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若い世代が生みだしたユースカルチャー現場――真っ白なキャンバス ワンマンライヴレポート

宗像明将音楽評論家
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

現在の東京でもっとも優れたグループのひとつ

2019年5月3日に渋谷CLUB QUATTROで開催された「真っ白なキャンバス3rdワンマンライブ『Pure White Palette』」の核心は、若い世代によって生みだされているユースカルチャー現場だったことだ。それが現在の東京でもっとも優れたグループのひとつである真っ白なキャンバスの真価だった。

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

真っ白なキャンバスから葛藤の匂いがした日々

真っ白なキャンバスは、6人組アイドル・グループ。2017年11月にお披露目され、現在のメンバーは小野寺梓、鈴木えま、麦田ひかる、三浦菜々子、西野千明、橋本美桜。2019年3月にリリースされた初めてのシングル「闘う門には幸来たる」がオリコンのデイリー1位を獲得するなど、勢いに乗るグループだ。渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライヴもソールドアウトの状態で当日を迎えた。

私が真っ白なキャンバスに出会ったのは、「MARQUEE」vol.128のためにインタビューをした2018年6月末のことだった。その夏を、若いファンたちの圧倒的な熱量とともに駆けぬけた真っ白なキャンバスだが、2018年秋に大きな転機を迎えることになる。当時リーダーだった立花悠子の卒業だ。真っ白なキャンバスはグループの大黒柱を失うことになり、一時は「解散」という言葉も出たと聞く。

2018年12月31日には、西野千明と橋本美桜が新メンバーとして加入。私は、立花悠子の卒業から新メンバーの加入までの間のライヴも見ているが、盛りあがりに欠けるといったこともなく、大きな変化は現場に起きていないという印象だった。

そんな真っ白なキャンバスを見る目が変わったのは、2019年1月初旬に「MARQUEE」vol.131のために新体制の真っ白なキャンバスにインタビューをしたときだった。その取材の場で、メンバー6人中4人が涙を流す事態となる。その場の空気に飲まれなかった麦田ひかると西野千明は今後も泣くことはないだろう……と考えていたところ、2019年2月下旬に行った「MARQUEE」vol.132のための西野千明の単独取材では、彼女も途中から泣き続けることになった。

私にとって、「うまくいっている人たち」という真っ白なキャンバスへのイメージが大きく変わったのはこの時期だ。彼女たちからは葛藤の匂いしかしなかった。

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

メンバーも、プロデューサーも、ファンも若い

私は2019年3月中旬から真っ白なキャンバスの現場へよく行くようになり、「空爆の中にいるかのようだ」と感じるほどのMIX(アイドル現場などで用いられる掛け声)やコールを「闘う門には幸来たる」のリリース・イベントで味わうことになる。なによりファンが若い。平均年齢は20歳といったところではないだろうか。真っ白なキャンバスがよく出演するライヴハウス・白金高輪SELENE b2で、楽曲にあわせてツーステップを踊る若者たちの姿に心ひそかに感動したこともあった。

要は、根本的に文化圏が異なるのだ。ユースカルチャー現場である。

そもそもプロデューサーの青木勇斗は、2018年に初めて会ったとき、まだ20歳だった。現在の東京のライヴ・アイドル・シーンには、20代のプロデューサーが手がけるグループがすでに数多く登場し、新たな潮流を生みだしている。そこから頭ひとつ抜けているのが真っ白なキャンバスなのだ。メンバーも、プロデューサーも、ファンも若い。

また、話題作りのためにあの手この手を使うアイドルよりも、ケレン味のない真っ白なキャンバスが強い動員力を誇っていることも重要だ。青木勇斗は以下のようなポイントを意識しているとFacebookに書き記している。

そんな白キャンのコンテンツを作るときに心がけていることがありまして、

1 具体的なものにしない

2 個性

3 地上感

の3つを心がけてます。

(中略)

そのおかげか、大手アイドルから流れてくるファンの方が多く、母数も多いので今の所うまく行っています。

出典:Onokuwa Creation - Facebook

ここで重要なのは、「大手アイドルから流れてくるファンの方」が多いという記述だ。真っ白なキャンバスをめぐるTwitterでの投稿を見ていると、乃木坂46のような大手アイドルから流れてくる若いファンが多いことに驚かされる。彼らは、より身近で、より自由に盛りあがることができる真っ白なキャンバスに夢中になる。小さなパイの奪い合いをしているようなアイドルと真っ白なキャンバスとでは、根本的にマーケットが違うのだ。

