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浮かび上がる歪な構造。2強時代を経てリーガが迎える転換期。

森田泰史スポーツライター
マドリーを下したラージョ。だがリーガではジャイアント・キリングが少ない(写真:ロイター/アフロ)

2018-19シーズンの、バルセロナのリーガエスパニョーラ優勝が決定した。

思えば、リーガはこの15年間レアル・マドリーとバルセロナの「2強時代」が長く続いてきた。アトレティコ・マドリーが優勝した2013-14シーズンを除き、2004年から2018年までの間、マドリー(優勝4回)とバルセロナ(優勝10回)がタイトルを分け合ってきた。

■放映権

その要因のひとつには、テレビ放映権の問題がある。

今季、バルセロナはテレビ放映権で1億5400万ユーロ(約190億円)を、レアル・マドリーは1億4800万ユーロ(約183億円)を、アトレティコ・マドリーは1億1000万ユーロ(約136億円)を受け取っている。テレビ放映権の収入で1億ユーロを超えているのは、この3クラブのみだ。

対して、最低額はジローナとレガネスのもので、4330万ユーロ(約53億円)だ。バルセロナは、ジローナとレガネスのテレビ放映権による収入の3.6倍得ている。

イングランドに目を向けると、違いは明確である。マンチェスター・ユナイテッド(最高額/1億6620万ユーロ)は2部チャンピオンシップに属するウェスト・ブロムウィッチ(最低額/1億50万ユーロ)の1.6倍の額を受け取るにとどまっている。

スペインの場合、リーガの順位、社会への影響力、スタジアムの動員数(ソシオ数とチケットの売り上げ)、視聴率数を指標にして、各クラブのテレビ放映権による収入が決められるとされる。その結果、バルセロナ、マドリー、アトレティコの3クラブが突出するという現象が起きている。

2015年5月に法律が改正され、リーガのテレビ放映権のシステムは変わった。だが、いまもなお、「2強+アトレティコ」とその他のクラブの差は深淵だ。

■拮抗性

その前の15年間に関しては、1989年から2004年までの間にマドリー、バルセロナ、アトレティコ、バレンシア、デポルティボ・ラ・コルーニャと5チームが優勝を経験している。

各クラブの力量は以前の方が拮抗していた。移籍の活発化とグローバリゼーションが、そうさせていた。1996年のボスマン判決後、その勢いは加速した。EU加盟国籍所有選手が流動的に動くようになり、それぞれのチームの国際化が進んだ。

例外的なクラブとして、純血主義を貫くアスレティック・ビルバオがある。アスレティックはカンテラーノあるいはバスク出身選手でメンバーを構成するという方針を頑なに貫いてきた。だが、アスレティックを除けば、国籍とは無関係にピッチ上に選手が並べられる傾向が強まった。

国内のコンペティションに興味を失った上位のクラブは、チャンピオンズリーグ制覇を「至上命題」とするようになった。マドリーの例は顕著だ。過去6年で4度ビッグイヤーを掲げている一方で、その期間に一度しかリーガ優勝を果たしていないのである。

■覇権

テレビ放映権のテーマで言えば、プレミアのそれはリーガより格段に優れている。すでにアジア圏におよそ30%のファン層があるといわれているプレミアは、早くから試合開始時間を午後の早い時間にするなど工夫を行い、そのシステムを強固なものとしてきた。

放映権は正当に分配され、中小クラブであっても、適切な補強をできるような仕組みが出来上がっている。リーガは、この点において、完全に後れを取った。

そして、その間に国家クラブが台頭してきた。パリ・サンジェルマン、マンチェスター・シティといった、オイルマネーを資金源とするクラブが、大金をはたいて大型補強を敢行する。

一昔前まで、これはフロレンティーノ・ペレス会長がレアル・マドリーで採っていたような施策だ。ペレス会長がルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、クリスティアーノ・ロナウド、ガレス・ベイルらを獲得した事実は、過去の栄光になろうとしている。

ネイマール獲得に、2億2200万ユーロを準備したのは、パリ・サンジェルマンだった。昨夏の移籍市場で、GK史上最高額として話題になったケパ・アリサバラガの獲得に際して契約解除金8000万ユーロを積んだのはチェルシー、つまりプレミアリーグのクラブであった。

今季のチャンピオンズリーグでは、バルセロナがベスト4に残ったものの、マドリーとアトレティコはベスト16で敗退している。補強においても、スポーツ的側面においても、覇権を失いつつある。

スペインあるいはリーガは早急に改善に努めなければいけない。事態は思っている以上に深刻だ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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