Yahoo!ニュース

なぜバルサはアダマ・トラオレの獲得で“成功”したのか?シャビの思考と原点回帰。

森田泰史スポーツライター
バルセロナに移籍したアダマ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

彼の存在は、ある種の起爆剤になっている。

バルセロナは今冬の移籍市場でアダマ・トラオレの獲得を決めた。今季終了時までのレンタルで、バルセロナ側に3000万ユーロ(約39億円)で行使可能な買い取りオプションが付けられている。

■バルセロナ復帰の決定

トラオレにとっては、およそ6年半ぶりのバルセロナ復帰だった。

ジェラール・ピケ、セスク・ファブレガス、ジョルディ・アルバ、エリック・ガルシア…。そういった選手と同様に、トラオレもバルセロナのカンテラで育った選手だ。

トラオレは8歳でバルセロナのカンテラに入団。2013−14シーズン、グラナダ戦でネイマールと交代でピッチに送り込まれ、バルセロナでのトップデビューを飾った。

17歳でトップデビューしたトラオレ
17歳でトップデビューしたトラオレ写真:なかしまだいすけ/アフロ

「次のシーズンに向けて、選手を探している時だった。我々は(トラオレが所属していた)オスピタレットの試合を観ていた。そこで、アダマのプレーに注意が喚起された。相手GKが蹴ったロングボールに、颯爽と走って追いつき、ボールが地面に着く前にコントロールしてみせたんだ」

「アダマにはスピードとポテンシャルがあった。ドリブルがすごかった。だが1対1で相手を抜くという感じではなかったね。裏にボールを蹴って、自ら追い付くというプレーをしていた。相手がタックルさえできなかった。止められない選手だったよ」

これはトラオレをバルセロナのカンテラに入団させようと決断したジョルディ・コンドムの言葉である。当時、バルセロナのコーチングスタッフとして働いていたコンドムの進言で、2004−05シーズンにトラオレのバルセロナ入りが決定した。

■トラオレ獲得の意味

トラオレの獲得は、意味のあるものだった。

バルセロナは今冬の移籍市場でトラオレ、ピエール・エメリク・オーバメヤン、フェラン・トーレスと3人のアタッカーを確保した。共通しているのは、彼らがスピードのある選手だという点だ。

とりわけ、トラオレの存在感は大きい。アンス・ファティの負傷、ウスマン・デンベレの契約延長問題があり、バルセロナはウィンガーを必要としていた。

トラオレは、右ウィングに置かれ、積極的に仕掛けている。1対1の強さがあり、物理的なスピードで相手を「ぶっちぎる」ことができる。カウンターでも威力を発揮し、ベスト16進出が懸かったヨーロッパリーグのナポリ戦ではオーバメヤン、アルバと連携して見事な速攻を炸裂させた。

トラオレは、ウルヴァーハンプトン時代、154試合に出場して11得点18アシストを記録。決して得点力のある選手ではない。しかしながら、シャビ・エルナンデス監督のチームで、“戦術トラオレ”と形容できるような活躍を見せている。

新加入のオーバメヤンとフェラン
新加入のオーバメヤンとフェラン写真:ロイター/アフロ

シャビ監督は、就任後、どこか迷いながらチームを作ってきたところがある。【3−4−3】と【4−3−3】を使いながら、誰をどのポジションに配置するか試行錯誤していた。3バックと4バックが定まらず、ロナウド・アラウホやエリックを右サイドバックに置きながら、可変の3バックを試してもいた。

また、バルセロナは昨季までリオネル・メッシのチームだった。

メッシは前線に位置しながら、時に「レジスタ化」してゲームメイクを行なっていた。シャビやアンドレス・イニエスタがいた頃は、彼らがゲームをつくり、メッシはフィニッシュに専念していた。

だがメッシが中盤に下がる機会が増え、ミドルゾーンでは走れる選手や2列目から飛び出せる選手が重宝されるようになった。ペドリ・ゴンサレスやフレンキー・デ・ヨングがロナルド・クーマン前監督に選ばれていたのは、そのためだ。

メッシのチームではなくなり、またシャビ監督の就任で迷いながら進んできたバルセロナで、トラオレが加入して軸が一本通ったと言える。

今季台頭したガビ
今季台頭したガビ写真:なかしまだいすけ/アフロ

一方、トラオレの獲得は、バルセロナのカンテラ重視のフィロソフィーに繋がる。

ファティ、ガビ、ニコ・ゴンサレス、フェラン・ジュグラ、エズ・アブデ、ロナウド・アラウホ、オスカル・ミンゲサ、イリアス・アコマック…。将来有望なカンテラーノが、バルセロナで台頭してきている。

ピケ、エリック、セルヒオ・ブスケッツ、ガビ、トラオレといった選手がスタメンを張っているのは、カンテラーノの希望になる。それが、バルセロナの価値なのだ。

バルセロナとトラオレのチャレンジは始まったばかり。しかし、どこに向かうべきか、その道筋はすでに示されている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事