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なぜユナイテッドはヴァランの獲得に動くのか...レアルの思惑と「真の勝者」を求めるスールシャール。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶヴァランとメンディ(写真:ロイター/アフロ)

大型補強に、動いている。

この夏の移籍市場で積極的な動きを見せているのが、マンチェスター・ユナイテッドだ。ジェイドン・サンチョの獲得に際しては、移籍金8500万ユーロ(約110億円)でボルシア・ドルトムントと合意に至った。

しかし、ユナイテッドが狙ってきたのはサンチョだけではない。

■スールシャールの考え

ユナイテッドの次のターゲットとされているのは、ラファエル・ヴァランだ。

ユナイテッドは2019年夏に移籍金8700万ユーロ(約112億円)でレスター・シティからハリー・マグワイアを獲得した。そして、現在、マグワイアの”相棒”を探している。以前、求めるセンターバック像についてオーレ・グンナー・スールシャール監督はこのように語っていた。

「感情的になってしまうディフェンダーは欲していない。例えば、カップ戦のファイナルで、そういう選手はPKを与えたり退場になったりしてしまう」

「あるいは、1点ビハインドの状況を想像してほしい。チームが苦しむ中では、リーダーが、真の勝者が必要だ。そのような選手が3人、4人といれば、チームを別の次元に引き上げてくれる。我々が欲しているのは、そういった選手だ」

F・トーレスをストップするショーとマグワイア
F・トーレスをストップするショーとマグワイア写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ヴァランは2011年夏にランスからレアル・マドリーに移籍。当時、無名だった18歳のセンターバック獲得に、マドリーは移籍金1000万ユーロ(約13億円)を支払った。彼の獲得をクラブに進言したのは、昨季まで監督を務めていたジネディーヌ・ジダンだった。

マドリーでは、セルヒオ・ラモスとペペが絶対的な存在として最終ラインを支えていた。それでも、2012-13シーズン、ジョゼ・モウリーニョ監督からチャンスをもらったヴァランは、好パフォーマンスを披露してマドリーで戦える選手だと証明した。

そして、2017年夏にぺぺが退団すると、ラモスとヴァランが不動のCBコンビになった。2015-16シーズン、16-17シーズン、17-18シーズン、前人未到のチャンピオンズリーグ3連覇を成し遂げたジダン・マドリーにおいて欠かせないプレーヤーになった。

ヴァランとセルヒオ・ラモス
ヴァランとセルヒオ・ラモス写真:ロイター/アフロ

「ラモスとヴァランはレアル・マドリーで最高のセンターバックコンビになった。私は選手個人について話すのが好きではない。フットボールはチームスポーツであると考えているからだ。だが彼らは例外だよ。このクラブで素晴らしいキャリアを築いてきた。その経験は、チームにとってプラスでしかない」とはジダン前監督の言葉だ。

「ディフェンスの側面は、私にとって非常に重要だ。選手たちは、その点でコミットしてくれている。もちろん、守備は最終ラインの4人だけでするものではない。チームの姿勢、それが勝つためには大事になる」

18歳でレアル・マドリーの一員になり、ビッグクラブで生き残ってきた。その選手の能力に、疑いの余地はない。

■レアル・マドリーの思惑

ヴァランとマドリーの契約は2022年夏までとなっている。マドリー側は年俸500万ユーロ(約6億円)を、700万ユーロ(約9億円)に引き上げる新契約を準備しているようだが、ヴァランから良い返事はもらえていない。そこに”カットイン”してきたのがユナイテッドだ。ユナイテッドはヴァランに年俸1200万ユーロ(約15億円)のオファーを用意しているという。

マドリーは、2020-21シーズン、新型コロナウィルスの影響で財政が打撃を受けたクラブの一つだ。その損失額は3億ユーロ(約390億円)に上るといわれている。また、キリアン・ムバッペ(パリ・サンジェルマン)の獲得が、噂されている。そのためにも、マドリーには資金が必要だ。

ダビド・アラバの加入、ナチョ・フェルナンデスとの2023年までの契約延長、2025年までの長期契約を結ぶエデル・ミリトン、ビクトール・チュストやマリオ・ヒラといったカンテラーノの突き上げ、レアル・マドリーというクラブにおいて選手の層は厚い。

ただ、マドリーにヴァランを安売りするつもりはない。移籍金5000万ユーロ(約65億円)以上が積まれなければ、交渉は進まないだろう。この辺りで、駆け引きが行われている。

競り合うヴァランとラングレ
競り合うヴァランとラングレ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

「ヴァランとコンビを組めるのは本当に素晴らしい。フランス代表に招集された時は所属クラブのことは考えない。代表チームがまとまるためにね。ヴァランは非常に良い選手で、信じられないくらいの経験を備えている。彼と同じチームでプレーできるなんて、最高だよ。彼の良いところは全部真似したいと思っている」とはバルセロナのクレメント・ラングレの弁である。

ヴァランを称賛する選手は、他にもいる。「セルヒオ・ラモスは偉大なセンターバックだ。すべてを勝ち取った。それをリスペクトしている。でも、世界一のセンターバックではない。僕は、タイプとしては、ヴァランが好きだ。若いけれど、多くのタイトルを獲得してきている。エクセレントなディフェンダーだ」と語るのはフィルヒル・ファン・ダイクだ。

ユナイテッドは、2020-21シーズン、プレミアリーグを2位でフィニッシュした。だが優勝したマンチェスター・シティに勝ち点12差をつけられていた。最終ラインに真の勝者をーー。あとはヴァランが新たなチャレンジを受け入れるかどうかだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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