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ベルギーとの激闘を終えて。日本がW杯ベスト8進出という目標を現実的に捉えるために。

森田泰史スポーツライター
日本代表(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

果たして、日本は成長したのかーー。それが問題だ。

ロシア・ワールドカップの2カ月前に、ヴァイッド・ハリルホジッチが解任。日本サッカー協会の田嶋幸三会長は西野朗監督を後任に指名した。

ハリルホジッチ前監督がダメだったとは、いまをもってなお、まったく思わない。そして、日本サッカー協会のやり方は杜撰だったという考えも変わらない。むしろ、今回の結果が、あの一連の騒動をうやむやにしてしまうのではないかという危機感がある。

あの解任劇は正しかったのか、と聞かれれば、疑問だ。日本は大会前に指針を失った。勝利した初戦コロンビア戦の2得点はカウンターとセットプレーから挙げたもので、ハリルホジッチの遺産だった。前指揮官が掲げたサッカーからの脱却がロシアで示されたようには見えなかった。

ポゼッションとカウンター、本来これは切っても切り離せない関係にある。相手との力関係に応じて、使い分けが求められる。スペインやブラジルのようにタレントを揃えるチームであればスタイルを確立するのも可能であるが、日本はどちらかと言えば今大会躍進したメキシコやクロアチアのように、ポゼッションとカウンターを織り交ぜながら戦うべきだ。

ハリルホジッチ前監督が志向していたサッカーが、この考え方に逆行していたとは、個人的には思っていない。

W杯というビッグトーナメントを前に、大きな変化や刺激を必要として監督交代に踏み切ったのなら、まだ決断は尊重できる。ただ、先に述べたように、そのやり方は杜撰だった。少なくとも、ハリルホジッチ前監督が納得する理由を協会は提示しなければいけなかった。

そして、日本の方向性としては、ハリルJAPANのサッカーをどう捉えるかを考える必要がある。つまり、「弱者の兵法」として、相手にボールを譲りながら好機を伺うという戦い方は間違っていない。だが、それを過剰にやれば、内部(選手)や外部(メディア・ファン)に少なからず「アレルギー反応」を起こす者が出てくる。ピッチ内での感覚や、見ている人に与える印象をないがしろにはできない、というのがこのケースでよく分かった。そこを無視して、世界を相手に守ってカウンター一辺倒のサッカーをすることは、もはや日本にはできない。

西野ジャパンの功績は称賛されて然るべきだ。2大会ぶりのベスト16進出の意味は少なくない。南アフリカ大会後、長友佑都、内田篤人、川島永嗣、岡崎慎司が続々と海外に移籍した。今後4年の強化を考えると、今回の成績は必ずプラスに働く。

南アフリカ大会を境に、海外組が増え、日本のサッカーは変わった。だが、その時に副作用が起こった。本田圭佑、長友たちがW杯の「優勝」を公言する。本田に関しては南アフリカW杯前からだったが、特筆すべきはメディアが彼らの発言に「乗っかる」形で優勝への道を辿ろうとしていたことだ。ではなぜ、メディアは本田や長友の優勝宣言に便乗していったのだろうか。それはまさに、海外コンプレックスの裏返しに他ならない。

本田がチャンピオンズリーグでレアル・マドリーと対戦したり、長友がインテルでレギュラーになったり、香川真司がボルシア・ドルトムントで活躍してマンチェスター・ユナイテッドに移籍したり、というのは、我々にとってはある種未知の世界だった。昔は海外サッカーへの憧れこそあれど、そこでプレーするなど、夢のまた夢だった。ゆえに、その領域に達した選手たちの言葉を鵜呑みにしてしまう状況が出来上がった。2014年ブラジルW杯での惨敗は記憶に新しい。その方法論は完全に間違っていたのだ。

歴史を変える。それはモチベーションの一端であって、決して目的ではない。

日本はベスト8の「壁」にぶち当たった。そう言われている。世界の8強に入るのは、簡単ではない。だが「壁」という表現を濫用するのは好ましくないだろう。

今大会前には「日本らしさ」がやたらとフォーカスされた。だがしかし、突き詰めて考えれば、その日本らしさというのは、「一体感」に集約されるのではないだろうか。それは今大会の選手たちの言葉を紐解けば分かる。ベルギーをあそこまで苦しめた、その要因が、チームの一体感であり、団結力だったのだ。

ただ、一体感を武器に戦うかと言えば、違う。サッカーというスポーツで、武器になるのはスピードであったり、高さであったり、セットプレーであったり、攻撃力であったり、守備力であったりする。現存の選手と、これから出てくる選手で、個性に照らし合わせてチームの武器を見つけなければいけない。そこから逃げず、向き合う必要がある。「一体感を武器に」という概念で4年を過ごせば、再びベルギーのようなチームにやられてしまう。

チームの発展を促すのは、個々の選手の成長である。常時チャンピオンズリーグに出場するようなチームでスタメンを張れる選手が、11人の中に5人は欲しい。無論、多ければ多いほど、いい。

乾貴士はエイバルで鎬を削り、実力でベティスに移籍する権利を勝ち取った。酒井宏樹は今季のヨーロッパリーグで決勝まで勝ち進んだマルセイユで定位置を奪取した。彼らは4年前に期待されていた選手ではない。だが、今大会の活躍は目を見張るものがあった。

CLレベルの選手が揃い、一体感のあるチームになれば、ベスト8進出は十分に可能だ。今大会で、その道筋は、見えた。

悲観する必要はないだろう。だが、いまは検証の時だ。4年後に、同じ過ちを繰り返してはならない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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