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レアルはなぜリヴァプールを倒せたのか?多数の負傷者、主将不在...困難の荒波を乗り越えたジダンの微笑

森田泰史スポーツライター
シュートブロックするミリトン(写真:ロイター/アフロ)

チャンピオンズリーグとリーガエスパニョーラで、彼らは生き残っている。

 チャンピオンズリーグ準々決勝でリヴァプールと対戦したレアル・マドリーは、イングランド王者を下した。ホームのファーストレグを3-1、アウェーのセカンドレグを0-0として、準決勝進出を決めている。

指示を出すジダン監督
指示を出すジダン監督写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 「苦しむことは分かっていた。リヴァプールが最初の15分で仕掛けてくると思っていた。チャンピオンズリーグの準々決勝だ。(苦しむのは)当然だろう。だが我々は準決勝に進む、非常に満足している」とは試合後のジネディーヌ・ジダン監督の弁だ。

 「我々は全員が一緒にいる。多くのケガ人、離脱する選手...それでもチームはこれまで以上に勝利を望んでいる。我々はラウンド突破を決めた。誇りを感じており、とても嬉しい。ただ、まだ何も勝ち取っていない」

存在感を示したクルトゥワ(右)
存在感を示したクルトゥワ(右)写真:ロイター/アフロ

 ファーストレグ、マドリーとリヴァプールのスタッツはポゼッション率(46%/54%)、シュート数(16本/7本)、パス本数(415本/520本)、デュエル勝数(51回/31回)、ボール奪取数(62回/57回)というものだった。

 セカンドレグではポゼッション率(44%/56%)、シュート数(6本/15本)、パス本数(392本/508本)、デュエル勝数(55回/51回)、ボール奪取数(70回/76回)だった。

 セカンドレグの前、ユルゲン・クロップ監督は「レアル・マドリーを相手に良い守備をしなければならない」と話していた。2点差はあるが、守備をきちんとする必要があると強調していた。だが実際に強固なディフェンスを見せたのはマドリーだった。GKティボ・クルトゥワの再三の好セーブはチームを救った。2試合を通じて、堅固な守備、中盤の構成力、トランジション、カウンターでリヴァプールを制圧した。

試合をコントロールしたクロース
試合をコントロールしたクロース写真:ムツ・カワモリ/アフロ

■3トップの確立と経験

 現在のマドリーのキーワードは「経験」と「確立」だ。

 クラシコでは、経験の差が出た。バルセロナのスタメンの平均年齢は23.4歳だった。一方、マドリーのスタメンの平均年齢は25歳だった。

 とりわけ、中盤においてそれは顕著であった。バルセロナのペドリ(18歳)、フレンキー・デヨング(23歳)、セルヒオ・ブスケッツ(32歳)に対して、マドリーのルカ・モドリッチ(35歳)、トニ・クロース(31歳)、カゼミーロ(29歳)というベテランの選手たちが試合をコントロールした。

 「古老グループ」と度々揶揄される選手たちが決定的な仕事を完遂した。

得点源のベンゼマ
得点源のベンゼマ写真:ロイター/アフロ

 そして、3トップの確立である。カリム・ベンゼマ、ヴィニシウス・ジュニオール、マルコ・アセンシオがジダン監督の信頼を勝ち取った。

 「私はベンゼマの大ファンだ。彼の創造するフットボールが好きなんだ」と語るのは現役時代にマドリーでプレーして186得点を記録したカルロス・サンティジャーナ氏だ。

 「私は彼の試合をたくさん見てきた。彼を観察して、ボールを失うかをずっと見ていたりする。ほとんど失うことはない。クリスティアーノ・ロナウドがいなくなり、チーム状況が変わった。ベンゼマはより高い位置でプレーできるようになった。テクニックとフィジカルに優れた選手なので、新たな役割にすぐに適応した。チャンスメークと同時に、ゴール前に顔を出すようになった」

 ベンゼマは今季公式戦25得点をマークしている。彼のキャリアハイは32得点(2015-16シーズン)である。その記録に並ぶ勢いでゴールを量産している。

ボールをコントロールするヴィニシウス
ボールをコントロールするヴィニシウス写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 そのベンゼマをサポートするのがアセンシオとヴィニシウスだ。

 アセンシオは昨季、プレシーズンマッチのアーセナル戦でひざを負傷して長期離脱を強いられた。今季は開幕からレギュラーポジションを確保して、公式戦38試合出場を果たしている。対して、ヴィニシウスは公式戦39試合に出場している。エデン・アザールやロドリゴ・ゴエスの負傷があり、プレータイムを伸ばしていった。

 この2選手の課題を挙げるなら、得点力だろう。アセンシオは公式戦6得点2アシスト、ヴィニシウスは6得点6アシストだ。それでも、チャンピオンズリーグ準々決勝ファーストレグのリヴァプール戦でゴールを決めて、自信を回復しつつある。

ファーストレグでゴールを決めたアセンシオ
ファーストレグでゴールを決めたアセンシオ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

■負傷者続出とセカンドユニット

 「我々は肉体的に限界に達している。どのようにシーズンを終えられるか分からない」

 クラシコを制した後、ジダン監督はそのように語っていた。リヴァプールとのセカンドレグを前に、セルヒオ・ラモス、ダニ・カルバハル、ルーカス・バスケス、ラファエル・ヴァランが負傷とコロナ陽性反応で起用不可能となっていた。

 だがマドリーはそれを乗り越えた。リヴァプール戦では、フェルラン・メンディ、エデル・ミリトン、ナチョ・フェルナンデス、フェデリコ・バルベルデが最終ラインに並んだ。

 「ジダン1.0」時代では、エキーポ・べー、Bチームが強かった。アルバロ・モラタ、ハメス・ロドリゲス、アセンシオ、L・バスケスが途中出場やローテーション採用の試合で活躍した。2016-17シーズンには、リーガとチャンピオンズリーグで優勝して2冠を達成している。

 「ジダン2.0」時代においては最終ラインの選手たちが貢献を見せている。無論、これはジダン監督が狙ったわけではない。しかし、一方で選手たちにはある想いがある。ジダンのためにーー。選手として、監督として、マドリーの象徴的存在となった指揮官はいつも通り微笑を携えて勝利を喜んだ。その指揮官と共に、彼らは3年ぶりのビッグイヤー獲得、そして4年ぶりの2冠に近づいている。

得点を喜ぶL・バスケス、メンディ、ナチョ
得点を喜ぶL・バスケス、メンディ、ナチョ写真:Maurizio Borsari/アフロ

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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