Yahoo!ニュース

なぜレアルはカマヴィンガを獲得したのか?ユナイテッド、パリSG、バルサ…制した複数クラブとの争奪戦。

森田泰史スポーツライター
フランス屈指のタレントであるカマヴィンガ(写真:ロイター/アフロ)

驚きの補強だった。

2021年夏の移籍市場最終日。レアル・マドリーが、レンヌからのエドゥアルド・カマヴィンガ獲得を発表した。

移籍金固定額3100万ユーロ(約40億円)+ボーナス900万ユーロ(約11億円)で、マドリーとレンヌはカマヴィンガに際して合意に至った。選手とは2027年夏までの長期契約を結んでいる。

■若手の発掘

近年、マドリーは若手の発掘に力を注いできた。

筆頭に挙げられるのはヴィニシウス・ジュニオール(2018年夏加入/移籍金4500万ユーロ/約58億円)、ロドリゴ・ゴエス(2019年夏加入/移籍金4500万ユーロ/約58億円)、ヘイニエル・ジェズス(2020年1月加入/移籍金3000万ユーロ/約39億円)といったブラジル人の選手たちだ。

さらに遡れば、カゼミーロ(2013年加入/移籍金600万ユーロ/約8億円)、マルコ・アセンシオ(2014年夏加入/移籍金350万ユーロ/約5億円)、マルティン・ウーデゴール(2015年1月加入/移籍金280万ユーロ/約4億円)、フェデリコ・バルベルデ(2016年夏加入/移籍金600万ユーロ/約8億円)が若くしてレアル・マドリーの門を叩いている。

ウーデゴールに関しては、この夏に移籍金3500万ユーロ(約42億円)でアーセナルに売却された。それはマドリーのトップチームで活躍する難しさを表すとともに、フロレンティーノ・ペレス会長の選手とビジネスに関する考え方を端的に示している。

クロースとモドリッチ
クロースとモドリッチ写真:ロイター/アフロ

一方、マドリーでは、世代交代の必要性が生じている。

この数年のマドリーは中盤の序列に変化が起きていなかった。ルカ・モドリッチ(35歳)、トニ・クロース(31歳)、カゼミーロ(29歳)は長らくマドリーで盤石の中盤を築いてきた。2015−16シーズン、2016−17シーズン、2017−18シーズンとチャンピオンズリーグで3連覇を達成したチームにおいて、必要不可欠な存在になっていた。

だが彼らは余りに巨大な“壁”になっていた。マテオ・コバチッチ、ウーデゴールといった才能溢れる中盤の選手たちが、彼らとのポジション争いに敗れ、新天地に向かった。

そこに一石を投じるために、あるいはバルベルデやアセンシオと将来的にマドリーを背負っていける選手を確保するために、クラブは選手を探していた。そして、パリ・サンジェルマン、マンチェスター・ユナイテッド、バルセロナといったビッグクラブが関心を寄せていたカマヴィンガを射止めた。

■困難を乗り越える力

若くしてビッグクラブ移籍を実現させたカマヴィンガだが、その道は決して平坦ではなかった。

カマヴィンガの両親はコンゴ民主共和国出身だ。アンゴラの難民キャンプであるカビンダで生まれたカマヴィンガだが、彼が6歳の時に家族はフランスへの移住を決断した。

元々、カマヴィンガは柔道をやろうと思っていたようだ。だが「家でボールを蹴っていろいろなものを壊していた」ために、母親は彼にサッカーを勧めた。それが全ての始まりだった。

カマヴィンガの才能は、すぐに関係者の目に止まった。2013年にフランスの名門スタッド・レンヌが彼に白羽の矢を立てた。だが直後に火事で自宅が全焼するという“事件”が起こった。「あの火事は昨日の出来事のように覚えている。学校から消防車が駆けていくのが見えた。授業の後に先生に呼ばれて、僕と妹は事情を説明された。父親が迎えに来たのだけど、着いたら全てがなくなっていた」とはカマヴィンガの弁である。

「僕は10歳だった。その時、母親に『心配しないで。あなたは素晴らしいサッカー選手になる。そうすれば、また家を建てられるわ』と言われたんだ。僕は笑っていたよ。だけど、それから、繰り返しその言葉を聞くことになった。そのうち、僕自身が信じるようになったんだ。選手として高みにたどり着けるかもしれない、とね」

レンヌでプレーしていたカマヴィンガ
レンヌでプレーしていたカマヴィンガ写真:ロイター/アフロ

2018−19シーズン、カマヴィンガは16歳の若さで、レンヌでトップデビューを飾った。2020年9月には、17歳303日でフランスA代表デビューを果たした。

レンヌとしては、カマヴィンガをビッグクラブに移籍させられたのは大きなプラスだろう。カマヴィンガやウスマン・デンベレ(バルセロナ)といったレンヌのカンテラ出身選手の飛躍はクラブに恩恵をもたらす。

「レアル・マドリーはカマヴィンガが偉大な選手になるために、すべてを用意してくれるだろう。我々はカマヴィンガをマドリーに売った。それはレンヌにとって素晴らしいことだ。次のシーズン、レンヌ出身の2選手がいるクラシコを見られるかもしれないね」とはレンヌのスポーツディレクターであるフロリアン・モーリスの言葉だ。

「数ヶ月前、我々はもう少し高い値段でカマヴィンガを売れると思っていた。だが現在の状況に顧みれば、悪くない取引になったと言えるだろう」

カマヴィンガは18歳で初のラ・リーガ挑戦に向かう。レンヌの看板を背負い、世代交代の波に乗って、だ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事