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なぜチェルシーはトゥヘルの就任で強さを取り戻したのか?布陣変更とマネジメントの妙。

森田泰史スポーツライター
トゥヘル監督とマルコス・アロンソ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

チェルシーに、大きな変化が訪れている。

チェルシーは1月25日にフランク・ランパード前監督を解任。その後任としてトーマス・トゥヘル監督を招聘した。

ドリブルするヴェルナー
ドリブルするヴェルナー写真:ロイター/アフロ

今夏、チェルシーは大型補強を敢行した。新型コロナウィルスの影響で欧州の各クラブが厳しい財政状況に置かれるなか、2億4700万ユーロ(約316億円)を投じた。

カイ・ハーヴァーツ(移籍金8000万ユーロ/約102億円)、ティモ・ヴェルナー(移籍金5300万ユーロ/約678億円)、ベン・チルウェル(移籍金5000万ユーロ/約64億円)、ハキミ・シィエフ(移籍金4000万ユーロ/約51億円)、エドゥアルド・メンディ(移籍金2400万ユーロ/約31億円)、チアゴ・シウバ(フリートランスファー)...。ドイツ、オランダ、フランス、イングランドと各国のマーケットから選りすぐりのメンバーを集めた。

昨年12月12日にエヴァートンに敗れるまで、17試合で無敗を貫いていた。だが、そこからウルブス戦(1-2)、アーセナル戦(1-3)、マンチェスター・シティ戦(1-3)、アストン・ヴィラ戦(1-1)と勝利から見放された。

「非常に難しい決断だった。なぜなら私とランパードはエクセレントな関係だからだ」とはオーナーのロマン・アブラモビッチの弁だ。

「私はランパードを本当にリスペクトしている。彼は仕事にコミットする人で、高い倫理観を備えている。だが現状を顧みて監督交代が必要だと判断した。すべてのクラブの人間を代表して、ランパードに感謝の意を表したい。彼の今後の成功を祈っている。彼の地位は揺るがない。チェルシーのアイコンであり続ける。スタンフォード・ブリッジに来る時は、いつでも歓迎だ」

かくしてランパード政権は幕を閉じた。プレミアリーグ56試合で28勝11分け17敗という戦績だった。

筆者作成
筆者作成

■稀代の戦術家

ランパードが去ったチェルシーの監督人事において、白羽の矢が立てられたのがトゥヘル監督だ。彼は今季途中にパリ・サンジェルマンを追われていた。

トゥヘル監督はマインツ、ボルシア・ドルトムント、パリSGで指揮を執ってきた。稀代の戦術家として知られる一方で、度々選手やクラブと衝突してきた。マインツ時代のトゥヘル監督を知るハインツ・ミュラーは彼を「独裁者だ」と評したことがある。ドルトムントで指導を受けたロマン・ヴァイデンフェラーは「ビジョンを持っているが人として何かが欠けている」と酷評した。

ドルトムントではユルゲン・クロップ監督の後任としてチームを率いた。クロップ監督の基本布陣だった【4-3-3】を崩さず、時に【4-2-3-1】を使用しながらチーム作りを進めていった。マルコ・ロイス、クリスティアン・プリシッチ、ヘンリク・ムヒタリャン、ピエール=エメリク・オーバメヤンらの力を引き出した。

パリSGではウナイ・エメリ監督の残したチームを引き取った。同様に前任者の手法を踏襲。【4-3-3】と【4-2-3-1】を採用した。徐々に梃入れをしていき、2019-20シーズンには【4-2-2-2】を使いチャンピオンズリーグ決勝まで勝ち進んだ。ネイマール、キリアン・ムバッペ、アンヘル・ディ・マリア、マウロ・イカルディらが躍動した。

ただ、チェルシーでは手を加えるのが早かった。【4-2-3-1】を基本布陣としていたランパード前監督だが、トゥヘル監督は【3-4-2-1】へのシステムチェンジを早々に決断している。

チェルシーでプレーするハドソン=オドイ
チェルシーでプレーするハドソン=オドイ写真:ロイター/アフロ

プレミアリーグ第25節、サウサンプトン戦。ハーフタイムに投入されたカラム・ハドソン=オドイが、終盤にシィエフと交代でピッチを退いた。この交代策は現地メディアで話題を呼んだ。「ハドソン=オドイが完全に試合に入り込んでいるように感じなかった。ボールロスト後のプレスにおいて動きが散漫だった。5%でさえエネルギーを省いてはいけない」というのが試合後のトゥヘル監督の説明である。

一方、トゥヘル監督はマテオ・コバチッチを「午前3時に起こしても、3時15分からトレーニングする準備ができているような選手だ。私は彼のような選手が好きだ」と称賛している。少しずつ、選手とチームを掌握し始めている。

パリSGでは、ネイマール、ムバッペ、ディ・マリア、イカルディらを使いこなさなければならなかった。チェルシーでは前述したハーヴァーツ、ヴェルナー、シィエフ、チルウェルらに加え、ケパ・アリサバラガ(契約解除金8000万ユーロ)、プリシッチ(移籍金6400万ユーロ)といった選手の扱いを再考する必要がある。

「トゥヘルは素晴らしい監督だ。彼の影響は見て取れる。私は彼と一緒に仕事をした人を多く知っている。皆、すぐに彼をリスペクトしていた。チャンピオンズリーグというのは、大型投資をすれば勝ち取れるというものではない。それでは、うまくいかない。オーガナイズが重要なんだ。正しいツールを、正しいタイミングで使わないといけない。トゥヘルには、そのための素質がある」とはクロップ監督の言葉だ。

チェルシーはトゥヘルの就任以降の公式戦7試合で6勝1分けと無敗を維持した。エフェクト・トゥヘル(トゥヘル効果)はすでに出ている。それがどこまで継続するかーー。変化の先に、タイトルがなければ続投はできない。トゥヘル自身が、そのことを誰よりも理解しているはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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