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グアルディオラの描く「ボランチ像」とは? バルサ、バイエルン、シティで選ばれた選手とスタイルの変遷。

森田泰史スポーツライター
ブスケッツとグアルディオラ監督(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

「チキ・タカ」といえば、その代表格はジョゼップ・グアルディオラ監督が率いたバルセロナだろう。

チキ・タカとはパスを回すフットボールを指す。いわゆるポゼッションのスタイルだ。グアルディオラ監督はバルセロナでテクニカルな小柄な選手たちを自在に使い、内容だけではなく、4年間で14個のタイトルという結果をそこに伴わせてみせた。周囲の価値観を丸ごと変えてしまったのだ。

ペップ・シティ/筆者作成
ペップ・シティ/筆者作成

■メンタリティーの変化

「私はサウサンプトンの監督に就任する際、『クライフのドリームチームのようなチームを作って欲しい』と言われた。それにはメッシ、シャビ、イニエスタのような選手を獲得しなけらばならないと思ったものだ」とスペイン『エル・パイス』紙に語るのはマウリシオ・ポチェッティーノ前トッテナム監督だ。

「それでも我々は異なるフットボールを提示しようと試みた。就任2年目の11月には、アーセナルと首位決戦を戦っていた。前線からプレスを掛けるのではなく後方からボールを繋ぐスタイルは周囲の関心を引き付けた。我々やロジャースのような監督がイングランドのフットボールにおけるメンタリティーを変えたのだと思う。そして、ペップの到着がすべてを変えてしまった」

グアルディオラがマンチェスター・シティの監督に就任したのは2016年夏だ。バルセロナ、バイエルン・ミュンヘンで指揮を執りプレミアリーグに辿り着いたスペイン人指揮官は以前とは異なるアプローチを採った。

その遷移を見逃してはならない。バルセロナではリオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデスとカンテラーノを中心にチームビルディングを行った。恐るべきはタイトル獲得以上にその費用対効果だ。基本的に移籍金ゼロで獲得してきた選手がトップチームの主力として活躍し続け、戴冠の度に得る収入はそのままクラブの利益になった。

だがバイエルンやシティがバルセロナのような育成組織を誇っているわけではない。グアルディオラは非常に賢い人である。そのなかで彼が資金潤沢なクラブに傾いていったのは偶然ではないだろう。とりわけ、資産100兆円といわれるアブダビ王族、オーナーのシェイク・マンスールに経営権を託すシティに行ったのは象徴的だった。

バルサ時代とバイエルン時代/筆者作成
バルサ時代とバイエルン時代/筆者作成

■ボランチの発掘

一方、グアルディオラは近年リーガエスパニョーラからタレントを「発掘」してきている。昨年夏には、アトレティコ・マドリーからロドリ・エルナンデスを獲得した。契約解除金7000万ユーロを支払い、移籍を成立させている。

思えば、グアルディオラはアンカーやボランチの位置にスペイン人選手を置く傾向がある。バルセロナ時代はセルヒオ・ブスケッツ、バイエルン時代はチアゴ・アルカンタラ、シャビ・アロンソ、そしてシティでロドリを獲得した。

グアルディオラにとって、中盤は核となる部分だ。彼自身が、ヨハン・クライフのエル・ドリームチームでアンカーのポジションを務め、中盤の底からタクトを振るう選手だった。

先のポチェッティーノの言葉にあるように、イングランドにおいてポゼッションはある種のカウンターカルチャー(対抗文化)であった。だがペップ・グアルディオラの到着がそのスタイルを根付かせた。それはボランチという肝になるポジションを重視しつつ、他ならぬグアルディオラが変化してきたからこその達成だったと言えるかも知れない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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