そして、それぞれが岡田徹に出会ってからの年月を噛みしめるかのように、拍手は長く長く響き続けていた。

ファン有志から贈られた薔薇の花(筆者撮影)
ファン有志から贈られた薔薇の花(筆者撮影)

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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