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柴崎岳と乾貴士。スペイン人記者が語る、リーガ1部で戦う2人の現状。

森田泰史スポーツライター
ヘタフェ対エイバル試合前の乾と柴崎(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

リーガエスパニョーラ1部の2017-18シーズン前半戦が終了した。シーズン後半戦を初めて日本人選手が2人以上プレーする状況で迎える。

乾貴士(エイバル)と柴崎岳(ヘタフェ)。彼らは「鬼門」とされたリーガで、着実に指揮官とチームメートの信頼関係を築き、出場機会を確保している。

だが実際のところ、現地で彼らはどう見られているのか。スペイン紙『マルカ』のエミリオ・コントレラス記者に話を聞いた。

■注視するマーケットはブラジルとアルゼンチン

「まず、ひとつ明確にしておきたい。スペインでは、国外のマーケットに目を向ける時、最初に見るところがある。それはブラジルとアルゼンチンのマーケットなんだ。

フットボールの核となっているのは欧州の国々だ。スペイン、ドイツ、イタリア、フランス、ポルトガル、オランダ...。それ以外の国では、ブラジルとアルゼンチンに注目する。これまで偉大な選手を輩出してきたし、多くのタイトルを獲得してきたからね」

リーガ1部の歴史を紐解けば、明らかになる事実がある。

「リーガエスパニョーラで成功した選手を振り返ると、ブラジルあるいはアルゼンチン出身以外の選手を見つけるのは非常に難しい。アフリカ出身でトップレベルで活躍した選手はいない。メキシコはウーゴ・サンチェスくらいだ。

アジアのマーケットは、我々にとってはエキゾチックなんだ。日本、韓国、中国...。いずれもフットボールの核となっている国ではない」

■エイバルで主力になった乾

「最初に来たのはジョーだね。覚えているよ」と言うエミリオ記者は、「例えばイタリアや東欧の選手だったら、素早く適応する。言葉も似ているし、それは大きな助けになる。日本から来た選手には、当然ながら困難が伴う。言葉は大きな壁だ。スペインでは、それほど英語が通じないからね」と問題を指摘する。

エミリオ記者が正しく記憶しているように、初めてリーガ1部の舞台に立ったのは城彰二である。城は2000年1月にバジャドリー移籍を果たし、15試合に出場した。

城以降、9選手がリーガ1部に挑戦した。西澤明訓、中村俊輔(エスパニョール)、大久保嘉人、家長昭博(マジョルカ)、指宿洋史、清武弘嗣(セビージャ)、ハーフナー・マイク(コルドバ)...。

そして、初めての成功例となったのが、乾だ。

乾はここまでエイバルでリーガ76試合に出場している。マジョルカ時代に大久保が記録したリーガ1部日本人最多出場数(39試合)の倍近くの試合に出場しているのだ。

エミリオ記者は語る。

「イヌイは良い意味で我々を驚かせてくれた。私自身、彼のプレーがすごく好きだよ。彼のスペインでのファーストシーズン、そう、相手はヘタフェだったな...(対峙した)ダミアン・スアレスを混乱に陥れていた。

ダミアンは削り屋として有名だ。だがイヌイはファンタスティックだった。彼は1対1に強く、突破力がある。質の高いパフォーマンスを続けている。エイバルにとって、素晴らしい補強だったのではないか」

エミリオ記者が「イヌイの功績は大きい」と認めるように、乾はリーガで大きな一歩を踏んだように思う。そんな乾でも、当初はエイバルの守備戦術を理解するのに苦しみ、ホセ・ルイス・メンディリバル監督の下でなかなか定位置を奪取できなかった。

「メンディリバルはイヌイの選手としての資質を最大限に引き出した。選手に多くを要求して、プレッシャーをかける。しかし、それはその選手を信頼しているからだ。彼に進歩を促した。イヌイはメンディリバルの指導で大きく成長した。

エイバル、ヘタフェ、レガネス、ジローナ...。そういったチームでは規律が求められる。守備の強固さを売りにしているからだ。彼ら相手に、決定機を多く作り出すのは難しい。だから選手たちは、監督のメッセージを汲み取らなければいけない。それができなければ、試合に出ることは困難だろう」

■2部から1部にステップアップした柴崎

乾が切り拓いた道に、柴崎が続いた。2016年12月に行われたクラブ・ワールドカップ決勝でレアル・マドリーから2得点を挙げた柴崎は、その活躍で注目を集め、2部テネリフェへと移籍した。

柴崎はテネリフェ加入当初こそ適応に苦しんだ。しかし、環境に慣れるに従って本来の力を示していった。ビッグマッチで結果を出す勝負強さは彼の大きな特徴だ。昨季1部昇格プレーオフで決勝まで進んだテネリフェだが、柴崎が原動力となったのは間違いない。

「私が驚いたのは、ガクが日本で一番の選手ではなかったということだ」(エミリオ記者)

その柴崎に興味を抱いたのが、テネリフェを下して1部昇格を決めたヘタフェだった。昇格1年目で残留を至上命題としたヘタフェは、ホセ・ボルダラス監督の意向に沿う形で柴崎の獲得を決めた。

「ボルダラスは昨季、ほとんど2トップシステムを使わなかった。ボルダラスは守備的なボランチを2枚置いて、その前にスピードのある選手、クリエイティブな選手を3枚置くシステムを好む。また、昨季はサイドにドリブルが得意な選手、アルバロ・ヒメネスとダニ・パチェコを置いていたんだ。

そんな中でガクはセカンドトップに据えられている。ホルヘ・モリーナはポストプレー、アンヘルはスピードを持ち味としている。ガクのような選手がいると、確かに彼らは快適にプレーできる」

昨年9月16日に行われた第4節バルセロナ戦で負傷した柴崎だが、12月9日の第15節エイバル戦で実戦に復帰した。今年1月12日の第19節マラガ戦以降、第20節アスレティック・ビルバオ戦、第21節セビージャ戦で3試合連続スタメンに名を連ねた。

「ガクはポジションを確保していると言っていいだろう。例えばアスレティック戦でのガクは良くなかったが、それでもボルダラスは彼に対する信頼を示し続けている」

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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