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「日本のボディガード」遠藤航が語るブンデス1部挑戦でトライしたいこと

元川悦子スポーツジャーナリスト
欧州でボランチとしての成功を誓う遠藤航(筆者撮影)

 9月12日からカップ戦のDFBポカール、19日から20-21シーズン・ブンデスリーガが開幕するドイツサッカー界。欧州5大リーグの1つに数えられる大舞台に挑むのが、日本代表ボランチ・遠藤航(シュツットガルト)だ。

 ドイツ移籍1年目となった19-20シーズンは、夏の移籍期限終了直前の8月末に加入後、10試合も出場機会から遠ざかった。ところが、11月に出番を与えられるや否や、短期間で一気に存在感を高めていく。12月に指揮官がティム・ヴァルターからペレグリーノ・マタラッツォへ交代すると、大黒柱に君臨。名門クラブの1年での1部復帰の原動力になった。

 そして、まもなく迎える新シーズン。最初の練習試合でゴールを奪った遠藤航は「早くブンデス1部で戦いたい」と胸を高鳴らせている。「ボランチは190センチくらいのサイズ感がなければ難しい」という価値観が根強いドイツで、178センチの日本人ボランチは果たして成功を収められるのか。ヴォルクスブルク時代の08-09シーズンにボランチでリーグ優勝に貢献した日本代表の先輩・長谷部誠(フランクフルト)を超えるべく、27歳の男は高みを目指してピッチを駆け回るつもりだ。

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「ミスター信頼」というニックネームも

――ベルギーからドイツへ渡った19-20シーズンを改めて振り返ってみると?

「『ボランチで出る=自分の結果次第で試合を左右する』という重要なポジションを担っている自覚を持って戦い続けましたし、1部昇格という結果も出た。それはすごく大きかったですね。僕は日本代表でフィジカルの強い海外の相手とやってきた分、ベルギーからドイツへ行った戸惑いもなかったし、感覚的には分かっていたので、準備はしっかりできていた。今のところフィジカル的には劣らずやれていると思っています」

――ドイツメディアが航選手に「ミスター信頼」「日本のボディガード」というニックネームをつけたという報道もありました。そこまでの信頼をどうつかんだのですか?

「1シーズン戦っていると、気持ちに波が生じたり、チームの結果が出なくて自分自身のモチベーションやパフォーマンスを維持するのも難しくなったりしますけど、僕はつねに100%でやることを心掛けていました。そういう姿勢は日本人として持つべきもの。練習から全力でやるのは当たり前。そこは案外、ドイツ人にはないところ。『初心に帰る』じゃないけど、そこに立ち返ったのがよかったのかもしれないです。

 そのうえで、昔よりバランスを気にせず行くようになりました。今のドイツサッカーは戦術的に前へ前へとプレスをかけていくのが主流。バランスを見てスペースを埋めるプレーもドイツではもちろんあるけど、人により激しく行こうという意識はより高まりました。Jリーグ時代は『今は行かないでおこう』と後ろでステイするような選択も多かったけど、ドイツでは相手との距離が多少あっても、とりあえず取りに行こうと。『迷ったら行く』という守備をしたんです。それで奪えるという新たな感覚も得た。自分が取れなくても、後ろが奪ってくれたりというグループ戦術も理解度が深まり、より対人に強くなりました」

ドイツに渡って着実に進化を遂げる遠藤航(写真・代表撮影/アフロ)
ドイツに渡って着実に進化を遂げる遠藤航(写真・代表撮影/アフロ)

――攻撃面も海外へ出てから目覚ましい進化を遂げています。

「ボールを受けた時にワンタッチではたくプレーも悪くないけど、ドイツにいる世界基準の中盤はプレッシャーが来ても自分ではがして状況を変えられたり、立ち位置を変えながらボールを保持して逆サイドに展開するとか、そういう能力が高いんです。独特な間合いでボールを何とかしちゃう能力というのかな。それは日本ではあまり言われなかったこと。そのへんの感覚は磨かれてきました」

大型選手ひしめくドイツで苦労する日本人ボランチ

 幅広く攻守両面の役割を担った日本人ボランチはこれまでドイツにはいなかった。過去の系譜を見ていくと、稲本潤一(相模原)、長谷部、細貝萌(ブリーラム)、山口蛍(神戸)らがチャレンジしてきたが、一定以上の評価を勝ち得たのは長谷部くらい。その長谷部もブンデス通算7得点という数字が象徴するように守備のタスクを担うケースが多く、今ではリベロが主戦場になりつつある。大柄で屈強なプレーヤーがズラリと並ぶ大国で、ボランチとして大成するのはそれだけハードルの高いことなのだ。

――ドイツ、そして欧州でボランチとして成功するために必要なことは?

