Yahoo!ニュース

YOASOBI初単独アリーナツアー追加公演初日レポートーーただのテクノでもロックでもない特異性

宗像明将音楽評論家
YOASOBI(Photo by MASANORI FUJIKAWA)

「アイドル」大ヒット中のツアー

2023年4月5日の愛知公演を皮切りに、初の単独アリーナツアー「YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”」を全国6か所で開催し、全12公演をソールドアウトさせたYOASOBI。そのツアーの追加公演の初日が、2023年6月23日に神奈川・ぴあアリーナMMで開催された。

YOASOBIは2019年に、コンポーザーのAyaseとヴォーカルのikuraが結成したユニット。2019年に「夜に駆ける」をリリースし、コロナ禍となった2020年に大ヒットしていく。そして、2020年末の「第71回NHK紅白歌合戦」に初出場。2021年には、日本武道館公演を2日間開催している。

YOASOBI(Photo by Kato Shumpei)
YOASOBI(Photo by Kato Shumpei)

そんなYOASOBIのライヴ活動は、社会がコロナ禍に襲われ、そこから脱していく過程とシンクロしているかのようだ。2021年2月の初ライヴ「YOASOBI 1st LIVE 『KEEP OUT THEATER』」は、オンライン配信ライヴで、2021年12月の日本武道館での「YOASOBI『NICE TO MEET YOU』」は、ファンが声を出せない状況。ところが「YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”」では各種の規制も緩和され、さらに「アイドル」が大ヒットしているなかでのツアーとなった。「アイドル」は、Billboard JAPANのストリーミング・ソング・チャートである「Streaming Songs」で10週連続1位を獲得し、史上最速で再生回数2億回を突破。この日のYOASOBIは、まさに2023年という時代を味方につけたかのような堂々たるステージを見せた。

YOASOBI(Photo by Kato Shumpei)
YOASOBI(Photo by Kato Shumpei)

開演前に会場周辺を歩いていると、オレンジのタオルを双肩にかけた、10~20代のファンが圧倒的に多い。親子連れも多く、親は30~40代。会場ではイヤーマフの貸し出しも行われており、安心して子どもと楽しめる環境作りが行われていることも大きな要因だろう。物販コーナーのほか、移動式書店の「YOASOBI号」や、YOASOBIとメルセデス・ベンツのコラボによるラッピングカーの展示コーナーもあり、ファンでにぎわっていた。単独公演なのにフェスのような雰囲気なのだ。

バンド編成YOASOBIの生々しいリズム・セクション

そして開演。会場にImagine Dragonsの「I Bet My Life」が流れるとファンが立ち上がり、ペンライトを赤く輝かせる。アリーナのファンの頭上にはレーザーが飛び交った。そして、スモークの中からYOASOBIが登場。ikuraが「YOASOBIはじめます!」と叫ぶと、「怪物」がスタート。ときにブルースも連想させるikuraのヴォーカルの低音が心地いい。さらに曲中ではステージで火薬が爆発した。

ikura(Photo by Kato Shumpei)
ikura(Photo by Kato Shumpei)

2曲目で早くも「夜に駆ける」が披露されたが、驚いたのはバンドの演奏だ。サウンドはデジタルだが、リズム・セクションは生々しく、特にドラムが大きく鳴り響く。キーボードのミソハギザクロ、ギターのAssH、ベースのやまもとひかる、ドラムの仄雲を加えた編成は、ロックバンドのような疾走感を生みだしていた。しかも、ikuraのヴォーカルのピッチは正確無比。Ayaseはファンを煽り、ikuraはファンをジャンプさせる。同じ「夜に駆ける」でも、MVとライウでは、まるで雰囲気が異なるのだ。

YOASOBI(Photo by MASANORI FUJIKAWA)
YOASOBI(Photo by MASANORI FUJIKAWA)

