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新型コロナが生む偏見や妬み、差別による分断を食い止めよう――リクオ無観客有料配信ライヴレポート

宗像明将音楽評論家
有料ライヴ配信でのリクオ(筆者によるスクリーンショット)

「ピアノ・マン」リクオの真骨頂

時が過ぎれば笑えるかもね

でも今日はそらしゃ~ないわ

出典:リクオ「雨上がり」

リクオの歌とピアノが、聴く者の心を柔らかくしていく。新型コロナウイルスの感染拡大によって、日常に満ちている緊張を、そっとときほぐす。ぬぐえない憂鬱を肯定し、穏やかに前を向かせていく。

2020年4月29日、京都・ノルウェイジャンウッドから、リクオの無観客ライヴ「ローリングピアノマン リクオ ツイキャスLIVEプレミア 有料配信ライブ」が配信された。

誰もいないカフェにキーボードがセッティングされ、それを弾きながら歌うリクオの姿は、まさにピアノ・マンの真骨頂。カフェに差す日射しの柔らかさが、4月の終わりの17時とは、こんなにも明るいものだと教えてくれる。

リクオ(筆者によるスクリーンショット)
リクオ(筆者によるスクリーンショット)

会場となったノルウェイジャンウッドは、リクオの自宅から自転車で5分程度だという。MCでリクオは笑った。

「もうひと月家にこもってて、めっちゃ体調いいんですよ。ツアー生活に戻れるのかな? でも、ツアーが恋しくなってきた」

ツアーに向けて用意したという衣装へのファンの反応を、リクオはiPhoneでチェックする。全国各地でツアーを続けてきたリクオだが、2020年3月末以降はすべてのライヴが延期あるいは中止に。そんな状況下で行われた無観客配信ライヴでは、配信サービスのツイキャスが用いられ、リクオの姿をとらえる数台のカメラの映像がスイッチングされていった。

リクオ(筆者によるスクリーンショット)
リクオ(筆者によるスクリーンショット)

「みんなで補いあっていこう」

視聴料金は3,000円。14日間はアーカイヴの購入や視聴も可能だ。売り上げの20%は、ホームレスなどの生活困窮者を支援する「認定NPO法人ビッグイシュー基金」に寄付される。

ふだんのリクオのライヴならば、ここでファンのクラップが起こるはず――という瞬間も歓声はない。しかし、ツイキャスの画面にはファンのコメントがたえまなく流れていくので、不思議な一体感がある。

ライヴ中盤では、会場の換気のために休憩を挟んだ。休憩明けのリクオは、ビールのグラスを手に、ファンに乾杯を呼びかけた。

「無観客って感じはせえへんね、このカメラの向こうでたくさんの人たちが見てくれてる」

ソウル・フラワー・ユニオン/HEATWAVEのカヴァー「満月の夕」を歌い終えると、リクオはこう語った。

「偏見や妬み、差別によって僕たちは分断させられる。身内じゃない誰かに対する想像力を豊かにして、分断を食い止められたときに、僕らはコロナウイルスを克服したと言えるんじゃないかと思います」

そして、ニック・ロウの「(What's So Funny'Bout) Peace, Love, and Understanding」の日本語カヴァー、ザ・ブルーハーツのカヴァー「青空」、リクオの「Happy Day」へと続けた。

「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」では、配信でもリクオの熱演ぶりが伝わってくる。本編最後の「アイノウタ」ではピアノから立ち上がり、自らクラップした。

リクオ(筆者によるスクリーンショット)
リクオ(筆者によるスクリーンショット)

「このコロナウイルスが収束したら必ずみんなが暮らす街に行きます。『元気でいてくれ』とは言えない、俺も元気じゃないときはあるし。頑張れる人が頑張ればいいんちゃう? そうやってみんなで補いあっていこう」

そう語ると、リクオはアンコールで新曲「君を想うとき」を初披露。アンコール最後の「永遠のロックンロール」をリクオが高らかに歌い終えた頃には、ノルウェイジャンウッドの外は、すっかり夜の闇に包まれていた。開演から2時間以上が経っていた。

リクオ(筆者によるスクリーンショット)
リクオ(筆者によるスクリーンショット)

iPhoneの小さな画面を見て救われる体験

現在、多くのアーティストが無観客有料ライヴを試みている。ただ、無観客とはいえ最小限のスタッフが集まる以上はリスクがある。今回、リクオはTwitterで以下のように述べ、慎重を期していた。

配信ライブを行うにあたっては、極力、人との接触を避け、会場までは自転車か徒歩で向かいます。自分も含め4人以内に入店を制限し、それぞれの距離を保ち、感染リスクを最小限に押さえるように心掛けます。

出典:Twitter - リクオ・オフィス

さらに配信機材とスタッフを揃え、課金システムを使い、何より配信者側も視聴者側も安定したインターネット回線を用意する必要がある。従来の感覚で言えば、ハードルは決して低くない。

リクオ(筆者によるスクリーンショット)
リクオ(筆者によるスクリーンショット)

それでも私たちは音楽を求める。ストレートに言えば、私もリクオのライヴを見て「救われた」。iPhoneの小さな画面の中に、音楽、そして人とのつながりがあった。

医療や食料といったインフラが最優先される日々はまだまだ続くだろう。エンターテインメント業界は自粛を余儀なくされる。しかし、外出自粛が続くなかで、エンターテインメントに一切触れずに過ごせる人は、ごくわずかのはずだ。

この日のリクオのライヴは、現状において前向きになれない人、誰にも助けを求められない人をも強く意識したものだった。憂鬱に飲みこまれそうな人に、あるいは憂鬱に飲みこまれてしまっている人にこそ見てほしい。そう強く願ったのがリクオの「ローリングピアノマン リクオ ツイキャスLIVEプレミア 有料配信ライブ」だった。

ノルウェイジャンウッドでは、2020年5月24日には中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)の無観客有料配信ライヴも行われる予定だ。

リクオ(筆者によるスクリーンショット)
リクオ(筆者によるスクリーンショット)

セットリスト

第1部

1.雨上がり

2.新しい街

3.光

4.友達でなくても

5.希望のテンダネス

6.グラデーション・ワールド

7.ソウル

第2部

1.穴を掘る

2.ランブリン・マン

3.Forever Young

4.あれから

5.同じ月を見ている

6.満月の夕

7.(What's So Funny'Bout) Peace,Love & Understanding

8.青空

9.HAPPY DAY

10.オマージュ- ブルーハーツが聴こえる

11.アイノウタ

アンコール

1.君を想うとき(初公開新曲)

2.ケ・サラ

3.永遠のロックンロール

「ローリングピアノマン リクオ ツイキャスLIVEプレミア 有料配信ライブ」配信URL

https://twitcasting.tv/c:dop2020/shopcart/3661

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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