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なぜバルサに“復調の兆し”があるのか?シャビの就任で訪れた変化と「運」ではない強さ。

森田泰史スポーツライター
ガビに指示するシャビ監督(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

復権に向けて、道が開かれ始めた。

バルセロナは今季、成績不振を理由にロナルド・クーマン前監督を解任。シャビ・エルナンデス新監督を招聘して、新たなスタートを切った。

シャビ監督の就任後、バルセロナはエスパニョール戦(○1−0)、ベンフィカ戦(△0−0)、ビジャレアル戦(○3−1)と立て直している。

昨シーズンのバルセロナ
昨シーズンのバルセロナ写真:なかしまだいすけ/アフロ

バルセロナは今夏、リオネル・メッシがパリ・サンジェルマンに移籍した。

新型コロナウィルスの影響で財政は大きな打撃を受けた。今年5月の段階で110%に達していたとされるサラリーキャップを、70%以下に抑えなければいけなくなった。メッシの放出は、避けられなかった。

■バルセロナの得点力

メッシがいなくなり、当然ながらチームの得点力は下がった。

シャビ監督就任前、バルセロナは公式戦16試合で21得点を挙げていた。ただ、チャンピオンズリーグにフォーカスすれば、4試合でわずか2得点という厳しい現実が突きつけられていた。

ドリブルするメンフィス
ドリブルするメンフィス写真:なかしまだいすけ/アフロ

そんな中、懐疑的な視線が向けられたのは新加入のメンフィス・デパイだ。

メンフィスは今季開幕前にリヨンからフリートランスファーでバルセロナに移籍。それはクーマン前監督の要望でもあった。メンフィスとルーク・デ・ヨングの獲得を指揮官が望み、クラブは加えてセルヒオ・アグエロの獲得を決めた。

メンフィスに決定力がないわけではない。事実、カタール・ワールドカップの欧州予選では、オランダ代表で10試合12得点を記録して、ハリー・ケインと並び得点王になっている。

「メンフィスのオフ・ザ・ボールの動きは素晴らしい。だがタイミングを合わせなければいけない。そして、もう少し大胆になるべきだ」とはシャビ監督の言葉だ。

「ウィングのところでプレーするのではなく、相手のセンターバックにアタックしなければいけない。正しく、シンプルにプレーしようとするのではなく、エクセレントな領域に達するためにプレーすべきだ」

■後ろからの構築

クーマン前監督の指揮下において、バルセロナはメッシとアントワーヌ・グリーズマン の決定力に依存していた。チーム全体の得点のおよそ47%を、この2選手が記録していた。

メッシとグリーズマンが去り、バルセロナの攻撃の比重は左サイドに傾いた。アンス・ファティ、メンフィス、ガビ、ジョルディ・アルバ、フィリップ・コウチーニョと左サイドをプレーエリアにする選手が明確なプランなくして配置されたためだ。

一方で、シャビ監督が取り組んだのは、最終ラインの整備と全体バランスの調整だった。

ロナウド・アラウホやエリック・ガルシアといったセンターバック型の選手が右サイドバックに置かれて【4−3−3】と【3−4−3】の可変システムが採られるようになった。

シャビ監督は「後ろからの構築」をベースに、攻撃回数を安定させ、決定機を増やそうとしている。また、ウィングに関しては、イリアス・アコマックやエズ・アブデを重宝して、突破力のある選手を起用している。1対1でサイドを崩して、中央で仕留める形をきちんと作ろうとしているのだ。

シャビ監督とピケ
シャビ監督とピケ写真:ロイター/アフロ

シャビ監督の就任で、バルセロナに良いサイクルが生まれているのは確かだろう。

しかし、まだシャビ監督の手腕を疑問視する声はある。Xavi tiene la flor(シャビ・ティエネ・ラ・フロール)、いわく「シャビには幸運がついている」というものだ。

これはジネディーヌ・ジダン監督がレアル・マドリーを率いていた際、散々使われたフレーズだ。チャンピオンズリーグで3連覇を成し遂げた後でさえ、ジダンには運があったと指摘する識者やジャーナリストは存在した。

リーガ第15節のビジャレアル戦で、バルセロナは終盤のメンフィスの決勝点で勝点3を奪取した。「レアル・マドリーやアトレティコ・マドリーがこういう勝ち方をすれば、その競争性が称賛される。だが、我々がそれをやると、運のおかげだと言われるんだ。勝ち点を稼ぐのに有効ならば、運であれ、何であれ、歓迎するさ」とはビジャレアル戦後のシャビ監督のコメントだ。

シャビ・バルサの勝利は、運によるものではない。ペップ・チームのコンダクターだった指揮官は、確実にチームに変化をもたらしている。正しい方向に全員が向かった時、バルセロナは間違いなく強さを取り戻す。いまは、その過程。だがおそらく、シャビにはすでに結論が見え始めている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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