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子どもが夏休み中にゲーム依存に? 厳しいルールはNG、日常に戻すコツ

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:アフロ)

もうすぐ夏休みも終わりますが、子どもが部屋で一日中ゲームやSNSをしている姿を見て「あの子、依存症になっているのでは?」と心配になっている親御さんも多いのではないでしょうか。

ゲームやSNSは手軽に暇を潰せるだけでなく、達成感や他者から承認される喜びも味わえます。在宅時間が長くなり、学習のオンライン化も進む現在は、特にゲームやSNSにハマりやすい状況といえるでしょう。夏休みなら尚更です。生活リズムが大きく崩れている、体力が低下しているなど、生活や心身に何らかの問題が生じている場合は依存が疑われ、専門的な治療やカウンセリングが必要になることもあります。

そこで今回は、夏休み中のゲーム・SNSの利用がどの程度依存状態にあるのかどうか、そこからどのように日常に戻していくのか、親としてサポートすべきことを中心に解説していきます。

まずは依存度合いを簡易チェックしてみよう

依存症とは、「自分の意思ではやめたくてもやめられない状態」のことを言います。決めた時間になってもやめることができない、他の活動に支障が出ているといった場合は注意が必要です。特に子どもの場合は依存症に至るスピードも早いため、予防と早期対応が重要になります。

まずは子どもの状態がどの程度なのか把握するため、例えば筆者が所属するMIRA-iで活用している「ネット依存・ゲーム依存度チェック」など、いわゆるチェックリストの利用をおすすめします。ただし、これらはネット上の簡易診断ですので、結果はあくまでも参考程度に捉えてください。

もし「依存症が疑われる」という結果がでた場合、すぐさま子どもにそれを指摘してしまうのは控えましょう。ムキになって否定したり、過剰に防衛的になったりしてしまいます。依存度が高いということは、それだけ自分ではコントロールできない状態であるということですから、本人の気合いや意思の問題にしてはいけません。親をはじめ、周囲がオンライン以外の望ましい活動や生活習慣を取り戻せるようしっかりサポートしていくことが大切になります。

回答結果を眺めながら、子どもが自覚している問題や困り事を共有し、その問題について一緒に考えていこうというスタンスで接してあげてください。

依存状態が疑われる場合は、専門家に相談を

実際に依存状態に陥ってしまっている場合、どのような問題が生じるのでしょうか。過去の相談事例をもとに具体例を挙げてみました。

  • 寝る時間になってもゲームやSNSをやめられない。夜中もゲームをし続けることで生活リズムが乱れる
  • ゲーム優先あるいはゲーム中心の生活になり、他の活動への意欲が低下する
  • 親など家族とのコミュニケーションを避ける。隠れたり、嘘をついて使用する
  • SNSやゲームを巡って友人関係でトラブルが起こる。現実の友人関係が希薄になる
  • お小遣いの範囲を超えて課金をする。親のお金を隠れて使って課金をしている。

こういった問題が実際に生じつつも、ゲームやSNSの使用を本人がコントロールできていない場合は、専門的な治療や支援が必要となります。

あわせて、家族の皆さん側のケアも大切になります。誰かが疲弊している場合は、家族だけで問題を抱えるのではなく、必ず専門家に相談して助言を得るようにしてください。

依存状態から回復するには時間がかかります。だからこそ、早い段階で専門家から正しい知識を学ぶことで、家族の心身の健康を保ちながら適切な対応方法を身につけることが大切になるのです。

夏休み前の日常に、生活を戻していくためには

ゲームやSNSが長時間になっていたとしても、深刻な問題にまでは至っておらず、親子で新学期に向けて生活を戻していく心構えができていれば、まずは家庭で出来ることから始めていきましょう。

まずは、いきなり夏休み前の日常に戻そうと焦ってしまうあまり、ゲームやSNSの時間を減らすための厳しいルールを一方的に課したり、スマホやゲーム機自体を取り上げたりするようなことは避けてください。親に反発する形でかえってゲームやSNSの利用を助長することもあるからです。

ゲームをしている子どもに向かって「宿題をしなさい!」と注意しても、楽しいゲームを終わらせ面倒な宿題に取り掛かることは非常に困難だと想像できると思いますが、それと同じです。まずは子どもがゲームやSNSをしていないとき、お互いに機嫌がよいタイミングを見て、「日常に戻していくためには何から取り組むとよいか」を話し合ってみるようにしましょう。そこで、現実的に出来そうなことがお互い約束できれば良いと思います。

具体的にどのようなことから取り組むとよいのか、下記に例を挙げてみました。これらは、筆者がネット・ゲームの使用問題を抱える子どもや保護者とのカウンセリングにおいて、実際に取り組むことが多い項目をピックアップしたものです。ぜひ参考にしてみてください。

