麗しのクライフイズム。デ・ヨングのバルサ移籍と、バルセロニスタが馳せる夢。
ついに、ビッグディールがまとまった。
バルセロナは23日にフランキー・デ・ヨング(アヤックス/オランダ代表)獲得を決めた。ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長直々にアムステルダムに赴き、2019年夏の加入が正式に決定している。
移籍金は固定額7500万ユーロ(約93億円)+ボーナス1100万ユーロ(約13億円)だ。ボーナスの条件を満たせば、総額8600万ユーロ(約106億円)で、リヴァプールがフィルジル・ファン・ダイク獲得の際に支払った8450万ユーロ(約104億円)を上回り、オランダ人選手史上最高額を更新する。
■クライフイズムの体現者
バルセロナを語る上で、欠かせないのは故ヨハン・クライフの存在だ。アヤックスとバルセロナで、選手として、監督として、大きな成功を収めた。クライフに率いられたバルセロナは1991年から94年にかけてリーガエスパニョーラで4連覇を達成。「ドリームチーム」と称され、バルセロニスタに幾度となく歓喜を届けた。
クライフがアヤックスからバルセロナに持ち込んだのが4-3-3とポゼッションだった。バルセロナでは、現在もなお創造主の哲学が深く根付き、カンテラではこのシステムにおける機能性を体に染み込ませるように叩き込まれる。
そのアヤックスで、将来有望な選手が突出したパフォーマンスを見せている。そうして、デ・ヨングに白羽の矢が立った。アヤックスで、オランダ代表で、4-3-3の心臓部にあたる中盤に位置して試合をコントロールするデ・ヨングに、バルセロニスタが期待を寄せるのも無理はない。
■ポリバレント
バルセロナがデ・ヨングを獲得した理由のひとつが、彼のポリバレントな能力だ。インサイドハーフ、アンカー、センターバックまでこなせる。エルネスト・バルベルデ監督にとって、大きな戦力になるのは間違いない。
そして、デ・ヨングの特徴はシンプルなプレーだ。的確なポジショニングとファーストタッチで、相手選手を置き去りにする。これにより、MFラインのプレス網の破壊が可能になり、味方にアドバンテージを与える。中盤で数的優位が作りやすくなるのだ。
バルセロナでは、左インサイドハーフが最適なポジションになるだろう。ポゼッションを高めるための役割が期待される。しかしながら、彼に与えられるタスクは、それに留まらないはずだ。
就任一年目となった昨季、バルベルデ監督は4-4-2を採用していた。ネイマールのパリ・サンジェルマン移籍による決断だったが、その影響は未だにある。指揮官の頭の中には、試合中に4-4-2と4-3-3を使い分けるプランがある。「可変式4-4-2」だ。
可変式4-4-2で、必要なのはデ・ヨングだ。デ・ヨングを左ウィングに据え、彼が中盤に引いてきて4枚のラインを形成してポゼッションを高める。前線にはリオネル・メッシとルイス・スアレスがいる。ボールを握りながら勝敗の行方を彼らの決定力に委ねるフットボールである。
■新たな旅
ただ、不安要素がないわけではない。高額な移籍金と年俸からくる重圧に、21歳の若者が耐えられるかどうか。デ・ヨングの年俸額は1000万ユーロ(約12億円)+ボーナス600万ユーロ(約7億円)になるといわれている。リオネル・メッシ、ルイス・スアレスに次いで、ジェラール・ピケやセルヒオ・ブスケッツと同等の扱いだ。
バルセロナがデ・ヨング獲得に躍起になったのには、相応の理由がある。デ・ヨングやアルトゥール・メロという外国人選手に、カルレス・アレニャ、リキ・プッジといったカンテラーノを加え、マッシュアップさせて新たな化学反応を起こす。バルセロナの狙いは、それだろう。
さらに、ある種の偶然性が心を刺激する。1989年1月23日。これはバルセロナがPSVから獲得したロナルド・クーマンの入団会見を行った日である。移籍金は8250万ペセタ(約500万ユーロ)だった。
奇しくも、現オランダ代表指揮官が入団会見を行った日に、デ・ヨングの獲得が決まった。
クーマンは「ドリームチーム」の主力として活躍した。1991-92シーズン、チャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)の決勝で、決勝弾を沈めたのはクーマンだった。バルセロナが初めて欧州の頂点に立った瞬間だ。
30年の時を経て、バルセロニスモに郷愁の念が漂う。クライフが、クーマンが、高めた評価と期待値。デ・ヨングの新たな旅が始まろうとしている。