「三原色」では、ファンがタオルを回して盛りあげ、最後にはシンガロングも起きる。続くMCでは、ikuraが地元である横浜のファンに、おすすめスポットをステージから質問するなど、ファンとの距離を縮めるトークをしていた。

「セブンティーン」や「ミスター」では、ベースの音量の大きさに驚いた。そこにはYOASOBI独特のグルーヴがある。ソウル・ミュージックをも連想させる「海のまにまに」でも、各楽器の音が粒だって鳴らされていた。一方「好きだ」では、アコースティック・ギターが奏でられ、サウンドの隙間がikuraの歌声を引き立てる。YOASOBIのライヴでは、サウンドのアプローチの多彩さも再確認させられた。

ikura(Photo by Kato Shumpei)
ikura(Photo by Kato Shumpei)

Ayase(Photo by Kato Shumpei)
Ayase(Photo by Kato Shumpei)

YOASOBIの楽曲群とキャラクターが生む世代を超えた大衆性

「私はまた必ずあなたに会いたいです」というikuraのMCに続いて、「アンコール」へ。ファンが白いペンライトを振るなか、PA席のスタッフも手を振っていた。「もしも命が描けたら」では澄んだピアノの音色が響き、ミディアム・ナンバーにしてグルーヴィーな「たぶん」では、ikuraのヴォーカルの艶やかさが光る。その「たぶん」は、ファンとともに指を鳴らして終わった。

YOASOBI(Photo by Kato Shumpei)
YOASOBI(Photo by Kato Shumpei)

MCでは、Ayaseによる物販のグッズ紹介もあったのだが、そのグッズを着用したスタッフがPA席で立ち上がり、モニターに映し出されていく演出だった。スタッフの身長と、着用しているサイズもしっかり紹介される。そんなアットホームな雰囲気から、Ayaseはツアーに賭けてきた日々について語り、「最後の日でもいいという覚悟を持ってきた、おまえらはどうかい?」とファンに呼びかけた。

Ayase(Photo by MASANORI FUJIKAWA)
Ayase(Photo by MASANORI FUJIKAWA)

「大正浪漫」のメロディーは歌謡曲をも連想させ、ミディアム・ナンバーの「もう少しだけ」も、実にポップにしてキャッチーだ。Ayaseのコンポーザーとしての柔軟さを感じさせる。「ラブレター」のせつせつとしたメロディーも美しい。こうした楽曲群の魅力と、Ayaseとikuraのキャラクターの明るさは、上の年代にもとっつきやすく、それはすなわちYOASOBIの世代を超えた大衆性にも結びついている。

「祝福」では、再びバンドのグルーヴによって疾走感が生みだされていく。そして、Ayaseの「あと2曲、まだ行けるよな!」という煽りから「群青」へ。会場を埋める1万人によるシンガロングが強烈な高揚感をもたらした。そしてラストは「アドベンチャー」。軽やかな高揚感が会場を包みこみ、YOASOBIとファンのジャンプで本編は終了した。

ikura(Photo by Kato Shumpei)
ikura(Photo by Kato Shumpei)

しかし、これだけ有名曲を演奏し続けても、まだ重要な楽曲が披露されていないのだ。前述の「アイドル」である。アンコールは、荘厳なコーラスで幕を開けて「アイドル」へ。曲中ではファンによる激しいコールも起きた。その盛りあがりは、まさにこの日の最高潮。いわゆるアイドル現場のコールがそのままYOASOBIの「アイドル」に吸収されたかのようでもあった。

噴出された銀テープが客席に舞い降りるなか幕を閉じた「YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”」神奈川追加公演初日。まさにYOASOBIがJ-POP――SpotifyのプレイリストにならうならGacha Popだが――を切り拓いていることを体感させるライヴだった。ライヴでのYOASOBIは、ただのテクノでもなければロックでもない。その特異性こそが、2023年の最先端なのだ。

YOASOBI(Photo by MASANORI FUJIKAWA)
YOASOBI(Photo by MASANORI FUJIKAWA)

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

宗像明将の最近の記事