生活習慣:起床時間・就寝時間を決める、家族みんなで食事をとる、散歩やストレッチをするなど

オンライン以外の活動を増やす:運動、屋外での遊び、読書、映画、音楽、料理やものづくりなど

学習面:宿題に取り組む、塾に行くなど

使用ルール:ルールを新たに決め直す、約束の時間になったらやめる

コミュニケーション:自分の気持ちを落ち着いて伝える、話し合いをする

ポジティブなコミュニケーションに必要な7つのステップ

夏休み前の日常に戻す話に限らず、子どもと話し合うとき・子どもの行動を促すときに大切とされるのが、「ポジティブなコミュニケーション」です。

依存症者の家族に向けた支援プログラムとして、「CRAFT(コミュニティ強化と家族トレーニング)」という理論があります。飲酒や薬物問題に悩む家族のためにアメリカで開発された行動理論に基づくプログラムで、対立を招かずに治療や支援に向かうように動機付けを高める方法を学んでいくのですが、この中で基礎的なスキルとして位置付けられているのが「ポジティブなコミュニケーション」になります。

本人を脅したり、責めたり、批判したりするのではなく、ポジティブなコミュニケーションをとることで、家族自身が自分の気持ちを適切に表現できるようになった結果、本人も家族の話に耳を傾け、求めに応じやすくなると考えられています。

CRAFTでは、ポジティブなコミュニケーションの実践のために7つのステップを設けているので、具体的に解説していきましょう。

最初の3つのステップは、メッセージやお願いごとを相手に伝えるために大切とされます。

1.簡潔に

2.肯定的に伝える

3.具体的な行動に言及する

例えば、寝る時間を早めてほしいときに、「いつまで起きているの?さっさとゲームをやめて寝なさい」という表現よりも、「23時には布団に入るようにしてみるのはどうかな?」という方が受け入れられやすいでしょう。

そして、以降の4つのステップは、親がとるべき具体的な行動になります。

4.自分の感情に名前を付ける

自分の感情をコミュニケーションに反映してみることで、気持ちが伝わりやすくなります。

例:「一緒に外に出かけてくれたら嬉しいな

5.思いやりのある発言をする

子どもの視点に立って状況を理解し、それを言葉で表現しましょう。

例:「これだけたくさんの宿題に取り掛かるのは、気が重いと思うけど・・・」

6.部分的に責任を受け入れる

責任を分かち合うことを伝えることで、子どもの気持ちを和らげることができるようになります。

例:「朝、お母さんも起こしていなかったもんね・・。」

7.手助けを申し出る

どんなことが子どもの問題解決の助けになるかを考え、提案してみましょう。または他にできることがないか聞いてみても良いでしょう。

例:「朝起きるために出来ることはないかな?例えば、朝一緒に体操したり、目覚まし時計を買いに行ったり、カーテンを開けにいくとか。」

これらを参考に、子どもと問題解決に向けてのコミュニケーションをとるようにしてみてください。最初はぎこちなく感じると思いますが、自転車を乗りこなす過程と同じように、少しずつ出来るようになっていくはずです。いざという場面でスムーズに自分の思いを伝えられるようになるためにも、日頃の会話の中からぜひ取り入れてみてください。家庭内の雰囲気もさらに明るくなるかもしれません。

大切なのは、最初の一歩を踏み出すこと

親子間で「朝はいつもより1時間早く起きて散歩をする」「一緒に宿題に取り組む時間を作る」など、一緒に何に取り組むかを決めることができたら、最初の一歩を踏み出すためのサポートを丁寧にしてあげましょう。

子どもがやってみたことに対して、100%出来たら褒めるのではなく、部分的にも出来たところを見つけてそれを褒めたり、「◯◯してくれて嬉しい」など上記7つのステップを取り入れたりしながら、喜びを分かちあうことが大切です。

小さな成功を積み重ねていくことができれば、それが自信になり、次につながっていきます。最初の一歩を踏み出すことができたら、歯車が回るように好循環に入っていくことも期待できます。焦らず、無理なく、一歩ずつ取り組んでいきましょう。

子どもが、夏休み中のゲーム・SNSに依存した生活から日常に戻るためには、今回紹介したような段階的なコミュニケーションやサポート、取り組みが欠かせないのです。

〈引用・参考文献〉

スミス, J. E. ・メイヤーズ, R. J. 境 泉洋・原井宏明・杉山 雅彦(監訳)(2012).CRAFT依存症患者への治療動機づけ─家族と治療者のためのプログラムとマニュアル 金剛出版

ローゼン, H. G. ・メイヤーズ , R. J. ・スミス, J. E. 松本 俊彦・境 泉洋(監訳)風間 芳之(翻訳)(2018).CRA 薬物・アルコール依存へのコミュニティ強化アプローチ 金剛出版

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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