「とにかくブンデス1部でコンスタントにボランチで出続けること。それしかないですね。海外でずっとボランチで出続けている日本人って実はあんまり多くない。意外に注目されてない部分なので、僕はあえてトライしていきたいですね」

――航選手がその領域にたどり着けば、日本代表のボランチ争いでも大きくリードできますね。

「競争は当然あるべきだし、ウエルカム。所属クラブで結果を残し続けないと、代表では出られないと思っています。同じボランチの拳人(橋本=ロストフ)もロシアに移籍しましたし、これから拳人がどれだけやるのかは僕もすごく楽しみだし、ぜひ成功してほしい。自分もそれに負けないように、初挑戦のブンデス1部で結果を残すしかない。それが拳人にとっても刺激になると思うんです」

最終的には長谷部誠を超え、日本最高点を目指す(筆者撮影)
最終的には長谷部誠を超え、日本最高点を目指す(筆者撮影)

リオ五輪のキャプテンは長谷部に通じる統率力の持ち主

――その下には、東京五輪世代に田中碧選手(川崎)、中山雄太選手(ズウォレ)選手など有望なボランチがいますね。

「それぞれのプレーをちゃんと見てるわけじゃないですけど、東京五輪世代は最終的にA代表を引っ張る選手にならないといけない。それは前回の2016年リオデジャネイロ五輪に出た僕たちも自覚していたことです。今回の選手たちは延期になってしまって誤算もあるだろうけど、準備期間が1年延びた分、1人1人が高い意識を持っていいプレーをしていけば、来年の五輪はすごく楽しみなものになりますよね。仮に五輪が中止になっても、準備してきた過程は残りますし、全てがムダになるわけじゃないと思います。

 それに五輪に出たからと言って、その先の未来が明るいわけじゃない。僕自身もキャプテンとしてリオに行くまでは全身全霊を賭けてましたし、3試合に持てる力の全てを注いだけど、後になってそう実感しました。やっぱり結果を残し続ける者だけが生き残る。最終的にA代表のスタメンを選ぶのは、監督である森保(一)さん。そのジャッジを受け入れるしかないんです」

――航選手にはそうやって冷静かつ客観的に物事を受け止められる人間力があります。そこも長谷部選手に通じる部分だし、森保監督も頼りにしているところでしょうね。

「長谷部さんは自分から前に出て行って発信するタイプではなくて、後ろから周りを見てサポートしていくキャプテンで、その立ち振る舞いやチーム第一の考え方は見習うべきところがありますね。

 それにブンデスで13年目っていうキャリア自体、2年目の僕からしたら信じられない(苦笑)。ドイツにいると、ヴォルフスブルクで優勝して、ブンデス1部でプレーし続けて、レジェンドって言われるような選手になることがどれだけ難しいかよく分かります。

僕も偉大な先輩をリスペクトしながら、初挑戦のブンデス1部で毎試合毎試合、『決勝戦』だと思って挑んでいきます。シュツットガルトは名門だし、もう1回タイトルを取るくらいのところまでチャレンジしないといけない。1つ1つの球際とか2部でやってきたことを突き詰めていきます」

 20-21シーズンのドイツには、同じ遠藤姓の東京世代のアタッカー・遠藤渓太(ウニオン・ベルリン)が1部に参戦。2部にも室屋成が原口元気と同じハノーファーに加わった。再び日本人選手が増える中、やはり最も注目されるべきなのは、遠藤航の一挙手一投足だ。インテリジェンスとリーダーシップ、攻守両面のダイナミックさを兼ね備えた彼には「ボランチはサイズの大きさが不可欠」というこの国の既成概念を打ち破る働きをぜひとも見せてほしいものだ。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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