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なぜ久保建英はソシエダで活躍を続けているのか?カンテラーノの台頭と新戦力の充実。

森田泰史スポーツライター
バルセロナ戦で存在感を見せた久保建英(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

若い頃から、将来を嘱望されてきた。

今季、好調の選手の一人が久保建英だ。公式戦15試合に出場して5得点3アシストを記録。レアル・ソシエダの主力になっている。

■これまでの道程

リーガエスパニョーラ第12節、ソシエダ対バルセロナ(0−1)の一戦の前には、注目を浴びた。

久保はバルセロナのカンテラーノだ。2011年夏にバルセロナのカンテラに入団。2015年、クラブがFIFAから処分を受けた影響で帰国せざるを得なかったが、それまでラ・マシア(バルセロナの育成寮)で生活した。

そして、久保は2019年夏にスペイン復帰を果たす。レアル・マドリーが、久保に触手を伸ばした。移籍一年目で、早速プレシーズンツアーに帯同。だがトップに居場所はなかった。EU圏外枠の問題もあった。一方でプレシーズンの好パフォーマンスで、マジョルカからレンタル移籍の打診が届いた。

以降、久保はビジャレアル、ヘタフェ、マジョルカ(2度目)とレンタル移籍を繰り返すことになる。そういった状況で、2022年夏に移籍金650万ユーロ(約10億円)を準備して完全移籍の獲得に動いたのがソシエダだった。

ソシエダで主力になった久保
ソシエダで主力になった久保写真:なかしまだいすけ/アフロ

久保の獲得に際しては、地元メディアとサポーターの中で、一部、批判の声があがっていた。

だがジョキン・アペリバイ会長とロベルト・オラベSD(スポーツディレクター)は数年に渡り追跡していた久保がソシエダに不可欠なピースになると信じていた。「最初にマドリードで会長に会った時、3年間、僕を追っていたと言われました。僕もそれを知っていましたが、その瞬間、ラ・レアルへの移籍を決めました。クラブが、監督が、僕を欲してくれていると思ったからです」とは久保の言葉だ。

■新戦力とカンテラーノ

久保は良いフォームを維持している。また、ソシエダもチームとして好調だ。

ソシエダは現在、リーガエスパニョーラで6位に位置している。チャンピオンズリーグでは、グループDでトップに立っている。

ソシエダは今夏、アマリ・トラオレ(フリートランスファー)、アルバロ・オドリオソラ(移籍金300万ユーロ)、アルセン・ザハリャン(移籍金1300万ユーロ)、アンドレ・シウバ(レンタル)、キーラン・ティアニー(レンタル)を獲得した。ティアニーとトラオレはサイドバックとしてすぐにレギュラーに定着した。

また、補強の選手たちに触発されるように、カンテラーノが台頭してきた。

アンデル・バレネチェアを筆頭に、ベニャト・トゥリエンテス、アンデル・オラガスティ、ヨン・パチェコらが出場機会を伸ばしている。

加えて、ミケル・オジャルサバル、ブライス・メンデスが“復調”してきた。

■オジャルサバルの復調と戦術

イマノル・アルグアシル監督は今季、オジャルサバルをCFに据えている。これまで主に左WGでプレーしてきたオジャルサバルだが、新境地を開拓している。

ソシエダはこの夏にダビド・シルバが現役引退を表明。それに伴い、イマノル監督は【4−4−2】中盤ダイヤモンド型のシステムから【4−3−3】に布陣変更を行った。その流れでバレネチェア、オジャルサバル、久保の3トップが形成されるようになった。

ソシエダは左にバレネチェア、右に久保と突破力のあるアタッカーを擁している。

「定位置攻撃」になった際、彼らのドリブルと1対1の強さがあるため、サイドを崩せる。そして、オジャルサバルは中央で待ち構え、フィニッシャーとして仕事をすればいい。

オジャルサバルはここまでリーガ12試合6得点1アシストを記録。ひざの負傷と長期離脱があったが、“完全復活”を印象付けるパフォーマンスを披露している。

■復調とポジション争いの活性化

もう一人、調子を上げてきている選手がいる。ブライス・メンデスだ。

B・メンデスは今季、公式戦15試合に出場して5得点5アシスト。右インサイドハーフでポジションを奪取して、その創造性を如何なく発揮している。

ルティン・スビメンディやミケル・メリーノはスペイン代表に定着しつつある。また、D・シルバの引退を受けて、中盤の構成は難しくなった。そのような状況で、B・メンデスが復調してきているのは好材料だ。

ソシエダは今後、ウマル・サディク、カルロス・フェルナンデス、モハメド・アリ・ショーといった選手たちが復調してくれば、さらに強いチームになるだろう。オジャルサバルやB・メンデスが調子を取り戻したように、だ。そうすることで、ポジション争いが再び出てきて、チームが活性化するからである。

復調してきたオジャルサバル
復調してきたオジャルサバル写真:なかしまだいすけ/アフロ

「勝利を収めたとき、人々は希望を抱く。リーガで、上位にいれば、そうなる。また、チャンピオンズリーグで、今シーズンの我々のようになればね」とはイマノル監督の弁だ。

「だが私は初日から選手たちに言ってきた。ラ・レアルで試合に出る意味を説いてきた。公式戦でも、親善試合でも、関係ない。私が就任して以降、我々は良いゲームができていなければ、怒りを伴ってロッカールームに入るようになった。何を代表しているか、を自覚しているからだ」

ボールをコントロールする久保
ボールをコントロールする久保写真:なかしまだいすけ/アフロ

ソシエダは先のコパ・デル・レイでブニョルを下して1回戦を突破。リーガ、コパ、チャンピオンズリーグの3大会でタイトルの可能性がある。

久保に関しては、ビッグマッチがある度に、移籍の噂が流れるようになってきている。もう少しラ・レアルでプレーをーー。個人的にはそう思うが、フットボールはビジネスでもある。久保の契約解除金は6000万ユーロ(約90億円)。今後も久保とソシエダから目が離せない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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