チームにもたらす絶妙なバランス。ブスケッツの頭の中に描かれる「地図」
「ブスケッツ? 誰だ、それは?」
セルヒオ・ブスケッツの、リーガエスパニョーラデビュー戦。対戦相手のラシン・サンタンデールで、当時監督を務めていたフアン・ラモス・ロペスはつい口走った。
ジョゼップ・グアルディオラ監督の手によってトップチームに引き上げられたブスケッツは、2008-09シーズンのリーガ第2節ラシン戦でスタメンに名を連ねた。開幕節でヌマンシアに敗れ、初陣を勝利で飾れなかったジョゼップ・グアルディオラ監督には、少なからず焦りがあったのだろう。自分の色を打ち出すため、カンテラーノの登用を決めたのだ。
■バルサの「4番」
ブスケッツに与えられたのは「4番」のポジションだった。グアルディオラやシャビ・エルナンデスが、プレーしたポジションである。プレッシャーがなかったはずはない。だが彼は飄々と、淡々と、自身の仕事をこなしていた。
バロンドールの最終候補に、名を連ねた過去はない。バルセロナの背番号5のユニフォームは、売り上げのトップ10に入っていないとさえ言われている。ツイッターやインスタグラムのアカウントは有していない。
それでも、対戦した相手や指揮官は一堂に彼を称える。「ブスケッツはすべての面で良いプレーをする」と語ったのは、アトレティコ・マドリーを率いるディエゴ・シメオネ監督である。
「以前、グアルディオラと話をする機会に恵まれてね。話題に上がったのは、ブスケッツだった。メッシ、シャビ、イニエスタ...。大衆は彼らを称賛する。テレビでは、ブスケッツに注目が集まることは決してない。しかし、ブスケッツは常にチームを機能させるためにプレーしているんだ」
「大衆はそういった認識を持たない。だが我々、フットボールの理解者たち...少なくとも、フットボールの理解者になろうと努める人たちは、ブスケッツのような選手が解決策になるのだと知っている」
■新加入のボランチとの競争
ヤヤ・トゥーレ、ハビエル・マスチェラーノ、アレクサンドル・ソング...。数多の名ボランチが、バルセロナを訪れた。だが誰一人として、ブスケッツからポジションを奪えなかった。
難しいプレーを、簡単にやって見せる。頭の中には、まるでピッチの地図が描かれているようだ。虚栄心にまみれた現代フットボールの世界で、欲にまみれず平常心を保っている。
リオネル・メッシやアンドレス・イニエスタをはじめ、技術に優れた選手とピッチの至る所でトライアングルを形成する。試合を読む力は図抜けており、絶妙なタイミングでタクティカル・ファウル(戦術的ファウル)をする。妙技を競うようなチームでこそ、彼は輝きを放つのだ。
ペドロ・ロドリゲスと並び、グアルディオラ監督の手で最高級の選手に仕立て上げられたカンテラーノとして名を馳せるブスケッツだが、バルセロナ育成機関の最高傑作、というわけではない。ブスケッツがバルセロナのカンテラに入団したのは、ユース年代の頃だ。11歳で入団したシャビ、12歳で入団したイニエスタ、13歳で入団したメッシに比べれば、入団時期は非常に遅い。
しかしながら、彼にはフットボーラーのDNAが流れている。父親は元プロ選手で、現役時代はGKを務めた。アンドニ・スビサレッタの控えだったとはいえ、故ヨハン・クライフが率いた「エル・ドリームチーム」の一員だった。
何度監督が交代しても、「MSN」が形成されても、3-4-3が施行されたとしても、アンカーのポジションには、常にブスケッツがいた。メッシを除けば、これだけ長い間レギュラーであり続けているのは、ブスケッツだけ。その才能は、「生まれ変わるならブスケッツのような選手になりたい」とグアルディオラ監督に言わしめたほどだ。
そして、実は後輩、若いカンテラーノの面倒見がいいことでも知られている。将来的には、バルセロナの主将に。イニエスタ以上に「地味」なキャプテンの誕生が、近づいているのかもしれない。