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レアルはジダンに指揮を託して戴冠できるのか?正念場で見せた「勝負強さ」と現実的なマドリディスタ。

森田泰史スポーツライター
レアル・マドリーのジダン監督(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

正念場で勝負強さを見せてはいる。

チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦でアタランタと対戦したマドリーは、アウェーで行われたファーストレグを1-0で制した。バルセロナ、アトレティコ・マドリー、セビージャとスペイン勢が苦しむ中、唯一勝利を挙げたチームになった。

一方、リーガエスパニョーラでは第25節レアル・ソシエダ戦で引き分けを演じている。首位アトレティコ(未消化1試合)と勝ち点5差で次節のダービーを迎える。

アタランタ対マドリーの一戦
アタランタ対マドリーの一戦写真:Maurizio Borsari/アフロ

2020-21シーズンはマドリーにとって簡単な一年にはなっていない。

1月に行われたスペイン・スーパーカップでアスレティック・ビルバオに敗れ、優勝を逃した。コパ・デル・レイでは2部B(実質3部)に属するアルコヤーノに屈して大会から姿を消した。一時はジネディーヌ・ジダン監督の解任の可能性が取りざたされ、2月5日の記者会見の際には珍しくジダン監督が語気を荒げた。

「私が日常生活で何を耳にしているか。いつも解任の話だ。それは君たち報道陣が一番よく分かっているだろう。昨シーズン、リーガで優勝したのは我々だ。レアル・マドリーなんだ。今シーズンもそこに向けて戦う権利を有しているはず。我々に戦わせてくれ。我々がリーガを制したのは去年のことだ。10年前の話ではない。少しのリスペクトを要求するよ。言うのなら、面と向かって『監督交代を望む』と私に言ってほしい。コソコソ陰に隠れて言うのではなくてね」

次の手を考えるジダン監督
次の手を考えるジダン監督写真:ロイター/アフロ

ジダン監督の怒りは頂点に達していた。その一方でマドリーは限界に近づいていた。主力選手が相次いで負傷離脱を強いられたのだ。セルヒオ・ラモス、ダニ・カルバハル、カリム・ベンゼマ、マルセロ、フェデリコ・バルベルデ、ロドリゴ・ゴエス、エデル・ミリトン、アルバロ・オドリオソラ、エデン・アザール...。先のアタランタ戦では9選手が欠場している。

「(負傷者続出の状況に)説明がつかない。負傷で欠場する選手がいるのは、非常に残念だ。彼らが試合に出られないこと、そして多くの選手が不在だということは事実だ。だが我々は試合に向けて準備を整えている。ソリッドに戦い、勝つためにチャンスを作らなければいけない」とはジダン監督の弁である。

ミドルシュートを打つメンディ
ミドルシュートを打つメンディ写真:Maurizio Borsari/アフロ

タイトルを獲得したいなら、絶対に落とせない試合というのがある。その大一番で活躍したのがフェルラン・メンディとイスコだ。

2019年夏に移籍金4800万ユーロ(約57億円)で加入したメンディは、マルセロからレギュラーポジションを奪取。フィールドプレーヤーで、2014年夏に加入したトニ・クロース以降、スタメンの座を勝ち取ったのはメンディのみである。

アタランタ戦では非利き足の右足で決勝ゴールを記録した。試合後に「練習していたセットプレーの形だが、シュートを打つのはメンディの役割ではなかった」と語っていたジダン監督だが、前半にインナーラップからのフリーランニングでレモ・フロイラーの退場を誘発しており、メンディが勝利に貢献したのは明らかだった。

ル・アーヴルの育成年代でメンディを指導したヨハン・ルーヴル監督は「最初はメンディに自分のポジションにおける戦術を教え込まなければならなかった。ピッチ上を走り回ってしまう選手だったからね」と語っている。そのメンディがトップ化して、マドリーはアタランタを撃破した。

リーガのデータを見ると、メンディは第25節レアル・ソシエダ戦前の時点で20試合出場1得点、パス本数989本(1試合平均49.5本)、パス成功本数893本、ボール奪取数92回(1試合平均4.6回)、ドリブル数39回(1試合平均1.95回)を記録している。攻守において貢献度の高い選手だ。

■偽背番号9

そして、イスコである。

イスコはアタランタ戦でファルソ・ヌエベ(偽背番号9/ゼロトップ)に据えられた。今季出場時間532分とプレータイムを確保できていなかったイスコを、ジダン監督はビッグマッチで先発起用した。

3バックのアタランタに対して、イスコが中央のCBを釣り出し、両ウィングのマルコ・アセンシオとヴィニシウス・ジュニオールがダイアゴナルランでスペースに飛び出す。また、イスコの存在でポゼッションを高める。アタランタが早い時間帯に10人になったこともあり、ジダン監督の思惑通り試合は進んだ。

ドリブルするイスコ
ドリブルするイスコ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

「マドリーには多くの欠場者がいる。それでも彼らは試合に勝つ。そういうチームだ」

試合前、アタランタを率いるジャンピエロ・ガスペリーニ監督はそう語っていた。

指揮官の予想は的中した。マドリーはアクシデントに襲われながら公式戦5連勝を飾った。ただ、スペイン『マルカ』のアンケートでは、「今季のマドリーの成績は?」との問いに2冠達成(26%)、リーガ優勝(26%)、CL制覇(5%)、無冠(43%)とマドリディスタの厳しい評価が下されている(2万1963票/2月28日午前時点)。

依然として、予断を許さない状況である。だが「最後まで戦わせてほしい」と主張していたジダン監督が、シーズン終了時にトロフィーを掲げている可能性は、十分にある。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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