真っ白なキャンバス。左から橋本美桜、麦田ひかる、鈴木えま、西野千明(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス。左から橋本美桜、麦田ひかる、鈴木えま、西野千明(撮影:真島洸(M.u.D))

ラブ・ソングがないアイドル・グループ

2019年5月3日の「真っ白なキャンバス3rdワンマンライブ『Pure White Palette』」は、「アイデンティティ」で幕を開けた。ステージには5面のモニターが用意され、レーザーも飛ぶ。そして、真っ白なキャンバスは新衣装でステージに立った。グループ名を想起させる白い衣装だ。

「アイデンティティ」は、真っ白なキャンバスにとって初めてMVが公開された楽曲だ。ふだんのライヴの1曲目を飾ることも多い。その楽曲の歌詞が、以下のような内容であることは象徴的だ。真っ白なキャンバスにはラブ・ソングはない。

「僕がやりたいことはなに?」

ずっと誤魔化していた

否定されるのが怖かった

それなりに生きる道

そうするべきと思っていた

出典:真っ白なキャンバス「アイデンティティ」

代表曲である「SHOUT」では、咆哮のようなコールが飛び、打点の高いジャンプも行われる。

そして、真っ白なキャンバスの楽曲のなかでも内省的な「モノクローム」は、この日初めて6人体制で披露された。アイドル・グループにありがちなユニゾンが少ないのも真っ白なキャンバスの特徴で、基本的にはソロ・パートの連続で構成されている。

「白祭」「untune」から、「Whatever happens, happens.」へ。麦田ひかるは、会話するときのあどけなさ(この表現は小野寺梓によるものだ)とは裏腹に、真っ白なキャンバスのダンスを牽引する存在であり、「Whatever happens, happens.」は彼女のパフォーマンスがひときわ輝く楽曲だ。

真っ白なキャンバスの麦田ひかる(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバスの麦田ひかる(撮影:真島洸(M.u.D))

そして、「Whatever happens, happens.」で叫ばれるMIXは、チキパMIX、ガチ恋口上からのスペイン語MIX、寺田心MIXと妙に多い。他にも、パンMIX、可変3連MIX、林修MIX、ワールドカオス(逆打ちあり)、田んぼMIX、高まる低まるビスマルクなども真っ白なキャンバスの現場では聴けるが、「それは何なんだ」という声が大多数だろう。各自で検索してもらいたい。

「清涼飲料水」「Begin」から、この日が初披露の「セルフエスティーム」へ。冒頭での麦田ひかるのダンスも素晴らしい。

「ピンチケ向け」は偏見に過ぎない

「My fake world」から続けて披露されたのは、さきほども歌われた「モノクローム」のピアノ・アレンジ・ヴァージョンだった。

「モノクローム」については、2019年4月16日の渋谷TSUTAYA O-nestのライヴでの名演が忘れがたい。その日は、まだ西野千明と橋本美桜が「モノクローム」に参加していなかった。しかも、ときに幼く、ときに憂いを感じさせるなど、楽曲ごとに見事に表情を変えていく鈴木えまが高熱のため休んでいた。

真っ白なキャンバスの鈴木えま(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバスの鈴木えま(撮影:真島洸(M.u.D))

つまり、小野寺梓、麦田ひかる、三浦菜々子の3人のみで披露されたのだ。

小野寺梓は、歌とパフォーマンスの両面で高い実力を誇り、SNSでの個性の出し方のうまさも光る。ステージでの表情も常に完璧。「自称リーダー」を宣言しているが、間違いなく現在の真っ白なキャンバスを支えている情熱の持ち主だ。

真っ白なキャンバスの小野寺梓(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバスの小野寺梓(撮影:真島洸(M.u.D))

三浦菜々子は、2018年3月に加入し、同期がいない唯一のメンバーであることへの苦悩をにじませつつも、かつて所属したStereo Tokyo時代には想像もつかなかったほどの歌唱力を真っ白なキャンバスで発揮している。さらに前述の麦田ひかるの3人による2019年4月16日の「モノクローム」は、一分の隙もないようなパフォーマンスだった。

