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「このままじゃ代表に選ばれない」。W杯へ危機感の大迫勇也。苦境神戸を救えるか?

元川悦子スポーツジャーナリスト
金髪にイメチェンしてACLに挑む大迫(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

今季Jリーグ未勝利の神戸がACL初戦へ

 2022年アジアチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージ(東地区)が15日に開幕。Jリーグ王者・川崎フロンターレがここまで1勝1分、浦和レッズが2連勝で、横浜F・マリノスも初戦勝利と、日本勢は好発進を見せている。

 ヴィッセル神戸も19日夜の傑志(香港)戦から第一歩を踏み出す。神戸の入ったグループJは当初、上海海港(中国)、チェンライ・ユナイテッド(タイ)、傑志との4カ国で編成されていたが、新型コロナウイルス感染拡大で再びロックダウンに入った影響で上海海港が辞退。3チームで決勝トーナメント(ノックアウトステージ)進出を争う構図となった。神戸にとっては追い風と言えるが、今季J1で10戦未勝利というチーム状態を考えると楽観は許されない。初戦から確実に白星を重ね、いち早く突破を決めることが先決だ。

カギを握るエース・大迫の一挙手一投足

 そこで気になるのが、エースFW大迫勇也の一挙手一投足だろう。3月15日のACLプレーオフ・メルボルン・ビクトリー戦で2ゴールを叩き出し、本戦出場の立役者となったが、今季J1では無得点(4月19日現在)。3月2日の横浜戦で負った右足裂傷の影響で、3月の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選のオーストラリア(シドニー)・ベトナム(埼玉)2連戦も代表辞退を強いられた。

「自分が代表を引っ張っているという自覚はある」とここ数年、繰り返し言っていた男が日本の7大会連続W杯出場決定の場にいられなかったことは、本当に悔しさいっぱいだったはずだ。

 現在の苦境を本人は誰よりもよく認識しており、4月9日のオンライン取材時には「このままじゃW杯には選ばれない。この状況を少しでも好転させるようにしないといけない」と強い危機感を吐露した。

 この発言について、日本代表の森保一監督は「彼はまだまだ向上心があるなと。もっともっと強くなりたいという気持ちの表れだと感じました」と前向きに受け止めたという。

 その一方で、「実際、競争という部分では、大迫ほどの経験はないものの、世界で戦っていけるパフォーマンスを見せている若手がいることは感じている。我々も誰がいいとか悪いとかではなく、今、実力がある選手が誰なのかをしっかり視察を通して確認し、最終選考で見極めたい」と新たな選択肢も視野に入れていることを明かした。

カタールW杯最終予選は不完全燃焼感が強かったはずだ
カタールW杯最終予選は不完全燃焼感が強かったはずだ写真:森田直樹/アフロスポーツ

代表若手世代の追い上げを刺激にできるか?

 2018年9月の森保ジャパン発足以来、「絶対的1トップの大迫ありき」のチーム作りをしてきた指揮官だが、近年のケガややや不安定なパフォーマンスを目の当たりにすれば、彼だけに依存してはいられなくなるのも当然のこと。W杯開幕(11月)までの7カ月間で大迫の復調を願いつつも、調子を上げている東京五輪世代の上田綺世(鹿島アントラーズ)や前田大然(セルティック)、林大地(シントトロイデン)らの爆発的成長に期待を寄せているはずだ。

 大迫としては、こうした追い上げを刺激にしつつも、絶対的地位を守り続け、4年前の2018年ロシアW杯で果たせなかったベスト8入りの原動力にならなければいけない。そのためにも今回のACLを飛躍のきっかけにしなければならない。傑志、チェンライといったアジア勢に違いを見せつけ、ゴールという確固たる結果を残し続ければ、状態も上がってくるし、自信も取り戻せるはず。そういう方向に仕向けていくことが必要なのだ。

2016年11月のサウジアラビア戦の頃を思い出せ!

 思い起こすこと6年半前。大迫は2016年11月のロシアW杯最終予選・サウジアラビア戦(埼玉)で圧倒的な存在感を示し、代表1トップの座を確実にした。が、そこまでの足跡は順風満帆とは言い切れないものがあった。

 2013年7月の東アジア選手権(韓国)で代表デビューを飾った頃は柿谷曜一朗(名古屋グランパス)の後塵を拝し、2014年ブラジルW杯ではファーストチョイスの座を奪ったかと思いきや、ハビエル・アギーレ監督(現マジョルカ)時代は呼ばれたり呼ばれなかったり。2015年のヴァイッド・ハリルホジッチ監督(現モロッコ代表)就任からしばらくはコンスタントに招集されたものの、同年6月のロシアW杯1次予選・シンガポール戦(埼玉)の後は見送られ、1年5カ月も日の丸から遠ざかることになった。

 浮き沈みの激しかった大迫が絶対的地位を築けたのは、当時所属していたドイツ1部・ケルンで着実に実績を残し、「世界と互角に戦える」という手ごたえを得たことが大きい。久しぶりに代表復帰した2016年11月シリーズの大迫は「ドイツの激しいリーグでもう2~3年やってて、すごく慣れてきたので、フィジカルの部分は自信を持って取り組めると思います」と自信満々にコメントしていた。「当たりの部分もそうですし、ドイツのプレーの速さにも慣れましたし、レベルの高いサッカーに慣れたところが一番成長できてるところかなと思います」とも語り、実際にピッチ上での余裕を感じさせた。

6年半前のサウジアラビア戦の大迫は異彩を放っていた
6年半前のサウジアラビア戦の大迫は異彩を放っていた写真:YUTAKA/アフロスポーツ

神戸で輝くことがカタールへの一番の近道

 こういった当時を踏まえると、神戸で苦しんでいる今は成長を実感できていない状態なのだろう。だからこそ、「このままじゃW杯に選ばれない」などという弱気なコメントが口をついて出たのだ。そのマインドを変えるためには、どうしてもクラブでの結果が不可欠だ。ACLという一味違った大会で戦うことは悪い流れを変える絶好のチャンス。これを生かすことが今後につながると言っていい。

 7年半ぶりに神戸に移籍した昨季後半、前線でいい連係を見せていた武藤嘉紀も左膝靱帯損傷のけがから復帰間近の様子で、2人が共闘できればお互いのよさを引き出し合える回数も増えてくるだろう。ロシア(FCロストフ)から戻ってきた新戦力・橋本拳人とも代表で何回か一緒にプレーしていて、息を合わせるのは難しくないはずだ。山口蛍ら中盤の軸を担う面々とのコンビネーションを今一度、見直し、どうすれば自分が最も輝くことができ、チームの勝利に結びつくかを見いだせれば、大迫はまだまだ十分にやれる。今こそ底力を示すべき時なのだ。

今こそ救世主になってくれ!

 大迫が神戸の救世主になってくれれば、今月就任したミゲル・アンヘル・ロティーナ監督にとっても喜ばしい限り。森保監督も安堵するに違いない。6月の日本代表シリーズではブラジルとの対戦も予定されているだけに、ここからギアを上げていくことが肝要だ。むしろ今の苦境を「助走期間」と捉え、今後のエネルギーにすればいい。そのくらいのポジティブシンキングでガムシャラに前進していく大迫の姿をぜひ見たい。代表1トップの地位を築いた頃を改めて思い出し、ギラギラした自分を取り戻す努力をしてほしいものである。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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