ネイマールは「禁忌」を破ってしまうのか。強烈な威力を放つ、レアル・マドリー移籍という媚薬。
騒々しい夏を終えたばかりだというのに、もう次の話題だ。
ネイマールのパリ・サンジェルマンへの移籍は驚きの決断であった。昨年契約を延長した際に2億2200万ユーロ(約286億円)という、破格の契約解除金を設定してバルセロナは安心しきっていた。
そこを資金潤沢なクラブに付け込まれた。大金を積めばトップクラスの選手が獲得可能であるとの事実を、世界中が目の当たりにしたのである。
■大人になったネイマール
ネイマールはもう、子供ではない。リオネル・メッシ、ルイス・スアレスという「後見人」を失ったとしても、新しい場所で成長できる。彼は、そう確信したからこそ移籍を決めたはずだ。
バルセロナでは、時に横暴な振る舞いでさえ、許された。経験豊富な選手に窘められ、トッププレーヤーの何たるかを、少しずつ学んでいた。
バルセロナでチームが落ち込めば、批判されるのはメッシだった。だがパリSGでは、そうではない。移籍して初めてネイマールはその重圧の大きさを知ることになった。
最近フランスではパリSGの内紛が盛んに報じられている。ネイマールがウナイ・エメリ監督やエディンソン・カバーニと問題を抱えている、というものだ。
ネイマールは先日、代表戦後の公式会見で報道を自ら否定した。「僕に関する嘘はやめてくれ。エメリとも、カバーニとも、問題はない」。ネイマールはブラジル代表のチッチ監督に擁護されると、その場で泣き崩れてしまった。
■レアル・マドリー移籍の噂
ネイマールがパリで不満を抱えているとの報道が熱を帯びるにつれ、移籍の噂が立ち上る。そこで、あるクラブの存在がクローズアップされる。レアル・マドリーである。
マドリーはかつて、ネイマールを狙っていたことがある。2012年から2013年にかけて、当時サントスに所属していた「ブラジルの至宝」に対する関心を強めていた。このマドリーの関心が、バルセロナのネイマール獲得への動きを強めたといわれているほどだ。
バルセロナはネイマール獲得に際して、少なくないリスクを冒した。結果としてサンドロ・ロセイ前会長は辞任に追い込まれ、現在も裁判が続けられている。当初5700万ユーロ(約74億円)と伝えられた移籍金は積もりに積もり、最終的にバルセロナは1億ユーロ(約133億円)前後を費やすことになったとされる。
元実業家であるマドリーのフロレンティーノ・ぺレス会長は、優秀なビジネスマンである。ネイマールをバルセロナに攫われた2013年、彼はこんな風に話している。
「ネイマールの家族、所属クラブであるサントス、彼の保有権を40%有する代理会社と交渉しなければいけなかった。それに加えて、彼の年俸を払うんだ。獲得総額は1億5000万ユーロ(約195億円)を下らなかっただろう」
■契約解除金の有無が鍵に
その後のバルセロナの裁判騒動を見れば、ペレス会長が正しかったと分かる。だが、だからこそ、マドリー会長は次にネイマール獲得のチャンスが出てきた際、合理的な判断でプラスが見込めれば獲得に踏み切るのではないかという疑念が湧いてくる。
しかし、ネイマール獲得は簡単にはいかないだろう。鍵を握るのは、「契約解除金」だ。
フランスでは、選手とクラブ間の契約に契約解除金が存在しない。現にパリSGは今夏、バルセロナが狙っていたマルコ・ヴェッラッティの放出を頑なに拒み、彼の残留を成功させた。
いくら積まれても、選手は売らない。選手との契約年数を残している限り、決定権は現所属クラブにある。パリSGのナセル・アル・ケライフィ会長 はそのセオリーを決して破ろうとしない。
11月の時点で、この有り様だ。今季パリSGがチャンピオンズリーグで優勝できず、ブラジル代表がワールドカップ制覇を逃せば、来夏再びネイマールの周囲は騒がしくなるだろう。
■選手を誘う甘く仄かな香り
そうなれば、マドリーが有力な移籍先候補になるのは間違いない。巨額の移籍金、高額な年俸、タイトル争いを確約できるクラブという条件を掲げれば、真っ先に挙げられるのはマドリーである。
元ブラジル代表のロナウドは、バルセロナのホセ・ルイス・ヌニェス当時会長に契約更新を約束しておきながら、インテルに移籍した。さらにインテルを「橋渡し役」として、マドリーへの移籍を実現させた。
ルイス・フィーゴの例は語るまでもないだろう。過去、不思議な引力に引っ張られるように、数多の名手がマドリー移籍を果たしてきた。それは媚薬のようなものだ。その甘く仄かな香りが、ネイマールを襲おうとしている。