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アトレティコとボランチ型の4選手。シメオネの「クアトリボーテ」は完成するか。

森田泰史スポーツライター
堅固な守備を誇るアトレティコ(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

奇策を用いるのではない。積み重ねが、モノを言うのだ。

リーガエスパニョーラ第12節終了時点、勝ち点23で3位に位置しているアトレティコ・マドリー。現地時間24日に迎える第13節、本拠地ワンダ・メトロポリターノで首位バルセロナ(勝ち点24)との大一番を控えている。

■シメオネの企て

この決戦で、ディエゴ・シメオネ監督は何かしら企ててくるだろう。そこに、4人のボランチを中盤に置くというアイデアがある気がする。それはバルセロナへの対抗策として、十分に考えられる選択肢なのだ。

コケ、ロドリゴ・エルナンデス(ロドリ)、サウール・ニゲス、トーマス・パーティーという4選手が、シメオネ監督にアピールしてきた。もともと、現役時代に「潰し屋」として鳴らしてきた指揮官である。中盤への拘りは強い。

今夏ガビ・フェルナンデスが退団したアトレティコだが、その代役として加入したロドリが、すぐさま定位置を確保した。ロドリは、近年シメオネ監督が欲していた選手だったのかも知れない。

2011年12月から続くシメオネ政権で中盤の役割を完璧に演じていたのはガビと、チアゴ・メンデスだ。彼らは戦術理解度が高く、ポジショニングに優れ、試合を読む力に長けていた。昨季、シメオネ監督はガビとコケをダブルボランチに据えたが、守備面で弱さを露呈した。堅固な守備こそが、現在のアトレティコを支えるものであり、そういった意味でコケのボランチ起用は失敗だった。

ただ、アトレティコにおけるコケの重要性は明らかだ。昨季、チャンピオンズリーグ・グループステージ第3節カラバフ戦(0-0)の直前に負傷したコケは、そこから6試合を欠場した。その間、アトレティコは4分け2敗と未勝利に終わっている。チャンピオンズリーグでは格下と見られていたカラバフ相手に、まさかの2試合連続ドローを演じ、それが響いて同大会から姿を消すことになった。

■ロドリという新戦力

コケはアトレティコのキープレーヤーである。だが彼はボランチとしては機能しなかった。そこで加入したのが、ロドリだ。

アトレティコは、ロドリの再獲得に、移籍金固定額2000万ユーロ(約25億円)を支払った。かくして、今夏ビジャレアルからアトレティコへの復帰を果たしたカンテラーノは、すぐさま指揮官とアトレティコスの心を掴んだ。

象徴的だったのは、9月15日に行われたリーガ第4節エイバル戦だ。0-0で迎えた71分に、シメオネ監督はロドリを下げ、ボルハ・モレノを投入した。この交代策に対して、本拠地ワンダ・メトロポリターノの観衆から猛烈なブーイングが浴びせられたのである。

アトレティコスの予感は当たった。ロドリが先発から外れたチャンピオンズリーグ・グループステージ第3節のボルシア・ドルトムント戦で、アトレティコは0-4と大敗している。この試合後、ロドリのスタメン落ちについて質問を受けたシメオネ監督は、「ロドリを投入してから、3失点したんだ」と皮肉交じりに答えた。

だがロドリの貢献度は計り知れない。2017-18シーズンのリーガにおけるボール奪取数ランキングを見ると、彼の特徴がよく分かる。1位ロドリ(320回)、2位ルベン・ペレス(311回)、ダニ・パレホ(300回)、ロボツカ(289回)、イジャラメンディ(285回)と突出した数字を残している。

■クアトリボーテ

ロドリの存在で、サウール、トーマスが、より攻撃に参加できる。ロドリは攻撃時にビルドアップの「スタート地点」になる。サウールとトーマスは「二列目の飛び出し」でゴールを狙う。この相互作用が働いているのだ。

トーマスは、シメオネ監督の「発明品」と言って差し支えないだろう。サイドバック、センターバック、セントラルハーフ、ボランチ、サイドハーフ、トップ下、セカンドトップ...。シメオネ政権でトーマスほど複数ポジションをこなしてきたのは、現所属メンバーではサウールくらいである。指揮官の規範に則る、代表的な選手だ。

今季のアトレティコは縦型ボランチ、あるいは3選手がボランチになる可変システムを採り入れながら、戦ってきた。その次の段階ーーそれがクアトリボーテ(4人のボランチ)である。ロドリ、トーマス、コケ、サウール。この4選手を中盤に並べる形だ。

直近の試合で言えば、試金石となり得るのがチャンピオンズリーグ・グループステージ第4節のボルシア・ドルトムント戦(2-0)だ。この試合のアトレティコのポゼッション率は31%で、シュート数は16本、GKヤン・オブラクのセーブ数はゼロだった。非常に奇妙なデータである。

大敗したグループステージ第3節のドルトムント戦(0-4)では、ファルソ・ヌエベに入ったマリオ・ゲッツェに苦しめられた。第4節のドルトムント戦においては、その役割を担ったマルコ・ロイスを止められるかどうかが鍵だった。ロドリの背後を、ロイスに取られてしまえば、劣勢を強いられる。だがトーマス、サウール、ロドリで中盤のゾーンをうまくカバーし合いながら、今季それまで公式戦9得点7アシストと好調だったロイスを完全に封じ込めた。

中盤にボランチ型の選手を多く起用すれば、守備面を強化できるという目処が立った。問題はそれをバルセロナ戦で使うかどうか、である。

「ポゼッションは勝利を確約しない」というのが、シメオネ監督の口癖だ。しかしバルセロナは、そのポゼッションを核に据えたスタイルで挑んでくる。スペース対ポゼッション。アトレティコが勝つためには、スペースを支配する必要がある。クアトリボーテで、その目的を果たすのか。現在のアトレティコの真価が問われる一戦になりそうだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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