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なぜバルサはフェリックスの“完全移籍”に動こうとしているのか?移籍金の争点…シャビとラポルタのプラン

森田泰史スポーツライター
ボールをコントロールするフェリックス(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

まだシーズンは始まったばかりだ。だが素晴らしい選手を確保するには、早く動かなければいけない。

バルセロナは今夏、ジョアン・フェリックスを獲得している。アトレティコ・マドリーから1年レンタルという契約で移籍が決定。バルセロナ側に買い取りオプションは付けられていない。

だがフェリックスは移籍後、公式戦8試合で3得点3アシストをマーク。バルセロナに、即座にフィットした。これが、クラブにプラン変更を強いるきっかけになっている。

■デンベレとファティの移籍

バルセロナは今夏、ウスマン・デンベレが移籍金5000万ユーロ(約75億円)でパリ・サンジェルマンに移籍した。シャビ・エルナンデスが最も信頼を置いていたアタッカーが、花の都へと去っていった。

また、バルセロナはマーケットの終盤でアンス・ファティがブライトンにレンタル移籍。ウィングのポジションが手薄になった。

移籍を決断したファティとデンベレ
移籍を決断したファティとデンベレ写真:ロイター/アフロ

シャビ監督は昨季途中からシステムと戦術を変更している。ガビを左サイドで「偽ウィング」として起用し、バルセロナは【4−3−3】と【4−4−2】の可変システムを採るようになった。

ボール保持時、ガビがミドルゾーンに降りてきて、ペドリ・ゴンサレス、セルヒオ・ブスケッツ、フレンキー・デ・ヨングと協働しながら、長短のパスとドリブルでアタッキングゾーンに入っていく。この采配で中盤の安定感は増して、なおかつポゼッションを高められるようになった。

■偽ウィングとフェリックス

その偽ウィングのポジションにフェリックスを、というのがシャビ監督の狙いだった。

フェリックスは左ウィングに入り、躍動している。ワイドに開いてボールを受け、積極的にドリブルを仕掛ける。あるいは、ハーフスペースでパスを受け、ターンしてからロベルト・レヴァンドフスキとのコンビネーションで侵入していく。フェリックスが内側に入った時には、アレッハンドロ・バルデが大外のレーンを取り、異なる形の3トップがつくられる。

「ジョアン・フェリックスにとって、我々のシステムはプラスに働いている。彼は重要な存在になりつつある。才能というのは、どこかのタイミングで開かなければいけない。それが今、起こっていることだ」と語るのはシャビ監督である。

「我々は良いプレーをしている。この時点で首位に立っても、それは単なるエピソードでしかない。もちろん、そのこと自体は好ましいことであるけれどね」

■新戦力の活躍とカンテラーノ

フェリックスだけではない。ジョアン・カンセロ、オリオル・ロメウ、イルカイ・ギュンドアン、バルセロナはこの夏に加入した新戦力が活躍している。

ロメウとギュンドアンはバルセロナの中盤の構成力を上げている。ペドリ、デ・ヨングが負傷離脱を強いられる中、大崩れしないのは彼らの存在が大きい。カンセロは「偽サイドバック」のタスクをこなし、右サイドで大外のレーンとハーフレーンを行き来しながら、時に「MF化」して攻撃に貢献している。

また、今季のバルセロナはカンテラーノが台頭している。ラミン・ヤマル、フェルミン・ロペスが成長中で、ヤマルは右ウィングでデンベレの穴を埋めるプレーを披露し、フェルミンはインサイドハーフでテクニックの高さとフィジカルの強さを発揮している。

フェリックスの加入と活躍だけであれば、そこにフォーカスが集まり、プレッシャーが高まっただろう。しかしながら新戦力の充実とカンテラーノの台頭で、チーム全体に良い流れが生まれ始めている。

得点を喜ぶフェリックスとレヴァンドフスキ
得点を喜ぶフェリックスとレヴァンドフスキ写真:ロイター/アフロ

「毎シーズン、僕は集中している。ベストプレーヤーになるためには、すべての面で向上しなければいけない。これまでのシーズンで、うまく行かないシーズンもあった。それでも、僕はいつも全力を尽くしていた」とはフェリックスの言葉だ。

「僕はいつも同じ質問を受ける。これまで、何度も言ってきたけど、バルサとアトレティコは違うクラブだ。僕の場合、バルサのプレースタイルの方がフィットしやすかった。空気を変える必要があった。昨シーズン後半戦でチェルシーに移籍した時と同じように、幸せを感じている。それが一番大事なんだ」

■アトレティコと移籍の思惑

なお、アトレティコはフェリックスと2029年夏まで契約を結んでいる。契約解除金は3億5000万ユーロ(約525億円)に設定されている。

アトレティコは、バルセロナに移籍する直前に、フェリックスと2年の契約延長を行った。それは、1億2700万ユーロ(約190億円)という高額な移籍金で加入したフェリックスに関して、減価償却費を抑えるためだった。

いずれにせよ、アトレティコはフェリックスを安売りする考えを持っていない。前述の契約解除金の満額を欲するとは思えないが、移籍金8000万ユーロ(約120億円)以上を要求するのではといわれている。

ボールを追うフェリックス
ボールを追うフェリックス写真:なかしまだいすけ/アフロ

フェリックスはアトレティコでディエゴ・シメオネ監督のフットボールに適応できなかった。他方、バルセロナでは水を得た魚のようにプレーしている。

選手の幸せを願えば、バルセロナ移籍成立、となる。だがフットボールの世界ではビジネスが介在する。シーズン終了時に、フェリックスがどういった結果を残しているか、バルセロナの財政がどうなっているかーー。ジョアン・ラポルタ会長とシャビ監督は完全移籍の是非をそこでジャッジするはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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