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バレンシアが監督交代騒動を経て掴んだ結果と、訪れる変化の予感。

森田泰史スポーツライター
ゴールを喜ぶワスとパレホ(写真:ロイター/アフロ)

レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーに追随するーー。チャンピオンズリーグでベスト16に進出したバレンシアが、虎視眈々と上位進出を狙っている。

バレンシアは今季序盤、マルセリーノ・ガルシア・トラル前監督を解任した。オーナーのピーター・リムとの確執が、その理由だった。即座にアルベルト・セラーデス新監督を迎えたものの、直後のリーガエスパニョーラ第4節バルセロナ戦で大敗。バレンシアニスタの不満は爆発寸前だった。

■お家騒動

2014年、クラブが財政危機に瀕している際に要職に就いたピーター・リムは、当初「英雄」として扱われた。だがジョルジュ・メンデス代理人と親しい関係にあるシンガポール人オーナーは、そのパイプを用いながら幾度となく指揮官の招聘と補強を決断。その独善的な行動は、時にコーチングスタッフの反感を買った。

振り回されたのはマルセリーノ前監督だけではない。スポーツディレクターとして働いていたマテウ・アレマニーも、オーナーの「気まぐれ」に振り回された。今季開幕前、ロドリゴ・モレノはアトレティコ・マドリー移籍に迫り、その一方で移籍金1200万ユーロ(約14億円)が支払われて現場が望んでいなかったティエリ・コレイアの獲得が決まった。

異を唱えたアレマニーの権力は弱まり、最終的には追い出される格好でクラブから去っていった。マルセリーノ前監督への選手たちの信頼は厚かった。アレマニーはその指揮官の意向を汲んで補強を行っていた。一枚岩となり2年連続でチャンピオンズリーグ出場権を獲得したバレンシアだが、それが一気に崩壊への一途を辿ることになったのである。

そんな中、就任したのがセラーデス監督だ。スペインの世代別代表で指揮を執ってきたセラーデス監督だが、リーガエスパニョーラ1部での指揮は初めてだった。

■スペイン第四の砲

セラーデス監督は選手時代にバルセロナとレアル・マドリーでプレーした数少ない人物だ。

7歳でバルセロナのカンテラに入団した彼は、1995-96シーズンにトップデビュー。1997-98シーズン、ルイ・ファン・ハール当時監督の下で、CBとしてレギュラーに定着した。そしてセルタを挟み、2000年夏にレアル・マドリーに移籍。ビセンテ・デル・ボスケ当時監督の下で、ジネディーヌ・ジダン、ルイス・フィーゴ、クロード・マケレレ、マクナマナマン、グティらと共に、クラブ史上9度目のチャンピオンズリーグ優勝を達成した。

ビッグクラブでプレーした経験から、セラーデス監督は選手の気持ちを汲み取るのが上手い。マルセリーノ前監督を否定するのではなく、そのやり方を踏襲する形で、チーム作りを進めていった。

セラーデス・バレンシアの基本布陣は4-4-2だ。マルセリーノ前監督の頃と同じである。中盤で試合をコントロールするダニ・パレホ、得点源のロドリゴ、中心になる選手は変わらない。

その一方で、セラーデス監督には頑固さがある。フェラン・トーレスを重宝する傍ら、イ・ガンインのプレータイムが減った。ピーター・リムとしては、この若い2選手を多く起用することを望んでいた。だが、セラーデス監督は、そこで自身の戦い方を貫いた。また、クラブはマルセリーノ前監督解任時にメディカルスタッフを一掃しようとしていた。だが選手たちの反発を感じ取ったセラーデス監督は、それを拒否した。そうして、少しずつ、選手たちの信頼を勝ち取っていった。

崩れかけたチームは、土壇場で保たれた。リーガでは苦しみながら中位をキープして、チャンピオンズリーグでは2012-13シーズン以来のベスト16進出。ベスト8を睨み、アタランタと対戦する。

バルサ、マドリー、アトレティコに次ぐ、「スペイン第四の砲」は放たれた。ゴタゴタを乗り越え、バレンシアが欧州の舞台に参陣する。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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