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伝統は変えていくことによってこそ続いていく――津軽三味線奏者・川嶋志乃舞ワンマンライヴレポート

宗像明将音楽評論家
川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)

2019年4月20日、津軽三味線奏者の川嶋志乃舞のワンマンライヴ「ハイカラハーバー vol.15」が渋谷eggmanで開催された。

川嶋志乃舞は、津軽三味線の全国大会で4回の優勝を果たしている日本伝統音楽の担い手。その一方で、フィロソフィーのダンスのアレンジャーとして知られる宮野弦士とともに、ポップスにもアプローチしている。

川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)
川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)

この日は、津軽三味線を抱えた川嶋志乃舞が、ベーシスト、ドラマーとともに登場し、歌いはじめてライヴがスタート。そう、川嶋志乃舞は津軽三味線奏者であると同時にヴォーカリストでもあるのだ。

川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)
川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)

津軽三味線奏者がロックやポップスのフィールドにアプローチするのは、以前から行われていることだ。吉田兄弟や上妻宏光の名をすぐに挙げることもできる。

そんななかで川嶋志乃舞のユニークなところは、サウンドの方向性の特異さにある。この日披露された15曲中10曲を編曲している宮野弦士は、フィロソフィーのダンスでさまざまなブラック・ミュージックにアプローチしている人物である。川嶋志乃舞の津軽三味線もまたブラック・ミュージックのグルーヴの上に乗る。川嶋志乃舞の楽曲が、ときにシティ・ポップも連想させるのはそのためだ。その音楽性は、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」の世界的な再評価の時流とも不思議とシンクロする。

川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)
川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)

ぽわんのメイビーモエを迎えた「City Shake」はアーバンな香りがした。Tokyo ROUGEの田中浩子と船木綾乃をダンサーに迎えての「東京タワーラプソディー」は、洒落たスウィング・ナンバーだ。熱気と軽みをあわせもつ川嶋志乃舞の撥さばきに、会場から「日本一!」の声が飛ぶ。

川嶋志乃舞が歌いだしたのはここ3年のことだ。それまでは津軽三味線によるインストルメンタルを演奏していた。津軽三味線の独奏による「津軽じょんがら節」は、テクニックはもちろんのこと、圧倒的な「間の芸能」であった。西洋音楽の文脈にないタイム感をもってして、彼女は再びベースとドラムを伴った楽曲を演奏しはじめた。

川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)
川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)

この日のライヴでは、全国流通盤のリリースと、それに向けたクラウドファンディングのスタートがアンコールで発表された。伝統芸能ポップ盤と完全民謡盤のリリースを目指しているという。川嶋志乃舞は語った。

「伝統は変えていくことによってこそ続いていくものだと思います」

高橋竹山を持ちだすまでもなく、川嶋志乃舞は津軽三味線を生涯にわたって抱え続けていくだろう。そうした音楽家がポップスへどうアプローチしていくのかを見守っていきたい。

川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)
川嶋志乃舞(撮影:ATSUSHI)
音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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