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パチンコにハマるのと同等のリスクも 「ネット依存」の本当の恐ろしさとは?

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:Paylessimages/イメージマート)

生活様式の変化により、テレワークやオンライン授業がすっかり定着した結果、自宅から一歩も出ずにオンライン上の活動だけで1日の大半を過ごすことも珍しくなくなりました。

動画視聴やオンラインゲームといった娯楽目的の使用であっても、それが長時間続けば疲労感やストレスを感じる人も多くなってきたのではないでしょうか。

そこで今回は、心の健康とインターネット・ゲームとの関係について解説します。

「コロナ疲れ」を感じる人が増加

内閣府が行った調査によると、「コロナ疲れ」を感じると答えた人が70%を超えたことが分かりました。年代別に見ると、60歳以上では26%、30代では37.6%、20代では41.3%と、若い世代ほど「コロナ疲れ」を「感じる」と答えた人の割合が高くなっています。

具体的な疲れの原因など調査で明らかになっていないため詳しい考察は出来ませんが、活動性の高い若い世代ほど、外出自粛などによってストレスを感じている可能性が考えられます。

また同調査ではテレワークについて尋ねる項目もあり、テレワークのデメリットとして「気軽に相談・報告ができない」「取引先とのやり取りが困難」「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」といったことが多く挙げられました。

テレワークによって、家族と過ごす時間や家事・育児の時間をとりやすくなった反面、リアルで気軽に相談するなど社会的なコミュニケーションをとる機会が減ってしまう可能性も考えられます。また、仕事の区切りをつけづらく、出勤時よりも長時間の労働になり疲れてしまう場合もありそうです。

コロナとインターネット依存の関係

日本だけでなく、中国や香港といった海外の研究においても同様の事例が挙げられています。コロナ禍で一般社会の35%が心理的苦痛を感じているという報告や、COVID-19の流行時に学業活動の不確実性から、学生の間でストレスや不安が増加したことを示した報告などがあります。

通常であれば人と会ったり、出かけたりといった気分転換やストレス対処ができるはずですが、コロナ禍ではそういった通常の対処法が制限されるため、対処法のレパートリーが少ない状況となります。そのため、今までと比べさらに身近になったインターネットが、心理的な苦痛や不安を癒す手段としても用いられやすくなるでしょう。

ただ、仕事や勉強はもちろん、SNSによるコミュニケーションやオンラインゲームに至るまで、日常に関わる大半のことが全てインターネットを通してとなるため、過剰な使用に陥ってしまうというリスクが伴います。

インターネットの過剰使用とうつ状態との関連

「インターネットの過剰な使用」とは、「家族、学校、仕事、社会的なつながり、経済的な状況など、通常の生活に支障をきたす場合」、つまり、インターネットの使用が生活に問題をもたらすにもかかわらず、強迫的に使用してしまうことを指します。

インターネットを過度に利用することは、社会的な孤立、うつ病、職場や学校、家族関係での失敗や葛藤といった危険性をもたらすと言われています。これはパチンコなど強迫的にギャンブルをすることと同じくらいリスクがあるとされています。

インターネット利用と抑うつ傾向について調査した研究では、インターネット依存とうつ病の間に統計的に有意な関係があることを示しており、これまでの研究では、リアルの社会的な交流が減り、オンラインのコミュニケーションによって置き換えられることで、抑うつ症状などの心の問題が生じる可能性があると指摘されています。

しかし、仕事などでインターネットに直接関係している人で、一日中オンラインを利用しても実生活に大きな問題がない人もいます。 そのため、必ずしも長時間利用しているからといって、依存や精神的な問題が起きるとは限りません。

例えば、オンラインゲームやSNSのようなオンライン活動は、他のリアルの活動よりも魅力的で、潜在的に「依存性」があるのではないかと指摘されています。したがって、インターネットの使用自体が問題なのではなく、どのような文脈でインターネットをしているかや、具体的に何をしているかを見ていくことが過剰使用や依存的な使用を見極める上で大切です。

依存的または過剰なインターネットの使用が増えると、オンライン上のコンテンツや活動をもっとしたいという強迫的な考えや行動、不安な気持ち、うつ的な状態、不眠、焦燥感等のメンタルヘルスの問題が生じるようになります。また、 家族、社会、職業上の活動がおろそかになったり、減少したりすることで、家族関係、重要な人間関係、仕事、職業、教育の機会が失われることにつながります。

こういった状態に陥ると、ますますオンラインに居場所や快適な感情を求めて、オンラインの時間が長くなっていきます。実際に、うつ病や孤立感、ストレス、不安などの精神障害や症状、依存症の特徴を持つ人が、アルコールや薬物を使うことによって自身の辛い症状や問題を和らげるのと同じように、インターネットを使うことで自己解決していると言われます。つまり、インターネットへの依存は、根底にある心理的な問題を回避し、対処する手段として機能していると考えられるのです。

悪循環から抜け出すには

インターネットへの依存を感じたら、一人で抱え込まずに早めに医療機関や相談機関に相談してください。症状が深刻になると、周囲にSOSを出す意欲が失われてしまうかもしれません。早めの段階で周囲に助けを求めてください。

またインターネットへの依存を防ぎ、日頃から心の健康を保つためのポイントには以下のようなものがあります。

生活リズム

・決まった時間に寝る、決まった時間に起きるなど1日の生活リズムを維持する

・日中に日光を浴びる

・睡眠時間を確保する

・就寝の1〜2時間前にインターネットやスマホの画面から離れる

・適度な運動を取り入れる

・バランスのよい食事をとる

避けた方がよいこと

・気を紛らわすためにインターネットを使用する(ギャンブル、アルコールも同様)

・家族や友人との付き合いを避けて、引きこもってしまう

・あまりにも長時間の勉強や仕事

・あまりにも長時間のインターネット、テレビ、ゲーム

おすすめしたいこと

・気を紛らわすインターネット使用の代わりに、自分の気持ちが軽くなる趣味を行ったり、ちょっとした達成感のある活動(家事、ストレッチなど)を取り入れる。

・辛い気持ちや困ったことがあれば、信頼できる人や相談窓口に相談する。

スマホやパソコンから少し離れて、リアルの中で小さい喜びや幸せを見つける機会を作ってみてはいかがでしょうか。出来ることが限られている今だからこそ、発見できることがあるかもしれません。

下記のサイトも心の健康維持に役立つ情報が記載されているので、参考にしてみてください。

〈参考になるサイト〉

こころの耳:新型コロナウイルス感染症対策(こころのケア)

https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/coronavirus_info/#head-2

東京大学 保健・健康推進本部 保健センター:新型コロナウイルス関連で疲れを感じている皆さまへ

http://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/psychiatry/

〈引用文献〉

内閣府:第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査

https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/result3_covid.pdf

Mihajlović, G & Gajic, T. (2008). Excessive Internet use and depressive disorders. Psychiatria Danubina, 20(1), 5–14.

Morrison, C. & Gore, H. (2010). The relationship between excessive internet use and depression: A questionnaire-based study of 1,319 young people and adults. Psychopathology, 43, 121–126.

Saikia, A., Das, J., Barman, P., & Bharali, M. (2019). Internet Addiction and its Relationships with Depression, Anxiety, and Stress in Urban Adolescents of Kamrup District, Assam. Journal of family & community medicine, 26(2), 108-112.

Siste, K. et al. (2020). The Impact of Physical Distancing and Associated Factors Towards Internet Addiction Among Adults in Indonesia During COVID-19 Pandemic: A Nationwide Web-Based Study. Front Psychiatry, 11, 580977. doi: 10.3389/fpsyt.2020.580977

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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