なでしこジャパンがW杯出場権を懸けアジア杯に挑む。永里亜紗乃と語った、代表のいま。
6日からアジアカップが始まる。2019年フランス・ワールドカップ(W杯)出場権を懸け、なでしこジャパンはアジアでの戦いに挑む。
ヨルダンで行われるアジア杯で、5位以内に入れば、W杯出場を決められる。グループAとグループBに分けられたグループステージで上位2チームになれたら、世界への切符を獲得できる。グループ3位でも5位決定戦に回って戦えるので、条件は厳しくないように見える。
内容と結果。今回のアジア杯でなでしこに求められるのは、それだろう。「決戦」を前に、代表経験がある永里亜紗乃に話を聞いた。
■代表という場所
2016年4月に現役を退いた永里は、現在解説者としても活躍している。時には厳しいことも言う。だが、それには理由がある。
「自分も代表に憧れていました。代表に行きたいから頑張る、じゃないですけど、すごく行きたい場所だったんです。だから、その価値を下げたくないという思いはあります」
「私が代表に行っていた頃は、強烈な人がたくさんいたので(笑) でも、みんな、レベルは高かったです。そういう選手たちと一緒にプレーできるのは嬉しかった」
「初めて代表に入った時に、ヨーロッパ遠征に行って、そこでドイツやフランスと試合をしたんですけど、尋常じゃないスピードの選手とかが対戦相手にいて。何もできないまま遠征が終わって。この差を埋めるにはどうしたらいいのか、と、絶望感を味わうくらいで...。これじゃマズいな、と思ったのをよく覚えています」
■チームの軸となる戦術は
昨年12月のE-1選手権で2勝1敗。今年3月のアルガルベ杯で2勝2敗。悪い成績ではない。
ただ、現在のなでしこの試合を見ていると、落ち着かない印象を受ける。行き当たりばったりの攻撃と守備に終始して、チームに軸がない。その軸となるはずの、確固たる戦術が浮かび上がってこない。
攻撃では、個の力に頼る部分が大きい。守備の面では、奪い所がハッキリとしない。この違和感の正体とは、何なのか。そんな考えを巡らせていたところ、永里の口から意外な言葉が紡ぎだされた。
「佐々木(則夫)監督の時は、守備ができない選手は使われなかったんです。監督には自分の中で『こう行く』という守備の戦術がありました。それに当てはまらない選手は起用されなかったですね」
あの頃のなでしこは、美しいパスサッカーが持て囃されていた。だが、その実、当時のチームには「守備から入る」というコンセプトがあったのだ。
守備から入る。得点はセットプレーやカウンターからでもいい。佐々木前監督は世界に勝つために、そこまで割り切っていたようだ。
■サイズの差とフィジカルの違い
割り切るほどの戦術が、あるかどうか。そこに、もうひとつ、懸念材料を挙げたい。フィジカルの問題である。
E-1選手権の中国戦。中国のスタメンの平均身長が169cmだったのに対し、日本は160cmだった。自ずと、パワーで押し切られる場面は多くなった。
選手選考の問題で、選手配置の問題だ。
ただ、ロンドン五輪の準優勝メンバーのスタメン平均身長は、162cmとそれほど高くなかった。しかしながら、当時は「工夫」でこの課題を乗り越えていた。
永里は「佐々木監督の時は、攻守において、絶対2人以上(2対1)を作るということが決まっていたんです。逃げ道があるから、相手選手と当たらずに済んだのだと思います」と明かす。
「みんなでやろう、というのがあったんですよね。周りのサポートやフォローがあるから、球離れが早かった。だから相手と当たらずにやれたんだと思います」
「今はアピールしたいのもあるのかもしれないですが、1対1で仕掛けて、相手選手とぶつかる局面になってしまっている気がしますね」
■比較対象は過去ではなく世界
これは過去との比較から答えを導き出そう、という話ではない。そこは勘違いしてはいけないところだ。
世界との本気の勝負を考えた時に、戦術やチームの軸があるのは、マストである。なぜなら、列強国にその部分が欠落しているなどあり得ないからだ。それありきで、バリエーションや交代策によって試合を動かす作業が可能になる。
佐々木監督率いるなでしこには、その術があった。今のなでしこは、どうか。世界と戦う術を備えているか。アジア杯は試金石となる大会だ。
「なでしこ2.0」を、アジア杯で見せてもらいたいーー。そう願う人たちは、決して少なくないはずだ。