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バルサを支える実践者。絶たれたラ・マシアの痕跡と、可視化される課題。

森田泰史スポーツライター
バルセロナで定位置を確保したラングレ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

強いチームが勝つのには、理由がある。

今季、スペインで唯一3冠の可能性を残しているのが、バルセロナだ。リーガエスパニョーラで首位を独走しながら、コパ・デル・レイで決勝進出を決めており、チャンピオンズリーグでベスト8に勝ち進んでいる。

リオネル・メッシ、ルイス・スアレスの決定力は圧倒的だ。両者はリーガの得点王争いで1位(メッシ/33得点)と2位(スアレス/20得点)に位置している。だが、エルネスト・バルベルデ監督の戦術に幅をもたらすプレーヤーがいるからこそ、彼らの存在が際立つのである。

■実践者

バルベルデ監督から絶大な信頼を得ているのが、クレメント・ラングレとイバン・ラキティッチだ。

ジェラール・ピケは、ラングレとセンターバックを組むようになり、安定したパフォーマンスを見せている。移籍当初こそ、相手FWに背後を取られやすいという悪癖を見せていたラングレだが、ピケとの「タンデム」で相乗効果的にディフェンダーとしての能力を上げていった。

また、アンドレス・イニエスタが去ったバルセロナにおいて、セルヒオ・ブスケッツの一番の理解者はラキティッチである。プレス型のチームを標榜するバルベルデ監督の指揮下、中盤でそのプレッシングの先鋒役を務めるのがラキティッチだ。彼のタフさが、バルセロナに安定感をもたらす。ラキティッチがいるから、バルベルデ監督はアルトゥール・メロやアルトゥーロ・ビダルを忍耐強く起用できる。

彼らに、メッシや一時代を築いたロナウジーニョのような派手さはない。いわば、彼らは指揮官のコンセプトの「実践者」だ。ただ、メッシ、スアレス、フィリペ・コウチーニョ、ウスマン・デンベレが輝くためには、ラキティッチやラングレのような存在が必要なのは間違いない。

ポピュリズム(大衆主義)において、こういうタイプの選手は高く評価されないだろう。つまり、ラキティッチやラングレはメディアが好む類の選手ではない。しかしながら、タイトルを獲得するチームには、必ず彼らのような選手がいる。

■カンテラーノの不在

3冠に邁進して「現在」を謳歌しているバルセロナだが、未来に向けては陰りがある。

エリック・ガルシア(現マンチェスター・シティ)、セルヒオ・ゴメス(ボルシア・ドルトムント)、ジョルディ・エムボラ(モナコ)...。バルセロナの多くのカンテラーノが、10代の段階で他クラブへの移籍を決断した。

昨季、トップチームのカンテラーノ率は27%だった。そして、イニエスタ、ピケ、メッシ、ブスケッツ、ジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルトと全選手が25歳以上だった。

2013-14シーズンまで遡れば、ヘラルド・マルティーノ政権におけるトップチームのカンテラーノ率は68%である。また、12-13シーズンのリーガ第13節レバンテ戦では、スタメン全員がカンテラーノだった。

バルセロナの育成寮ラ・マシアを象徴する選手は、年々減少している。

現在、トップチームに居場所を確保しているのはカルレス・アレニャのみだ。一方で、バルセロナはフレンキー・デ・ヨング獲得に際して移籍金固定額7500万ユーロ(約94億円)+ボーナス1100万ユーロ(約14億円)でアヤックスと合意している。

バルベルデ監督の下で、現在のレギュラーの過半数が30歳以上だ。新陳代謝が行われる必要がある。だがカンテラーノは育っていない。補強で世代交代を済ませようとしているなら、遠くない将来に暗黒の闇に道を塞がれるのは明白である。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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