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バルサ退団を決断したマスチェラーノ。ゴールできずともバルセロニスタに愛された男。

森田泰史スポーツライター
PKで唯一の得点を記録したマスチェラーノ(写真:ロイター/アフロ)

記録より、記憶に残る選手だった。

ハビエル・マスチェラーノが、バルセロナ退団を決めた。今季エルネスト・バルベルデ監督の下でCBのレギュラーポジションを失っていたマスチェラーノだが、ついに7年半のバルセロナでの生活に終止符を打ち、新たな挑戦に向かう決意を固めている。

24日には公式会見を開き、「夢が終わりを迎えた」と涙ながらに語った。「以前の自分の姿ではない」。これまで同様、誠実に自身の現状を受け入れ、移籍が最善だと判断したのだ。

■グアルディオラの発案でコンバート

バルセロナは2010年夏に移籍金2400万ユーロ(約32億円)でリヴァプールからマスチェラーノを獲得。当初、マスチェラーノはアンカーの選手として考えられていた。

だがセルジ・ブスケッツを「あのポジションで世界一の選手」と言って憚らないマスチェラーノは、ジョゼップ・グアルディオラ監督に課された使命を果たしていくことになる。バルセロナでは、アンカーではなくセンターバックとしてプレーする。それがマスチェラーノに与えられたミッションだった。

ブスケッツのようにバルセロナのオートマティズムを理解しておらず、ヤヤ・トゥーレほどフィジカルに優れているわけでもない。アンカーとしてのデビュー戦で、当時昇格組だったエラクレスに本拠地カンプ・ノウで0-2と敗れたことも、不運だった。

■CBでの成功を確信した瞬間

変化のきっかけとなった試合がある。2010-11シーズンのチャンピオンズリーグ決勝トーナメント第2戦のアーセナル戦だ。この試合でCB起用されたマスチェラーノはバルセロナを救うプレーを見せる。

アーセナルからリードを奪っていたバルセロナ(2試合合計スコア4-3)だが、終盤にピンチを迎えた。高い位置でボールを奪取したジャック・ウィルシャーが、二クラス・ベントナーにスルーパス。抜け出したベントナーが、GKビクトール・バルデスとの1対1に向かう。そこで懸命に戻ったマスチェラーノがスライディングでブロックして、バルセロナは失点を防いだ。

マスチェラーノのスライディングタックルで危機的状況から脱したバルセロナは、アーセナルを下した。そして、そのままCLで勝ち上がり、決勝でマンチェスター・ユナイテッドを沈めて優勝を成し遂げた。マスチェラーノ自身、あのプレーでCBでやっていけるという自信を得たと、のちに認めている。

■334試合出場18タイトル獲得で1得点

ただ、ゴールとは無縁の男だった。

マスチェラーノはバルセロナ移籍後、318試合(25788分間)無得点だった。それを打ち破ったのが、2016-17シーズン、4月26日に行われたリーガ第34節オサスナ戦(7-1)である。

5-1とバルセロナがゴールラッシュを記録していた試合で、デニス・スアレスがオサスナDFに倒されてPKを獲得すると、本拠地カンプ・ノウの観衆は「マスチェラーノ・コール」を鳴り響かせた。「渋々」といった様子でPKスポットに向かったマスチェラーノは、豪快なキックでゴール中央にシュートを放ち、ネットを揺らした。

バルセロナ在籍7年半で334試合に出場して18タイトルを獲得したマスチェラーノ。バルセロナでの唯一の得点が、あのPKだった。

■バルセロニスタの愛

それでも、バルセロニスタはマスチェラーノを愛していた。これほどまでに得点を記録せずに、バルセロニスモを鷲掴みにした選手は記憶にない。

「試合に定期的に出なければいけない。この数年、負傷が重なっている原因はそこにある」。マスチェラーノは昨年、母国メディアに心境を吐露していた。試合勘の鈍り、コンディションの悪化、調整の難しさ。多くの要因が重なり、気持ちは移籍に傾いた。

しかし、マスチェラーノの野心が潰えたわけではない。母国アルゼンチンで悲願のワールドカップ制覇をーー。Jefecito(ヘフェシート)、「ボス」の愛称で親しまれる男は、ロシアに転がるラストチャンスを見据えている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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