真っ白なキャンバスの三浦菜々子。その背後に小野寺梓(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバスの三浦菜々子。その背後に小野寺梓(撮影:真島洸(M.u.D))

「真っ白なキャンバス3rdワンマンライブ『Pure White Palette』」のピアノ・アレンジ・ヴァージョンの「モノクローム」での真っ白なキャンバスは、踊ることなく歌だけに専念し、彼女たちのヴォーカル面での実力を感じさせた。「モノクローム」を歌う真っ白なキャンバスは、昨年に比べても一気に表現力を増している。真っ白なキャンバスを「ピンチケ向けのアイドル」と見ることは偏見に過ぎない。

新メンバーとの成長を物語る「自由帳」

続く「全力全霊」は、2019年4月26日の新木場Studio Coastでのライヴから6人体制で歌われていた。立花悠子在籍時代の「全力全霊」に思い入れがあるファンもいるなかで、新メンバーの西野千明と橋本美桜は果敢にパフォーマンスに参加していった。

西野千明は、取材ではダンスが苦手だと号泣していたものの、4か月で目を見張るような成長を遂げた。橋本美桜は、加入時から実力を高く評価されていた反面、強烈なプレッシャーと戦い続けてきただろう。「真っ白なキャンバス3rdワンマンライブ『Pure White Palette』」の「全身全霊」では、ふたりのパフォーマンスもメンバーとしてさらにグループの内部へ食いこんでいるように感じられた。

真っ白なキャンバスの西野千明(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバスの西野千明(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバスの橋本美桜(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバスの橋本美桜(撮影:真島洸(M.u.D))

フロアにサークルモッシュが発生する「HAPPY HAPPY TOMORROW」、「SHOUT」に次ぐ代表曲と言っていい「PART-TIME DREAMER」で本編は終了した。

そして、ファンからの激しいアンコールを受けて、Tシャツ姿の真っ白なキャンバスがステージに戻り、「闘う門には幸来たる」へ。MCで西野千明が泣きだすと、三浦菜々子がほほえみながら西野千明の背中と頭をポンポンと叩いた。「もっと大きいところへ行きたい」と宣言したのは小野寺梓だ。

アンコールの最後は「自由帳」。イントロで小野寺梓は「この曲は6人で初めて披露した曲です」と紹介し、「自由帳」は6人での成長を物語る楽曲のように響いた。そして、メンバーが肩を組んで歌うと、超満員の会場のファンたちも肩を組んで揺れた。壮観だった。

真っ白なキャンバス。左から三浦菜々子、小野寺梓、麦田ひかる(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス。左から三浦菜々子、小野寺梓、麦田ひかる(撮影:真島洸(M.u.D))

停滞することすら許されない状況を乗りこえた真っ白なキャンバス

「真っ白なキャンバス3rdワンマンライブ『Pure White Palette』」を終えた三浦菜々子は、自然消滅したStereo Tokyoでの経験を踏まえて、ブログにこう綴っていた。

ななは目の前で掴めそうだったものが音もなく消えてしまう怖さも

毎週のようにライブができたりみんなと会える日常が突然なくなってしまう怖さも知っています

出典:Pure White Palette | 三浦菜々子オフィシャルブログ「なぁこの生活。」Powered by Ameba

なぜ最近の真っ白なキャンバスは見続けていても飽きないのだろうか? よくそう自問自答するのだが、真っ白なキャンバスには常に伸びしろが見えるのだ。20分程度の対バンライヴやリリース・イベントでは、真っ白なキャンバスはセットリストを大きくは変えない。しかし、それでいて毎回必ず新鮮な手応えがある。

それは、立花悠子との別れと、西野千明と橋本美桜との出会いを経験した、真っ白なキャンバスの成長の結果にほかならない。6人体制になってからの4か月の変化はあまりにも大きかった。変化の激しいシーンにおいて、彼女たちは停滞することすら許されない状況にいた。

いつまで今のような真っ白なキャンバスを見られるのだろうかと不安になることもある。しかし、喪失を恐れることは、老いている証拠でもある。真っ白なキャンバスは、私たちの世代を意識することも、歩み寄ることもなく、ユースカルチャーの中を突き進んでほしい。彼女たちが抱えているはずの広大な余白に描き加えられるべきものは、真っ白なキャンバスの世代ならではの価値観であるはずなのだ。

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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