高さ、速さ、うまさのスウェーデンに完敗

2016年に就任し、東京五輪メダル獲得を掲げていた高倉麻子監督率いるサッカー日本女子代表(なでしこジャパン)。コロナ禍での1年延期によって塩越柚歩(浦和)や林穂之香(AIKフットボールダーム)ら新戦力の出現はあったものの、悲願達成は遠かった。

 7月30日の準々決勝・スウェーデン戦(埼玉)は高さ、速さ、うまさを併せ持つ格上の強豪に実力差を突きつけられた形だった。

 開始早々の7分の失点を筆頭に、序盤15分間は一方的に攻め込まれ、日本は追加点を与えないように耐え忍ぶので精一杯。23分に長谷川唯(ACミラン)の折り返しを田中美南(INAC神戸)が押し込み、首尾よく同点に追いついてからは自分たちの形が出せたが、PK判定がVARで取り消される不運も重なり、前半は1-1で終了。

 しかし、後半開始直後に再びスウェーデンの猛攻を浴び、エースFWブラックステニウスに2点目を奪われた時点で敗色濃厚になった。さらに三浦成美(日テレ)が献上したPKを決められ、終わってみれば1-3。司令塔・長谷川を下げて左サイドバックを主戦場とする北村菜々美(日テレ)を右MFに入れるという高倉監督の不可解な采配も重なり、なでしこは8強で敗れ去ったのだ。

絶対的得点源の不足は深刻

 今大会を通してこのチームは得点への迫力が明らかに欠けていた。1次リーグではエース・岩渕真奈(アーセナル)と田中が1点ずつを挙げたが、絶対的得点源と言える存在は不在だった。

 他チームを見ると、カナダのシンクレア、イギリスのエレン・ホワイト、スウェーデンのブラックステニウス、オーストラリアのサマンサ・カーといったように点の取れる攻撃の中核選手がいる。それは1次リーグ敗退を余儀なくされた中国やザンビアにしてもそう。中国の王霜、ザンビアのバルバラ・バンダらの傑出した個の力は目を引いた。

 なでしこの場合、岩渕にそういう役割が期待されたが、彼女はもともとセカンドトップタイプ。170センチ超の大柄で屈強なDF相手に156センチの小柄な岩渕がゴール前でタメを作り、起点となって、さらにゴールまで奪うのは酷だ。男子でもそうだが、大迫勇也(ブレーメン)や林大地(鳥栖)のような存在がいてこそ、堂安律(PSV)や久保建英(レアル・マドリード)が点を取れる。そういう意味で、やはり今回のチームにはターゲット役が欠けていた。指揮官が永里優季(ルイビル)のような収められる選手を招集していたら…というのが、悔やまれるところだ。

突きつけられたフィジカルの差

 多くのなでしこOBが指摘している通り、フィジカル面の差は日本女子サッカー界の大きな課題だ。2011年女子ワールドカップ(ドイツ)で優勝した頃は、体格差を技術やボール回しといった部分で補っていたのだが、なでしこの成功を学んだ欧米諸国がその戦術を学び、フィジカル的な優位性と技術・戦術を兼ね備えた戦いができるようになってきた。

「日本もフィジカルを積み上げる努力をしたし、レベルアップもしている。ただ、それ以上に世界の進化がある」と高倉監督も指摘していたが、最前線で体を張れる大型選手の発掘・育成は急務の課題と言える。

 とはいえ、日本人は欧米人に比べて体が小さいという事実は変わらない。それでも、男子選手が世界と互角に戦えているのかと言えば、早いうちに海外に出て異国の環境でプレーする選手が増えていることが大きい。

学ぶべきは男子の久保。国際経験を増やすしかない

 その筆頭が久保だろう。彼は173センチ・67キロと世界的に見れば非常に小さいプレーヤーだが、巧みな身のこなしと上半身の使い方をして、大柄な敵と堂々と渡り合っている。相馬勇紀(名古屋)も「小さいことが弱点とは思っていない。大きい選手の懐に入り込んでかわすことができればチャンスになる」とコメントしていたが、そういうスキルは日常的に意識しなければ身につかない。

 近年は熊谷紗希(バイエルン)や岩渕に加え、長谷川、林、宝田沙織(ワシントン)らのように海外に武者修行に出る女子選手も増えているが、日本とは違った価値観や高度な国際経験を蓄積する選手を増やすことが非常に重要なテーマとなる。

 実際、日本人は「うまい」ことを最大の美徳としがちだが、世界に出れば違った武器で戦っている選手も少なくない。それは田中碧(デュッセルドルフ)も言っていること。「欧州で『うまい』というのは別に対して求められていないというか、『強い』とか『速い』とか『1対1で負けない』とか『点が取れる』とかは『うまい』と横一線。でも『うまい』が最初に来ちゃうのが日本。そこは違うと感じました」という彼の発言は説得力がある。なでしこは世界一になる前も後も「うまい」に比重を置きすぎたのではないか。そこは1つ考え直すべき点だ。

WEリーグにも世界トップ選手が必要

 同時に9月に開幕するWEリーグに優れた外国人選手を招き、レベルを上げていくことも価値観の多様化につながる。ソフトボールを例に取ると、日本と金メダルを争ったアメリカの名投手であるアボット、オスターマンはいずれも日本の実業団リーグでプレー経験がある。宇津木妙子元日本代表監督も「日本のソフト界は環境的に恵まれている」と話したが、つねに世界のさまざまな個性をイメージしながら戦っていたから、日本は大舞台で宿敵を倒せたのだろう。WEリーグも世界トップリーグに近づけば、自ずと選手個々の実力や対応力も上がる。コロナ禍で難しい時期ではあるが、そういう環境になるような努力が必要なのだ。

「今回の日本は8強の中で最弱だった」「高倉監督のマネージメントが不可解」「このままだとなでしこは人々から再び忘れられる」といった辛辣な意見が浴びせられた東京五輪のなでしこジャパン。しかし過去を振り返ってみれば、日本はつねに世界トップに立ち続けていたわけではない。

今は2004年アテネと同じ位置。2度目の成功サイクルは現実になる?

 高倉監督が選手として出場した1996年アトランタの後、2000年シドニーの出場権を逃し、2004年アテネはギリギリのところで出場権を獲得。キャプテンだった大部由美現代表コーチが号泣したほどだ。そのアテネは今回と同じ8強で、2008年北京が4位、2011年女子W杯優勝を経て、2012年ロンドンで銀メダルを獲得した。つまり日本が2度目の成功ロードを歩みたいのなら、アテネからロンドンへの軌跡を今一度、フィードバックしなければいけないのだ。

 もちろん世界のレベルや環境も当時とは違うものの、澤穂希、宮間あやという突出したタレントに引っ張られ、川澄奈穂美(ゴッサムFC)、阪口夢穂(大宮)、岩清水梓(日テレ)らがグングン成長したのは確か。彼女らは容赦なく厳しい要求を出し合える意識の高い集団だった。そのメンタリティを学ばない限り、未来の成功はない。

 男子でもデンマークやチェコのような欧州の小国は「10年に1度」のサイクルでタレントが出現し、強いチームになると言われる。日本女子サッカーの選手層を考えれば、似たような形かもしれない。ここで全ての希望がついえたわけではない。東京五輪でメダルを取れなかったと言っても、失うものは何もない。前を見て勇敢に突き進んでいくしかない。