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バルサがメッシとグリーズマンの放出を決めた理由。失われた得点力と「総年俸額」の問題。

森田泰史スポーツライター
昨シーズンのバルセロナ(写真:ロイター/アフロ)

厳しい状況に、置かれている。

今夏、リオネル・メッシをフリートランスファーで放出したバルセロナだが、そこに留まらなかった。移籍市場最終日にアントワーヌ・グリーズマン をアトレティコ・マドリーに移籍させ、昨季までの主力2選手が同時期にクラブを去ることになった。

メッシとグリーズマンは昨季、ロナルド・クーマン監督のチームで得点源になっていた。両者は58得点27アシストと多くのゴールに絡み、そして勝利に貢献していた。

ドリブルするデ・ヨング
ドリブルするデ・ヨング写真:なかしまだいすけ/アフロ

「新たな時代が始まる。ショートスパンで見れば、非常に困難だという感覚がある。だがミドルスパンで見るなら、それは素晴らしいものになる。ただし、そこにはコミットメントが求められる。選手たちの反応は好ましく、そのトニックはシーズンを通じて変わらないだろう。彼らはかつてないほどモチベーションに満ちている。成功のシーズンを送るために、必ず戦ってくれるはずだ」

「サラリーの面で、2億ユーロ(約260億円)を調整しなければいけないという目標については、少し軌道修正ができた。ラ・マシアに賭けるというのが、我々の考えだ。それをクラブの理想のモデルとして考えている。選手の価値が高騰しているマーケットでの売却は検討していないが、コーチングスタッフの構想に含まれていない選手は例外だ」

これはジョアン・ラポルタ会長の言葉である。バルセロナが“得点力”を失うのは間違いないだろう。だが、クラブにはそれを避けられない事情があった。

■サラリーキャップの問題

バルセロナのサラリーキャップに関しては、今年5月の時点で110%に達していた。

サラリーキャップは、ラ・リーガにおいて2013年から導入されている制度だ。同年、CSD(スペイン政府スポーツ上級委員会)とスペインプロリーグ機構(現ラ・リーガ)が導入を決めたもので、それはラ・リーガ1部と2部のクラブの債務削減を目的として採り入れられた。

この制度により、各クラブは選手とコーチングスタッフの年俸及び移籍金の減価償却費を全体の収入の70%以下に抑えなければならなくなった。

バルセロナの場合、その額が大幅に超過していた。

また、その問題とは別に、バルセロナには13億5000万ユーロ(約1750億円)の負債がある。その大部分はジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長と前理事会の怠慢に依るものであるが、いずれにせよラポルタ会長としてはクラブを救うために大きな決断を下す必要があった。

■バルセロナの放出オペレーション

メッシの年俸額は7000万ユーロ(約91億円)、グリーズマンのそれは2000万ユーロ(約26億円)だったと言われている。

メッシはパリ・サンジェルマンに移籍し、グリーズマンはレンタルでアトレティコ に復帰する形となった。ただ、バルセロナを去ったのは彼らだけではない。

エメルソン・ロヤル(トッテナム)、イライクス・モリバ(ライプツィヒ)、ジュニオール・フィリポ(リーズ)、ジャン・クレール・トディボ(ニース)、カルレス・アレニャ(ヘタフェ)、ミラレム・ピアニッチ(ベジクタシュ)、フランシスコ・トリンカオ(ウルヴァーハンプトン)、コンラッド・デ・ラ・フエンテ(マルセイユ)、フアン・ミランダ(ベティス)、モンチュ(グラナダ)、レイ・マナイ(スペツィア)など多くの選手が放出された。

バルセロナはこの夏に選手の売却で8400万ユーロ(約109億円)を得ている。サラリーキャップはおよそ80%まで下がったとされている。

残すは、マーケットが開いているリーグ戦に選手を放出するか、あるいはジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバが受け入れたような減給を他の選手にも頼むか、である。ただ、どのような方法をとるにせよ、目標達成は見えてきた、というところだ。

メッシの後継者と目されるファティ
メッシの後継者と目されるファティ写真:ロイター/アフロ

■CF到着とファティの10番

そんな中、バルセロナがマーケットに最終日に獲得したのはルーク・デ・ヨングだった。

先述した通り、財政難に喘ぐバルセロナは、お金をかけずに今夏の補強を敢行したかった。メンフィス・デパイ、エリック・ガルシア、セルヒオ・アグエロがフリートランスファーで到着。そして、L・デ・ヨングがレンタルで加入した。

L・デ・ヨングに関しては、クーマン監督が獲得を熱望していた。クーマン監督は、エヴァートン時代にロメル・ルカク(現チェルシー)を重宝していた。また、ルカクの代役としてオリヴィエ・ジルー(現ミラン)を獲得しようとしていた経緯がある。オランダ代表を率いていた頃にL・デ・ヨングを信頼していたように、クーマン監督は上背があり、機動力に優れ、ポストワークが巧みな選手を好む指揮官なのだ。

クーマン監督の現行契約は2022年夏までとなっている。指揮官としては、勝負のシーズンだ。昨季、【4−2−3−1】【4−3−3】【3−1−4−2】と複数システムを使い分けていたクーマン監督だが、今季は【4−3−3】を基本布陣にすることが求められる。それがバルセロナを率いる者の宿命であり、そのためのL・デ・ヨング獲得だった。

また、バルセロナは負傷で長期離脱を強いられていたアンス・ファティが戻ってくる。ファティには、新たに「10番」が与えられた。正式にメッシの後継者に任命された格好だ。負傷明けでフィジカルコンディションは未知数であるが、カンテラーノであるファティへの期待値は高い。

近年、ビッグイヤー獲得を夢見てきたバルセロナだが、その道のりは厳しいと言わざるを得ない。それでも、依然として若いタレントが、このクラブには揃っている。いまは、高みを見据える時期ではない。着実に一歩一歩進めるかどうかが、バルセロナの未来を左右する。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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